1話
自分だけの持つ実力が欲しい。
他の誰にもないものが。
きっとそれは、みんなが思ってる。
自分がここにいたって証を残したいから。
そんなことを、彼に話した。
彼は小さく笑う。
いつもみたいに。
なんで、急にそんなことを?君らしくないな。
それは、私のお別れの言葉だ。
そうは、言わずにゆっくりと笑う。
「私は、音楽をやめるよ。
この合唱団もやめるよ亅
心の中で言う。
だから、彼ともお別れ。
空からはらりと降る雪が、この街を白く染めていく。
「ばいばい。ユキヤ」
「また明日ね。ユキコ」
ゆっくりと歩き出した。
ーーーーーーーーーーーーーー……
随分と昔の夢を見た。
昔の夢を……?
何年前だろう?……きっと小学3年生の頃だから7年前か、そうだ。そのくらいだ。
高校の制服を着て、鏡にうつる自分を見る。
高校一年生。
ピッカピカの一年生なのだ。
6月になり、ずいぶんと学校にも慣れた。
ずいぶんというか、かなり。
スカートは2段もおって超ミニスカ。帰宅部。
髪は明るい茶色だ。勉強の方はというと……。
取り返しのつかないくらい悪い。
それは、さておき昔の夢を見たのにはわけがある。
がたんごとん。電車に揺られながらスマホをいじる。
今の時代、会うことができなくても画面の中でやりとりできてしまう。
ユキヤ。
昨日かかってきた電話はユキヤからだった。
慌てて押した着信拒否。
どう思われただろうか?というか、なぜ番号を知っているのか……?
会えるのならば素直に嬉しい。
ずっと会いたいと想い続けて来た相手だから。
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キーンコーンカーンコーン。
小学生の頃からいつも私をせかしてくる嫌な音だ!
廊下を走りながらそんなことを考えた。
合唱部部員募集中!色鮮やかなポスターに目を惹かれ立ち止まる。
6月にもなり、まだポスターがはがされていない。
そのポスターは、隣の美術部のものより綺麗だった。
合唱部かあ。
背を向ける。
自分には関係のない部活だ。