14
どのくらいの間、そこに横たわっていたのだろう。ふと気がつくと、岩に囲まれた広場のようなところにいた。あたりは薄暗く、人の気配はなかった。
僕は立ち上がって周りを見回した。そして後ろを振り返った瞬間、のけぞって腰から倒れ込んだ。
目の前に、大きなナチュラル・アーチがそびえ立っていた。太い棒のような岩を左右に渡したアーチの下には、ラグビーボールのような形をした横長の巨大な穴が開いている。そして、その穴の向こう側は何も見えず、まるで墨で塗りつぶしたかのように暗黒の空間が広がっていた。目には見えないのだが、そこは漆黒の空気で満たされ、何かが渦巻いているように感じた。”妖気”とでも言ったらいいのだろうか、今にもそこから何かが飛び出してきそうな不気味さがあった。
僕は飛び跳ねるように立ち上がると、アーチに背を向け駆け出した。目の前には、細い谷がうねりながら続いている。自分がどこにいるのか、この谷がどこにつながっているのか、そんなことを考える余裕もないまま、とにかくあの恐ろしいアーチから逃げたい一心で、岩壁に挟まれたせまい道をひたすら走り続けた。
どれだけ走っただろう。左へ右へと蛇行する道をひたすら駆け抜け、そのうちやっとのことで大きく開けた場所に出ることができた。遠くを見渡すと、両側には切り立った崖が延々と続いていた。ここもやはり谷には違いない。しかし、その幅は数百メートルはあり、もはや谷間というより、大地と呼んだ方がふさわしい広さだった。
休むことなく必死になって走り続けたこともあり、まっすぐ立っていられないくらい息が上がっていた。僕は前かがみになって両腕を膝の上に付き、呼吸を整えようとした。顔を上げ前方をよく見ると、遥か遠くに建物らしきものが見える。最初はあたりが暗くてよくわからなかったが、そのうち輪郭がはっきりとしてきた。
”夜が明けた” そう思ったが、何か様子がおかしい。うまく表現できないのだが、空の色がどこかくすんでいるように感じた。まるで大地と空との間に薄い膜が張られているかのようだ。
僕はゆっくりと歩き始めた。とりあえず、この先に見える建物のところまで行ってみよう。
その建物は、切り立った崖の真下にあった。近づくにつれ、それがレンガのようなものでできていることがわかった。どこかで見た記憶がある。それは、この地域の先住民の住居跡によく見られるもので、アドビと呼ばれる、土に草を混ぜて固めた日干しレンガだった。先住民の血を引くインディアンは、地域によっては今でもこのアドビでできた家に住んでいるという話を聞いたことがある。その写真も見たことがあるのだが、ただ、そのような家屋とはどことなく雰囲気が違っていた。その違いが何なのか、この時はよくわからなかった。
建物のすぐそばまでやって来た。近づいてみると、かなり巨大な建造物だ。どこかに入口があるのだろうか?そう思い、建物の外壁に沿って歩いたが、それらしきものがどうにも見当たらない。そのうち一周して、元いた場所に戻ってしまった。外壁の上の方には四角い小窓のような穴がいくつか開いており、さらに、建物の中を渡していると思われる丸太がところどころで外壁を突き抜け、はみ出していた。
僕はジョッシュのことを思い浮かべていた。ひょっとして、ここが彼の帰ろうとした”家”だろうか?彼は今、この建物の中にいるのだろうか?
あたりに人影はなく、ひっそりと静まり返っていた。
ここから少し離れたところに、四角い形をした小屋のようなものが見えたので、そちらに行ってみた。その小屋もまた日干しレンガでできていたが、壁と壁との間が少し開いており、中を覗き見ることができた。恐る恐る近づき、隙間から顔を入れて見回したが、中に人の姿はなく長方形の台のようなものが一つ置いてあるだけだった。誰もいないことを幸いに、僕はその台によじ登り、体を横たえた。思えば昨日からずっと歩き詰めだった。さらに、先ほど全力で走ったこともあり、僕の足はもう棒のようだった。質素で無機質ではあるものの、屋根のあるちゃんとした部屋で横になれるのはありがたい。僕はしばらくここで体を休めることにした。




