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ジョッシュのアーチ  作者: Tom Openrange
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エスカランテ・ナチュラル・ブリッジのトレイルヘッドは、町から車でおよそ24㎞ほど走ったところにあった。駐車場に車を停め、身支度を整える。このトレイルは比較的距離が短く、道も平坦で歩きやすいはずだ。しかし、ガイドブックによると、途中でエスカランテ川を4度も渡らないといけないらしい。渡るといっても橋がかかっているわけではなく、靴をぬぎ、川床を歩いて渡る必要がある。雨で増水していたりすると、渡るのは不可能だ。その場合は、水量が減るまで待たないといけない。

幸いにして、この日はそれほど水かさが高くなかった。そして、水はひんやりとして気持ちよかった。


結構人気の高いトレイルのはずだが、なぜか誰ともすれ違わなかった。駐車場には何台か車が停まっていたから、どこかに人がいるはずだ。トレイルヘッドから少し行くと道が二手に分かれているが、反対側の道はマーベリック・ナチュラル・ブリッジやフィップス・アーチに続いている。みんな、そちらの方に行ったのかもしれない。そして僕もこの数日中に、同じ道を辿ることを考えていた。アーチの形状から、マーベリック・ナチュラル・ブリッジが“空”ではないかと疑っていたのだ。


そうこうしているうちに、エスカランテ・ナチュラル・ブリッジが見えてきた。崖の側面にへばりつくようにして、アーチ状の岩がくっついている。もっとも、実際にはくっついているわけではなく、崖の上部から流れ落ちる水が岩の隙間に入り込んで穴を開け、それが徐々に広がってこのような形になったものらしい。このまま何千年あるいは何万年が経つと、やがてアーチの部分だけが崖から剥がれ落ちて崩落することだろう。他のアーチも同様だが、今こうして目にしているものは、長い時間の中でこの時代にしか見ることのできない造形なのだ。それを考えると、どんな形をしていようが、また大きいか小さいかに関係なく、あらゆるアーチがいとおしく感じられる。


挿絵(By みてみん)


いよいよゴールが近づいてきた。アーチがある崖の下は斜面になっていて、岩や石がゴロゴロ転がっていた。さらに、木が何本も生えていて、その中で石積みがあるかどうかを確認するのは、相当骨の折れる作業になると思われた。それに何より、その場所に行くには、手前に横たわっている川を渡らないといけないのだった。ここに来るまで既に4回川を渡っている。ということは、目の前を流れる川はトレイルに含まれておらず、今僕が立っている場所がゴール地点ということだ。トレイルは、この先まで足を踏み入れることを想定していない。

しかし、だからこそ行ってみる必要があると思った。人が気づきにくい場所であるなら、石を積むにはかえって好都合ではないか。


目の前を流れる川は、これまで渡った4ヵ所より少し深いように見えたので、川岸からゆっくりと足を下ろし、慎重に一歩一歩進んだ。一部、少し深くなっているところがあったが、何とか渡りきることができた。僕は粗い石に覆われた斜面を、少しでもアーチの真下に近づこうと慎重に登っていった。少し進むごとに立ち止まり、周りを見回したが石積みらしきものは見えない。このアーチは残りの4つに含まれていないのだろうか。近場から探そうとした僕の考えが浅かったのかもしれない。そんなことを考えながら、ふと、ブロークン・ボウで石積みを見つけたときのことを思い出した。それは、アーチの真下ではなく、脇の大きな岩に隠すようにして置かれていたのだった。ここはブロークン・ボウと違って、木が結構茂っている。石積みを隠す場所ならいくらでもありそうだ。

僕は片っ端から木の根元を調べてみた。そして、5~6本調べたところで、アーチに向かって右手の急な斜面に生えていた比較的大きな木の根元に、3つの石が重なっているのを見つけた。それを見た瞬間、これはジョッシュの手によって置かれたものだろうと確信した。こんな場所に3段の石積みがあるのは、それがいくら偶然だとしても不自然だし、よく見るとその石の色は、斜面に転がっているものとは違い、若干赤茶けている。明らかに、人が意図的に他の場所から持ってきたもののように見えた。

ジョッシュはもうこの石を見に来ただろうか?それとも、この石が崩れていたところを、彼が来て直してしまった後だろうか?石を眺めていても、残念ながらそこまではわからない。

ひょっとしたら彼はまだこのあたりにいるかもしれない。そう思った僕は、斜面を下り、川べりに立って彼の名を大声で呼んでみた。「ジョーッシュ!」 2度3度繰り返すが、何も反応はない。そそり立つ岩の壁に僕の声が反響するだけだ。

仕方なく、来た道を引き返すことにした。

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