20
遠くで人の話し声がするのを聞いた気がした。僕は目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。あたりはすっかり暗くなっていたが、まわりの景色の輪郭はまだぼんやりと見えていた。
“幹の家”には灯りがともっていた。灯りといっても建物自体が照らされているわけではなく、あちこちに開いている小さな四角い窓から、光が漏れているのだった。きっと、それぞれの部屋では家族団らんで夕食を取っていることだろう。それを思うと、急に人恋しくなった。
その“幹の家”の方から、人影らしきものが近づいてくるのが見えた。小走りで駆け寄って来る動きを見て、それがジョッシュであることがわかった。両手に何か持っている。
「はい、これ。夕食だよ」
そう言うとジョッシュは手にしたお椀を見せた。手のひらほどの大きさをした薄いものがいくつも積まれているようだが、暗くてよく見えない。
「これは何?」
「僕たちがいつも食べてるものだよ。トウモロコシや豆をつぶして焼くんだ」
ひとつ手に取り、口にしてみる。硬いながらも、ほどよく湿り気があって食感はよい。ただし、味が全然しなかった。でも、せっかく僕のために持ってきてくれたものだ。本心を言うのはよしておこう。
「うん、おいしいよ。ありがとう。こういうのは“外界”では食べたことがないね」
「それはよかった。水を飲みたかったら、水甕から汲んで飲んでね。あと、今夜からは倉庫の端にある部屋で寝るといいよ。長老には言ってあるから大丈夫。コヨーテの餌になるのは嫌だろ?」
「コヨーテがいるの?」
ジョッシュは返事をする代わりに、ニヤリとした。
「わかったよ、お願いするよ。そうしないと、本当に昨日寝た台の上に寝かせられてしまうかもしれないからね」 僕がそう言うと、彼はカラカラと笑った。
食事の後、その倉庫という建物に案内してもらった。それは“幹の家”から“花の家”に行く途中にあり、平屋ではあるものの、中はいくつもの部屋に分かれているようだった。その一番手前の部屋が空いているらしく、そこを僕のために確保してくれたのだった。
「明日は一緒に“水汲み”に行こうよ。朝、呼びに来るよ。それじゃあね、おやすみ」
それだけ一気に言うと、ジョッシュは僕の返事も待たず、“幹の家”の方へ走って戻っていった。一人残された僕は、恐る恐る倉庫の中を覗いてみた。部屋をあてがってくれたのはよいが、中は真っ暗でどこに何があるのかもわからない。ちょっと不気味なので、ジョッシュには申し訳ないが今夜は倉庫の前で横になることにした。もし本当にコヨーテが来たら、部屋の中に逃げ込もう。
不思議なことに、ここでは建物の中でも外でも気温が変わらないので、表で寝たとしても何ら問題はなかった。それどころか、朝夕を比べても同じ暖かさだ。それはまるで、“内界”全体が巨大なシェルターのようなものに守られているかのようだった。




