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あたりはまだ暗かった。空が白み始めていて、夜明けが近いことがわかった。
気がつくと、僕は平らな岩の上で仰向けに寝転がっていた。首を傾けると、目の前に黒い水面がゆっくりと波打っているのが見えた。ゆっくりと視線を横に移し、ソフトクリームのような形をした白っぽい岩が視界に入った時、今、自分がいる場所が、ジョッシュを追って飛び込んだレイクパウエルの湖畔であることに気づいた。
空には月が浮かんでいた。かなり傾いている。あと2時間もすれば、山の影に沈むことだろう。
ふと後ろを振り返ると、見覚えのある緑色のリュックが目に入った。ここに来るとき、僕が背負っていたものだ。そしてその脇に、交通整理などに使うオレンジ色をしたコーンが二つと、黄色いナイロン製のロープが落ちていた。どちらも風雨にさらされていたのか、ひどく傷んでいる。片方のコーンは端がひび割れ、一部が欠けていた。
リュックに近づいて手に取ってみると、細かい砂がパラパラと落ちた。砂ぼこりがつくくらい、長い間、放置されていたのだろう。それを払い落そうとしたとき、外側のポケットに、なにかメモのようなものが挟んであるのに気がついた。広げると、そこにはこう記されていた。
“最良の友、ティム。楽しい思い出をありがとう”
筆跡からして、それはスチュが書いたものに違いなかった。僕はここにリュックを置いたまま“内界”に行ってしまった。スチュは警察に連絡して、僕を探してくれたのだろう。しかし、僕を見つけることはできず、リュックだけがここに置き去りにされてしまった。きっと、湖に転落して溺死したことにでもなっているに違いない。スチュに迷惑をかけてしまったことを、僕は本当に申し訳なく思った。
リュックの口を開け、中を覗いてみると、折りたたんだ寝袋や非常食、それに懐中電灯など、入れてあったものがそのまま残っていた。
これからジョッシュを探し出さないといけない。きっと長い道中になるだろう。それを考えると、荷物が手元に戻ったのはありがたい。僕は改めてスチュに感謝した。
さて、これからどうしよう。
まずは、来た道を戻り、ブロークン・ボウまで行くか。そしてトレイルヘッドまで戻り、自転車で移動する。もっとも、自転車がまだそこに残っていればの話だが・・・。僕の“遭難”によって、あの自転車はすでに撤去されてしまったかもしれない。あるいは誰かに盗まれているかも。まあ、そうなったらそうなったでその時だ。何にせよ、僕はあそこまで戻らないといけない。
来た道順を必死になって思い出そうとした。どのようなルートで、レイクパウエルの湖畔までやってきただろうか。
確か、ブロークン・ボウの裏にある土手を登ったところから谷に沿って歩き、岩山にできた亀裂の隙間を抜けた。その入口には、奇妙は岩絵があったはずだ。そして、少し広いところへ出て、目の前にある岩山を2つ登った。その先で怪我をしたジョッシュを見つけたのだ。
まずは、ジョッシュと出会った場所まで行こう。




