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二人で、目の前に流れる川のそばまで船を運んだ。流れに乗せると、あっという間にもっていかれそうだ。
ジョッシュが言った。
「まず船の前の方だけ川に下ろす。僕がそこに飛び乗るから、ティムはそれを見たら、すかさず蹴り出して後ろ側に飛び乗って。その後は船の両側の縁をしっかり掴んで、できるだけ体を低くして板にくっつけるようにしててくれる?」
「ジョッシュはどうするの?」
「僕も同じように体を下げるよ。だけど川の流れを見て、左右に重心を移すから、後ろで同じように体を寄せてほしいんだ。そうすれば、思った方向に船が曲がるから」
なるほど・・・まあ、そんなに簡単な話じゃないとは思うが、とにかく理屈はわかった。
「いい?行くよ!」
そういうと、ジョッシュは船の先を川面に下ろした。そして、弾みをつけてジャンプした。それを見た僕も、無心で船の後方に飛び乗った。僕たちの体は一気に流れにもっていかれ、恐ろしいスピードで川の上を流れていった。ジョッシュは体を低く沈め、前が見えるように頭だけ少し浮かせている。僕も同じ姿勢になり、彼の頭だけを見続けていた。彼が体を左に寄せれば、僕もすぐに左に傾ける。右に寄れば、僕も右に。時折、波に乗るように激しく船が上下し、大きな水しぶきが上がった。水が僕たちの体を丸ごと覆うようにかぶさることも一度や二度ではなかった。そのたびにこの船が転覆するのではないかと思ったが、川の流れに押し上げられて船が宙に浮いても、ジョッシュはうまい具合にバランスを取って川面に着水するのだった。まわりの景色を見る余裕はまったくなかったが、切り立った崖の間をまるでジェットコースターのように下っているのはわかった。右へ左へ、そして上へ下へ。その動きを何度も何度も繰り返した。いったい、いつになったら湖に出られるのか、想像もつかなかった。
そのうち、両側の葦の木をつかんでいる手に力が入らなくなってきた。これまで緊張したまま、ずっと強く握り続けていたので握力がなくなってきたのだ。二の腕がこわばってつりそうだった。
何度、右へ左へと蛇行を繰り返したことだろう。次々と現れる巨大な岩壁をよけるように船の向きを変え、上下動を繰り返しながらどんどん流されていった。やがて向かう先に、開けたように灰色の空が広がるのが見えた。もう少しだ。ただ、僕の腕の力はもう限界だった。前で舵を取るジョッシュが体を左右に寄せるのに段々ついていけなくなり、タイミングがずれるようになってきた。船尾が大きく振られる。もう一息だ。辛抱して、頑張って力を入れないと・・・。気持ちはそう思うものの、なかなか体がついていかない。そしてついに、ジョッシュが体を左に寄せたときに、僕の体が右に取り残され、船が大きく反転した。
「あっ!」
僕たちは二人して大声を出した。船の向きは戻ることなく、それどころか反転した勢いでくるくると回り始めた。もうどこに向かって進んでいるのかすらわからなかった。ただ、急流に流されていくだけだった。そして、川面が急に下がったところで船は宙に放り出され、その勢いで転覆してしまった。
二人の体は投げ出された。僕は溺れないよう、必死になって顔を上げようとした。激しい水の流れで、泳ぐどころではない。流れに身を任せ、とにかく岩など周りのものにぶつからないよう注意を払った。この勢いで岩にぶつかったりしたら、ひとたまりもない。
しばらくすると川幅が広がり、急に流れが緩やかになった。谷を抜けたのだ。そこは湖の端だった。僕は湖畔で岩が平らになったところを見つけ、必死になって泳いでいった。そして岩によじ登った。
川の水が口に入ったので、両手をついて下を向き、何度も咳き込んだ。しばらくの間、ゼーゼーと大きく肩で息をしていたが、やがて落ち着いてきた。
“助かった・・・”
あの流れを乗り切ったことが、自分でも信じられなかった。これは奇跡だ。
だが、その時ハッと気がついた。ジョッシュはどうしただろう?




