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毎朝、水を汲みに行く日々が続いた。水を運び終えると昼食を取り、午後は自由に過ごす。集落からはずれたところにある畑や牧場に行く人もいたが、僕はたいがい“幹の家”の近辺にいた。ジョッシュの遊び相手をしていたからだ。
「ねえ、ティム。落石ゲームをやろうよ」 そう言って、ジョッシュは僕のところへやってくるのだった。
彼の言う“落石ゲーム”とは、お椀のような形をした器にいくつかの小石を入れておいて水を張り、そこへもう一つ別の小石を投げ込むというものだった。お互いが相手のお椀に小石を投げ、より大きい水しぶきが上がった方が勝ちなのだが、あまい強く投げてしまうとお椀が傾いて倒れてしまい、これでは負けになる。意外と力加減が難しい。彼は水しぶきが上がるのが楽しいらしく、毎日のように僕をこのゲームに誘った。
「石って、不思議なんだ」 ある時、片目をつぶって小石を投げ込む角度を見定めながら、ジョッシュが言った。
「こうして遊んでいるときはおとなしいんだけど、命を吹き込むと風や光を運んでくれるんだ」
あまりに唐突に話し出したので、何を言っているのかわからなかった。
「命を吹き込む?」
「そうだよ」
「・・・何に?」
手に持った石を投げる振りをして、彼は言う。
「石だよ」
「石?」
「そう」
「石に命を吹き込むの?」
「そう」
「どうやって?」
彼の手が止まった。
「う~ん、ちょっと待って」 そう言うと、お椀を見下ろす角度を何度か変えたあと、手にしていた小石を投げ込む位置を決めた。
「いくよー」 ジョッシュは真上に近い位置から小石を強く投げ下ろした。 今日一番大きな水しぶきが上がった。僕は反射的に水がかかるのをよけようとしたが、両手で遮るのが精一杯で、服がかなり濡れてしまった。ジョッシュはキャーキャー言いながら喜んでいる。僕は服の濡れた部分を手でこすって乾かそうとした。
「それで、何だっけ?」 ジョッシュが思い出したように訊いてきた。
「何が?」
「話の途中だったよね」
僕の方も水しぶきに気を取られて、何の話をしていたのか一瞬忘れてしまった。
「え~っと、石の話だったな。石の命がどうとか・・・」
「ああ、そうだった。石に命を吹き込むと、この“内界”に風や光を運んでくれるんだよ。それが風回しさ。風を回せるのは僕だけなんだ。そして、その風のおかげで、僕らは生活できるというわけなんだ」
石に命を吹き込むだの、風を回すだの、正直なところピンとこなかった。それに、石が風や光を運んでくるなんて・・・。 ただ、何とも彼ららしい世界観ではある。自然を崇めるある種の宗教のようなものだろうか。石に命を吹き込む儀式も、実際にあるのかもしれない。




