40
なんとかトレイルヘッドまで戻った。駐車場を見回し自転車を探したが、見当たらない。僕は駐車場を一周したところで、崩れ落ちるように腰を下ろした。そして大きなため息をついた後、地面に大の字に寝転がった。ここから何十キロも離れた町まで、どうやって戻ればいいのだろう。見上げる空には、小さな雲がところどころに浮かんでいる。今日は風が吹いていない。上空も風がないのか、一向に雲が流れる気配がない。僕もこのまま、ずっとここに留まるしかないのだろうか?
その時、ふと気がついた。さっき出会った二人の若い男は、そのうちここに戻って来るはずだ。駐車場には埃まみれになったオレンジ色の小型ジープが一台停まっている。きっとあれが彼らの車だろう。彼らの帰りを待って、町まで乗せていってもらうよう頼んでみるか。問題は、ジープの狭い後部座席には、既に荷物が山積みになっていることだった。前の席の二人分しか、人が乗れるスペースはなさそうだ。こうなったら、屋根の上にでもつかまって運んでもらうか・・・。
トイレに行きたくなったので、駐車場を離れ、灌木が生えた荒地に足を踏み入れた。駐車場に人影はなかったので、どこで用を足してもよさそうなものだが、やはり何か隠せるものがないと不安になる。手前の低い草むらをまたいだ時、ふと脇に目をやると、木々の間に鉄の棒のようなものが見えた。
「ん?」灌木の間を分け入って近づいてみると、その棒にはグリップのようなものがついている。どうやら何かのハンドルのようだ。さらに近寄ると、全体の姿が見えてきた。それは、まぎれもない、僕がここまで乗ってきた緑色の自転車だった。嬉しさのあまり、思わず小躍りしながら駆け寄り、自転車を起こした。砂にまみれて汚れているものの、壊れてはいないようだ。僕は自転車を抱え、トレイルヘッドの方へ運んだ。何かの衝撃か、ハンドルの向きが本体の軸からずれていた。僕は前輪を股間に挟み、斜めに曲がったハンドルをまっすぐに戻した。これで大丈夫、とりあえず乗ることはできるだろう。さっき地面に寝転がったときについた背中の砂を何度も叩いて払い落し、リュックを背負って自転車にまたがった。そして、もう一度、駐車場のジープに目をやった。車の方が早いし、楽なのは確かだ。しかし、彼らの世話にならずに済むと思うと、心底ほっとした。一緒にいると、いろいろと訊かれることもあるだろう。そのうち、余計なことをしゃべってしまうかもしれない。いや、自分からしゃべることはないにせよ、話に矛盾が生じて、怪しまれることならいくらでもあり得る。
僕はペダルを強く踏み込み、荒れた道に向かって自転車を漕ぎ出した。
ホール・イン・ザ・ロック・ロードと交差する角に出た。スチュの車はもうない。それは当然のことだが、ひらすら荒れた土地が続く風景にどこか淋しいものを感じた。本当に、人の気配がまるでないのだ。
ここを右に折れ、幅は広いが未舗装でデコボコした道を黙々と走って行った。時折、荒れた地面に自転車が跳ね上げられ、全身に強い衝撃が走った。浮き上がる体を押さえようと手足に力を入れるので、思った以上に体力を消耗した。
何度か蛇行を繰り返すうち、ふと顔を上げて遠方に目をやると、右手の遥か向こうの方にチムニーロックが見えてきた。その名のとおり、煙突のような形をした巨大な岩が、まっすぐ突っ立っている。こんな荒涼とした大地で、まわりに何もないところに、どうしてただ一つだけあのような変わった形の岩が存在しているのだろうか。とても不思議だ。ひょっとしたらあの岩にも、何か秘密が隠されているのかもしれない。
そんなことを考えながら、ひたすらペダルを踏み続けた。




