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ジョッシュのアーチ  作者: Tom Openrange
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目の前には、緩やかに傾斜した砂地が広がっていた。足を取られて、少し歩きにくい。そのまま、まっすぐ歩いていくと、平坦な岩場に出た。遠くの方に、大きな渓谷を形成している急峻な崖が連なるのが見えた。今朝は青空が広がっていたが、いつの間にか雲が出始めて、今は空の大部分を灰色の雲が覆っている。岩の褐色と、空の灰色とが融合して、何とも不気味な雰囲気を漂わせていた。そのせいもあってか、僕は何か不吉なものを感じた。うまく表現できないのだが、ここに“内界”の気を乱す、根本的な原因があるような気がしたのだ。

そのまま黙々と歩いて行くと、やがて、その大きな崖の淵に辿り着いた。

そこから見える景色は、とても言葉では言い表せないくらい迫力のあるものだった。まるで巨大な円形闘技場のように、深い谷の周囲を、切り立った崖が取り囲んでいる。よく見ると、実際には谷底を流れる川がグースネックと呼ばれるガチョウの首のように蛇行しており、それに沿う形で谷が形成されているのだが、あまりに川の湾曲が激しいので谷全体が丸い形をしているように見えたのだ。

さらによく見ると、はるか遠く、僕たちが立っている場所の正面にそびえる岩壁に、横を向いた恐竜の頭のような形をした巨大な穴が開いていた。

「ほら、あれが“窓”だよ」ジョッシュが指差した。


挿絵(By みてみん)


それは、スティーブンズ・アーチだった。ここアメリカにおいては、6番目に大きなアーチだ。

とうとう最後の一つを見つけた・・・。これまでの苦労を思い起こすと、いろんな感情がこみ上げてきた。遠回りもしたが、やっと今、ジョッシュに会うことができ、一緒にここに立っている。何て素晴らしいことなんだろう。

だが、それと同時に、一つの疑問が湧いた。スティーブンズ・アーチは、岩壁の上の方に穴が開いている。アーチの下に石積みを置くとして、そこまでどうやって行くのだろうか? ピッケルでもなければ、あの壁を登っていくことはできないだろう。そもそも“内界”から来たジョッシュが、そのような道具を持っているとも思えない。僕は不安になった。

「さあ、行こう」

そんな心配をよそに、ジョッシュは先へと進み始めた。足元は切り立った崖だ。まさか、ここから飛び降りるんじゃないだろうな。僕にはとても無理だ。

そう考えていると、ジョッシュは右手の方へ進み始めた。よく見ると、今、自分たち立っている岩には崖と平行して大きな亀裂が入っていた。それはわずか50㎝ほどの隙間なのだが、その間に体を滑らせ、下りていくのだった。僕も慌てて後を追い、リュックを下ろして体を横に向けた。そして足場を確認しながら、ゆっくりと10mほどの距離を岩壁に体を押し当てながら進んだ。狭くて息苦しい岩の隙間を抜けると、砂が堆積してすり鉢状になった斜面の最上部に出ることができた。

ジョッシュは一人でどんどん先に進んでしまい、既にその姿が小さくなっていた。僕はと言えば、岩場でずいぶん手こずったせいで、かなり距離をあけられてしまった。開けた視界のよい場所だったが、置いて行かれて迷子になっても困るので、彼の姿を追って急いで砂地を下りていった。


崖の上から見た時は気づかなかったのだが、円形闘技場のように見えた窪地の中心部には、蛇行した川により周囲が削られて残った大きな一枚岩が屹立していた。その形は、まるで巨大なカタツムリのように見えた。インディアン古来の伝説に、レインボーブリッジは虹が固まってできたものだという言い伝えがあるそうだから、ひょっとしたらこの岩も古代のカタツムリが固まってできたものなのかもしれない。


挿絵(By みてみん)


その“カタツムリ岩”を横目で気にしながら谷を下りきり、川の淵に出た。この先、川に沿って進むことはできない。目の前を岩壁に阻まれていたからだ。ジョッシュは、川べりで僕が追いつくのを待っていた。

「今日は水が多いね」

黄土色をした濁流が目の前を流れていく。初めてここに来る僕には、水の量が多いかどうかはわからない。川底が見えないので、どのくらいの深さがあるのかすら想像がつかなかった。

「流されないように、手を組んで一緒に行こう」

ジョッシュはそう言うと、僕の脇に立ち、手を取った。お互い腕を組み合って、体をくっつけ、同じ歩幅で川の中に入っていった。川は、最も深いところで膝くらいまであった。ここまで高いと、気をつけないと体ごと川の流れに持っていかれてしまう。ジョッシュもそれがわかっているようで、僕の動きに合わせ、ゆっくりと進んだ。川底には泥がたまっているようで、体の重みで足の先が埋もれてしまう。一歩一歩踏み出すたびに足を引き抜かないといけないので、思った以上に体力を使った。

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