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ジョッシュが“外界”に旅立ってから1週間ほど経ったある日、水汲みの帰り道に突然突風が吹いた。背中に大きな空気の塊がぶつかったような衝撃を受け、僕は思わず前のめりになって膝をついた。僕の前を歩いていた人たちも悲鳴をあげて倒れ込み、中にはバケツの水をこぼす人もいた。スージーの姿が見えたので、僕は思わず駆け寄って彼女を抱え起こした。
「大丈夫?」
声を掛ける僕に答えることもなく、彼女は黙ったまま空を見上げた。
「どうしたの?」 僕が訊くと、彼女は両手にバケツを持ったまま、目で僕に空を見るよう促した。
「こんなこと、初めて・・・」
空の色が段々と変化していた。青から薄い紫へ、そして灰色へと変わり、また青くなったり灰色になったりしている。それは、これまで見たことのない空模様で、不吉なことが起こる前触れであることは、彼女の説明を聞かなくてもわかった。
僕は急いで集落に戻ると、裏手にある崖の上を目指して走った。空がいったいどうなっているのか、もっと広く見渡せるところで確認したかった。
息を切らせながら坂を登りきると、遠くに長老が立っているのが見えた。僕と同じことを考えたのか、先にここに来ていたらしい。僕は彼の元へ駆け寄った。
長老は遠くの空を見つめていた。その表情は、空の色を確かめるというより、何かを思い出そうとしているように見えた。僕は何が起こっているのか訊きたかったが話しかけられず、長老と同じように空を見上げた。しばらくすると、長老は僕の方を振り向くことなく言った。「石が崩れとるのぉ」
「何ですって?」 僕は思わず声を掛けた。
「積んだ石が次々と崩れとるのじゃろう。風の均衡が取れとらん」
「ジョッシュが風回しに失敗したということですか?」
「風回しに失敗したのではない。崩れた石を元通りにできていないということじゃ。しかし、このままでは時間がない・・・」
よくわからないが、不安がますます駆り立てられる。
「長老、僕にわかるように一から説明してもらえませんか?僕に何か手伝えることはないでしょうか」
長老は僕の方に顔を向けた。何も言わず、黙ってじっと見ている。何か深く考え込んでいるようだった。その表情を見て、僕はたたみかけるように訊いた。
「何かできることがあるんですか?」
長老は黙ったまま僕の顔をしばらく見つめていたが、やがて口を開いた。
「あるかもしれん・・・あるかもしれんのう」




