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ジョッシュのアーチ  作者: Tom Openrange
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その夜、僕はジョッシュと同じように、“門”をくぐって“外界”に戻ることになった。彼の旅立ちは、みんなに見送られてにぎやかなものだったが、僕の場合はもちろんそれとは違う。見送ってくれるのは長老と、あとはガスとサンドラの2人だけだ。スージーにもお別れを言いたかったのだが、長老から「それはやめてくれ」と言われた。

「彼女は好奇心が旺盛じゃから、きっと自分も一緒に行くといい出すじゃろう。しかし、旅行じゃないのだから、それは困る。ジョッシュを無事、“内界“に引き戻すことだけが今回の目的じゃ」


彼女に何も言わずにここを去るのは辛かったが、長老の心配もよくわかるので、その言葉に従うことにした。僕は空を見上げながら、彼女の顔を思い浮かべた。もし“門”をくぐったときに顎にアーチがつけば、また彼女に会うことができるかもしれない。とにかく今は、それを祈るしかない。


“門”の前までやってきた。長老のかざす松明が、僕たち4人の顔を照らし出した。思いがけず“外界”に戻ることになったので、正直なところ気持ちの整理がついていなかった。しかし、これは終わりではなく、ジョッシュを探し出す旅の始まりだ。僕には、ジョッシュを探し出して一刻も早くここに連れ戻すという重大な任務が待っている。

松明の火が、ガスとサンドラの顔に深く刻まれたシワを際立たせていた。

「よく来てくれた。楽しかったよ。元気でな」 ガスが言った。それに続けてサンドラも言う。「そう、私たちの出会いは素晴らしかったわ。決して忘れないから」

まるで、もう二度と会えないかのような言いっぷりだ。内心、動揺したが、彼らも純粋な気持ちで言ってくれているのだろうから、ここは話を合わせることにした。

「ありがとう。僕も絶対に忘れません。いつまでも元気でいてください」

月1回の墓参りのことを思い出し、そのことがつい口に出かかったが、慌てて止めた。あの話は長老から聞いたものであり、彼らは決して僕にその話をすることはなかったからだ。その代わりに、前からずっと気になっていた質問をした。

「この谷の果てまで行くと、いったい何があるのでしょうか?」

ガスは穏やかな笑みを浮かべたまま言った。「それはいつか自分で確かめるといい。“外界”からここに通ずる別の道があるかもしれんぞ」

意外な答えに僕は驚いた。それと同時に嬉しくなった。いつかまた、彼らに会えるような気がした。

「そうですね、それまでお元気で」

2人と握手を交わした後、僕は長老と向き合った。

「本当にお世話になりました。ここのことは決して口外しませんから」

長老の顔は、ガスやサンドラとは違って険しかった。きっと、僕がジョッシュを見つけ出すことができるのか不安だったのだろう。それでも声は優しかった。

「心配しとらんよ。まあ、それに何より、誰かに話をしたところでここに来ることが無理なことは、あんたが一番わかっとるはずじゃ」

確かにそうだ。だからこそ、ここを離れるのが淋しいのだ。

「でも長老、無理なはずのことができた理由は何でしょうか?どうして僕は、ここへ来ることができたのでしょう?」

「月じゃな」

「月?」

「そうじゃ。月の光が強すぎたんじゃ。それで“門”の引き込む力がいつも以上に働いて、あんたまでここに吸い寄せたということじゃ」

思い起こせば、ジョッシュと一緒にレイクパウエルの湖畔で見た月は、これまでにないくらい大きくてきれいだった。

「あの時と同じ状況になれば、またここに来ることができますか?」

あまり未練がましいことは言いたくなかったが、口にせずにはいられなかった。長老はそんな僕の気持ちを察してか、優しい目をして言った。

「ああ、きっとな」


僕は、ゆっくりと“門”の方へ向かっていった。“門”が近づくにつれ、胸の鼓動が激しくなった。無事に“外界”に戻れるのか、戻れたとして、どうやってジョッシュを探せばよいのか。そして仮にすべてがうまくいったとして、その後、また“内界”に戻って来られるのか・・・。


目の前の“門”は大きく口を開け、その向こうにはいつもと同じように暗黒の闇が渦巻いていた。ジョッシュは、ここから飛び込んで“外界“に行ったのだ。

僕はもう一度振り返って3人の顔を見た。ガスとサンドラの目に、光るものが見えたような気がした。そして長老の目は、いつも以上に眼光鋭く光っていた。

僕はできる限りの笑顔を作り、彼らに向かって大きくうなずくと、“門”の方へ向き直って前へ進み出た。“門”の向こう側にある闇が不気味な音を立てている。僕はジョッシュが飛び込んだ時の様子を頭に思い浮かべた。そして、彼と同じように腰を曲げ、前傾姿勢をとった。ちょうどプールの飛び込み台に立った時のように。そして、折った体をそのまま闇に預けるようにして蹴り出し、両手から闇に突っ込んだ。

僕の耳の横を、“ゴォーッ”という激しい音が通り抜けていった。

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