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ジョッシュのアーチ  作者: Tom Openrange
20/62

19

人々の隊列が近づいてきた。彼らは、僕たちから40~50mくらいのところまで来ると、いったん立ち止まった。”招かれざる客”の来訪に気づいたのだろう。それまできれいに並んでいた2本の人の列が乱れ、ざわざわと音をたて始めた。しばらくすると、再び列の形に戻ってゆっくりとこちらへ移動し、やがて僕たちの脇を通過していった。彼らはみんな一様に、奇異なものでも見るような目つきで僕の方を眺めていた。ただ、僕が長老と一緒にいたせいか、誰一人として言葉を発することはなかった。それはまるで葬列のようだった。

僕たちの横を通り過ぎた彼らは、30mほど離れたところに見える低い石垣でできた囲いの方へと歩いて行った。そこには四方に柱が立てられており、上部は屋根の代わりなのか、布で覆われていた。

その石垣をぐるりと取り囲むと、彼らは手に持ったバケツのような容器を抱え、中に入った水を次々と石垣の内側に注いでいった。どうやらその石垣は、水を溜める大きな甕のような役割を果たしているようだった。

後になって知ることになるのだが、その水甕の奥には広大な畑が広がっていて、トウモロコシやカボチャ、豆類などを植えていた。それが彼らの主食であり、そこで採れたものを擦りつぶして練り、焼いたり蒸かしたりして食べていたのだ。僕もこの日以降、これらの収穫物にお世話になることとなった。彼らの作る食事はあまり味がせず、正直なところ、たくさん食べられるものではない。しかし、そのうち慣れてきて、徐々においしく感じられるようになった。


結局、この日はこれ以上、長老と話をすることはなかった。僕が水甕の方に気を取られている間に、彼は一人で“幹の家”の方へと歩き出し、気がついたときには建物の裏側に姿を消すところだった。

僕は内心ほっとした。最初の険しい表情からすると、今すぐここから出ていくよう言われてもおかしくはなかった。ここを追い出されたところで、僕には行くところがない。ここが本当にジョッシュの言う“内界”だったとして、もといた場所、つまり“外界”に戻る方法もわからないのだ。


ジョッシュと僕の二人が取り残された。

「行こう。みんなに紹介するよ」

そう言うと、彼は人々が集まっている水甕の方へと歩き出した。僕は緊張した。どのような反応をされるのか、とても怖かった。

「みんな!」 彼らに近づくなり大きな声で呼び、ジョッシュは右手を挙げた。彼らは甕に水を注いでいた手を止め、いっせいにこちらを振り向いた。

「ちょっと聞いてくれる?僕の友達を紹介したいんだ」

そう言うと彼は僕の二の腕をつかんで、前の方へ引き寄せた。

「彼はティム。“外界”から来たんだ。向こうで、困っている僕を助けてくれたんだよ。みんなよろしくね」

ジョッシュも内心は、みんながどのような反応をするか不安だったに違いない。努めて明るく振舞おうとしているのが伝わってきた。

一瞬の間があり、彼らはお互いに顔を見合わせた。そのうち、みんなひそひそと話し始めたが、やがて一人の老人が前に出てこう言った。「わしはガス。“内界”へようこそ」

それを皮切りに、順に一人ずつ自己紹介が始まった。緊張していたこともあり、彼らの名前はなかなか頭に入らなかったが、僕は一人一人の顔を見つめ、笑顔を見せてうなずいた。

とりあえず顔見世の儀式を終えることができて、ほっとした。と同時に、ジョッシュの計らいに感謝した。


そこにいた全員と挨拶を済ませ、僕たちは“幹の家”の方へと戻って行った。ジョッシュは、いったん家に帰るという。僕は特にやることもないので、前日寝床にした小屋の前に座り込んだ。壁に背をもたれかけ、空を眺めた。そこには鈍い青色をした空が広がっていたが、僕はあることに気が付いた。

“雲がない”

雲一つない青空、という言い回しがあるが、実際に雲がまったく見当たらない快晴の日というのは、年に何回もあるものではない。しかし、ここでは快晴とは言えない空なのに、雲が一つも見当たらないのだ。太陽が見当たらないこともそうだが、雲がないのも不思議だった。雲がなければ雨は降らない。そうすると川も流れない。さっき長老が言っていた“水汲み”とも何か関係するのだろうか。


僕は地面に寝そべって仰向けになり、その空をずっと眺めていた。時おり目をつむると、僕の体が地面の底へ、すーっと落ちていくような気がした。そしてそれは、とても心地いいものだった。まるでこの大地が僕の体を優しく包み込んでくれるような感覚。僕はそのまま眠りに落ち、知らぬ間に夢の世界を旅しているのだった。その夢が何だったか、今となっては思い出せない。逆に、何度か物音で目が覚めた時には、空の色が少しずつ変わっていたのを覚えている。最後に見た空は、くすんだ薄い紫色だった。

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