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ジョッシュのアーチ  作者: Tom Openrange
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ブロークン・ボウの先端が小高い丘の向こうに見えたとき、僕はなぜか全身の力が抜けたようになって、その場にへたり込んだ。なぜそうなったのか自分でもわからないが、ひょっとしたら、スチュの姿を最後に見た時のことを思い出したからかもしれない。すべてはあの日から始まったことなのだ。


挿絵(By みてみん)


太陽は既に天中を越えていた。日が高い。気温も相当上がってきたようだ。そのとき僕は、大事なことに気がついた。水を持っていなかったのだ。背負ったリュックを下ろし、中に水筒が入っていないか調べた。もっとも、水筒が見つかったところで、その中の水を飲めるかどうかわからない。もう何ヶ月も前に入れた水だ。それでもないよりはマシだと思い、必死になってリュックの底の方を探ったが、それらしきものが手に触れることはなかった。落胆したが、ないものはしょうがない。僕は再びリュックの口を締めて、背中に担いだ。


再び歩き出し、ブロークン・ボウの真下に辿り着いた。僕は長老が目の前で回した石積みのことを思い出しながら、同じように重なった石がないか、あたりを見回した。注意深く探したが、それらしきものは見当たらない。まさかとは思うが、“弓”とは、このアーチではなかったのだろうか。あるいは、石積みはあったが崩れてしまったのかもしれない。もしそうだとすると、“内界”の異変はこのアーチに一因があるということになる。だがその一方で、ここの石積みが崩れたのなら、ジョッシュがこのあたりにいてもおかしくないはずだ。ここでじっと待っていると、いつか彼がやってくるだろうか。

アーチの真下に立ち、遥か遠くの方まで懸命に目を凝らしたが、人影らしきものは見えなかった。ふと脇に目をやると、アーチの下の片側に巨大な岩がいくつか転がっていた。それは人の背丈をはるかに超える大きさだった。ひょっとして、アーチができる際に崩れ落ちたものだろうか。岩陰にジョッシュが隠れているかもしれないと思い、僕は高さが5mはあろうかという大きな岩の方へ近寄っていった。横に回り込んでみたが、誰もいない。ただ、そこにケルンのような石積みがあるのを見て、思わず “あっ” と声を上げた。これはひょっとしてジョッシュが積んだものではないだろうか。なぜなら、こんなところにケルンがあるわけがないからだ。ブロークン・ボウはトレイルの最終地点なのだから、この先、道順を差し示す必要がない。

僕は石積みのすぐそばまで行き、じっと眺めた。石が回っているようには見えない。ということは、これは偶然に3つの石が積み上がったものなのだろうか。あるいは、ひょっとするとジョッシュが置いたものの、何らかの不具合があって機能しなくなったのかもしれない。


僕はいったんアーチの脇から下に降りることにした。確か、アーチと向かい合わせの土手との間に川床の跡があり、そこに雨水が溜まっていたはずだ。喉が渇いていたので、とにかく水が飲みたかった。不衛生で腹を壊してしまうかもしれないが、そんなことを気にしている場合ではなかった。

川床の跡に沿って歩いていると、土手の上から人の声がした。あまりに唐突だったので、僕は飛び上がって驚いた。そして、しばらくすると、僕の頭上に二人の男性の姿が現れた。

「やあ」

二人にうちの一人が僕に話しかけてきた。若い男で、真っ赤なTシャツに白い短パンを履いていた。

「やあ」

僕も同じ挨拶を返した。

「そこへは、どうやったら下りられるの?」

もう片方の男が訊いてきた。こちらは紺色のポロシャツに茶色いズボンを履いていて、膝のあたりまで裾をまくり上げている。

僕がここに来た時は、いったん土手の手前まで戻って脇の川床を辿ってきたのだが、よく見ると、僕のいる位置から左手の方に、土手の斜面をジグザグに走る足跡がついているのが見えた。かなり急なようだが、下りて来られるはずだ。僕はその足跡がある方を指差して、「あそこから下りられると思うよ」と答えた。

僕が教えたルートを辿り、彼らも川床まで下りてきた。「この先、どこまで行けるんだい?」

一瞬レイクパウエルのことが頭をよぎったが、そのことは口に出さなかった。そのかわり、首を軽く横に振ってこう言った。「さあ、わからないな。僕はアーチの真下まで行ってみただけさ」

彼らは頭上にそびえるアーチを見上げた。「行ってみよう」赤いTシャツの男が言った。二人は川床に沿って進み、アーチの横手に回り込んでいった。僕は彼らの背中が小さくなるのを見つめていたが、ふと不安になった。“石積みを崩されたらどうしよう”

さっき見た石積みとは別に、僕が見落とした本当の石積みがあって、彼らが何も知らずにそれを踏んで壊したりしてしまったら・・・。そう思うと、いても立ってもいられなくなり、慌てて彼らの後を追った。

彼らから少し遅れてアーチの麓の土手を登り、さっきの場所に行き着いた。

「あれ、また来たの?」

赤いTシャツの男が言った。

「ああ、もう一度来てみたくなったんだ。何しろ、そう簡単に来られるところじゃないからね。そんなことより、二人の写真を撮ってあげるよ」

僕は何とか話をごまかそうと、紺色のポロシャツの男が持っていたカメラに手を伸ばした。そして土手の上の方まであがり、二人の方へカメラを向けた。赤いTシャツの男は両手を空に向け、紺色のポロシャツの男は両腕を組んでポーズを取った。僕はアーチが入るようアングルに気をつけたが、あまりに大きいので二人の姿が豆粒のようになってしまった。

彼らにカメラを返し、何知らぬ顔をして地面を見渡した。怪しまれてはいけないので、うろうろしながらたまに空を見上げたりした。

巨大な岩の横手に足を踏み入れたとき、さっき見たケルンのような石積みが見えた。しかし、何かが違う。

石積みの近くに寄ってみた。そして、僕はあることに気がついた - 石が動いている!

さっき見た時は、1番上の石と、2番目の石との尖った部分が揃っていて、いずれも巨大な岩の方を向いていた。石積みの形が整っていたので、よく覚えている。しかし今は、その2段の石の尖った部分がちょうど反対方向に向いていた。そして、そのいずれもが巨大な岩と平行になっていた。つまり、僕が川床に降りて二人と話している間に、どちらかの石が左に、もう一つの石が右に回って向きを変えたに違いない。やはりこの石は、ジョッシュが積んだものなのだ。そしてブロークン・ボウは、僕が探している6つのアーチのうちの一つだったのだ。

僕は解決の大きな糸口を見つけた気がして、ほっとした。この要領で残りのアーチも探せばよい。


僕はこれ以上、彼らにここにいてほしくなかった。それで「そろそろ行こうよ」と声をかけた。

紺色が答えた、「いやあ、もう少し待ってくれよ。今、来たばかりだよ」

それもそうだ。でも、何もこのアーチの下で長居しなくてもいいじゃないか。

「いや、そうじゃなくて・・・。いい場所があるんだよ」

僕はそういうと、アーチと垂直の方角にそびえる岩壁の中腹を指差した。「あそこからのアングルもなかなかいいよ」

彼らは僕の提案に興味を示し、いったん川床に降りて、向かい側の岩山を登り始めた。

彼らの後ろ姿を目で追いながら、僕はあることを思いついた。「ちょっと待って!」

赤いTシャツの男が振り向いた。「ん?どうした?」

僕は急いで坂道を駆け下り、彼らに追いついた。

「少し、水を分けてくれないか?」

「水?」

僕の依頼が唐突だったせいか、一瞬戸惑ったようだが、男は背負っていたリュックをおろし、中から水の入ったペットボトルを取り出してキャップを開けた。

「はい、水筒を出して」

そう言うと、ペットボトルの口を僕の方へ向けた。

「あっ、ごめん。水筒は失くしたんだ」

「何だって?」

彼は、いぶかしげな顔をして、紺色のポロシャツの男と顔を見合わせた。そして、両手を広げて肩をすくめてみせた。

「わかったよ、これごとあげるよ」

ペットボトルのキャップを締め直し、僕に手渡した。

「ありがとう。助かるよ」

これで何とか町に戻るまでは持ちこたえることができるだろう。随分勝手な話だが、水が手に入ったので僕は先を急ぎたくなった。

「じゃあ僕は先に行くよ。よい旅を」

あまりに急だったので、彼らはまた呆気にとられていたが、少し間をおいて「ああ、君も」と言った。

僕は急ぎ足で谷を戻り始めた。僕の言動はどこか怪しくなかっただろうか、彼らは僕を追ってくるのではないか、いや、そうでないとしても何か声を掛けてくるのではないか。引き留められることを恐れ、後ろが気になって仕方なかったが、一度も振り返ることなく速足でどんどん進んだ。

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