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ジョッシュのアーチ  作者: Tom Openrange
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気がつくと、雲が空を覆っていた。それも色が段々と濃くなっている。先を急がないと・・・ 。

ジョッシュも同じことを考えていたようで、腰を上げ、「さあ、行こうよ」と僕に声を掛けた。

さて、ここからどうやってアーチの下まで行くのだろう?僕はもちろんのこと、ジョッシュも何か道具を持っているようには見えない。

そう考えていると、ジョッシュは、ちょうど僕がもたれかかっていた土砂の斜面に足をかけ、体を壁側に預けながらゆっくりと登り始めた。どうやら踏みしめた土砂を足場にして、岩壁をジグザグに登るらしかった。

かなり急な斜面だが、ジョッシュはあっという間に上の方まで登っていってしまった。いや、彼が速かったのではなく、単に僕が遅かったのだ。転落するのが怖かったので、彼が付けた足跡をたどりつつ、一歩ずつ慎重に足場を確認しながら登った。そんな僕を見て、ジョッシュが崖の上の方から声をかけてきた。

「ティム、ゆっくりでいいから落ちないでね!」

「ああ。昼寝でもしながら待ってて」

冗談のつもりで返したが、実際にはそんなことを言ってる余裕はなかった。僕が斜面を登っている間に、時折、空から雨粒が落ちてきたように感じたからだ。

そのうち、慣れもあってか意外と早く進むことができるようになった。どこに足を置くと崩れないか、石や砂の様子を見て瞬時にわかるようになってきたのだ。

やっとのことで登りきり、僕を待っていたジョッシュに追いついた。崖の上では、巨大な岩壁がすぐ目の前にそびえ、スティーブンズ・アーチに向かって半円状に湾曲しながら連なっていた。僕たちは、その岩壁に沿って崖の上を歩いて行った。大きな石が転がる足元を気にしながら時折アーチの方に目をやると、巨大な穴が徐々に迫ってくる。その大きさに圧倒された。最初に正面から見たとき穴は横長だったが、崖に沿って脇から近づくと徐々に縦長になり、アーチの高さが一層、際立って見えた。


挿絵(By みてみん)


アーチの真下に着くと、ジョッシュは迷うことなく一番奥、つまり正面から見て左手の方へと進んでいった。穴はゆがんだ楕円形をしており、両端の下の部分は少しせり上がっているのだが、その斜面を登っていくのだった。

「あー、やっぱり」

ジョッシュが大きな声を出した。「ここだったよ、ティム」

「何が?」

「石積みが崩れていた場所さ。このアーチは大きいからね。石積みが崩れると影響も大きいんだ」

僕も転がっている岩をよけながら、彼がいるところへ慎重に登って行った。

「これだよ」

彼は指差して教えてくれたが、どの石なのかわからない。

「ごめんジョッシュ、僕にはどれも同じ石に見えるよ。どれが崩れたんだい?」

彼は地面から3つの石を取り上げた。大きさはまちまちで、中くらいのものと大きいものとは、少し平らな形をしている。言われてみれば、何となくわかる気もするが、僕一人でそれを見極めるのはとても無理だ。

「見ててよ」 ジョッシュはそういうと、3つの石を重ねた。そして、両手でそれらの石を覆うような仕草をし、右回り、左回りの順に、手のひらを下に向けたまま石をなでるように両腕を回した。僕は積まれた石をじっと見つめていたが、しばらくたっても、とても動くようには見えなかった。ジョッシュの顔を見ると、両目をつぶり、眉間にしわを寄せて何かを念じるように口元を動かしている。それは何かのおまじないでも唱えているかのようだったが、何を言っているのかは、わからなかった。


やがて彼の頭が震えだし、額から汗が流れ始めた。石の上でしきりに交差させる両手にも力が入り、小刻みに震えている。以前、長老に小石を回すのを見せてもらったときとは違い、風を送れるくらいの大きさの石を動かすには相当な集中力と忍耐力が必要なのだろう。その様子を見ていて、思わず僕は後ずさった。石を回すことは神聖な儀式であり、ひょっとしたら今ここに僕がいること自体、はばかられることなのではないかと思ったのだ。

しばらくすると、彼の顔は汗まみれになり、顎から汗がしたたり落ちた。必死に回す手にも汗が光っている。

そのとき、頭に冷たいものが落ちるのを感じた。ジョッシュが石を回そうとするのをじっと見ていたせいで、てっきり彼の汗が飛び散ったのかと思ったが、そうではなく雨が降り始めたのだった。空を見上げると、すっかり分厚い雲に覆われ、今にも大雨になりそうだ。ここで雨に降られると、さっき渡ってきた川を戻れなくなるのではないか・・・僕は不安になった。あれ以上、水かさが増すと、二人で腕を組んだとしても渡りきるのは不可能だ。濁流に飲まれ、流されてしまうだろう。


空に気を取られていたその時、なにかギシギシという音がした。僕は視線を石の方に戻した。そこでは、ゆっくりと石が回り始めていた。最初に一番上の小さな石が・・・しばらくすると2番目の石が逆方向に・・・そして、さらに一番下の石が、また反対方向に回り始めた。僕は思わずジョッシュの顔を見た。彼の額には皺が刻まれ、相変わらず目を閉じたまま必死に両手を動かしている。見ている僕も、ふと気がつくと両手で拳を握りしめていた。

しばらくすると彼は手を止め、そっと体の両脇に下ろした。ゆっくり目を開けながら、「ふぅーっ」と大きく息をついた瞬間、同時に石の回転が止まった。

「あーっ!」

僕は大きな声をあげ、反射的に石積みに向かって寄っていこうとしたが、それを遮るようにジョッシュが僕の肩を押し戻した。

「終わったよ」

僕の方を見て彼は言った。

「終わった、って?」

「もうこれで大丈夫。“内界”も元に戻るよ」

「なに言ってるんだよ。よく見てよ。石が止まっちゃったじゃないか」

僕が焦るのと反対に、ジョッシュの顔は、すっかりいつもの穏やかな表情に戻っていた。

「大丈夫。止まってなんかいないよ。ゆっくりだけど、回ってるさ」

それを聞いて思い出した。確かに、石の回転はゆっくりしたものだったのだ。ブロークン・ボウでもフィップス・アーチでもそうだった。一見したところ、回っているとはわからないからこそ、誰にも気づかれずに今まで回り続けることができたのだ。どうやら最初だけ勢いよく回り、安定するとゆっくりした動きになるということらしい。

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