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「つれないなあ、アーウェル。

可愛らしいレディとは久々の再会を祝してキスとハグ。この常識を阻むとは、無粋な男に育ったものだ」

「セーファス叔父上が半径五メートル以内に接近すると、僕の妹が穢れてしまいますので、断固拒否させて頂きます」


 派手なオッサンは大袈裟な身振り手振りで嘆き、アーウェルおにーさまは固い声音で拒絶している。

 ……このオッサンがそれほど危険人物なのか、まだ会う予定ではなかった『本物のエイプリルお嬢様』を知る人物だからあたしが意図せずボロを出さないかを警戒しているのか……うーん。あからさまに遠ざけようとしているのを隠してさえいないし、両方、かな。


「お兄様。叔父様とお会いするのは久しぶり、なのでしょう?」

「おお、マイ・エンジェル!

私との再会の抱擁を受け止めてくれるのだね!」


 情報を仕入れるべく、なるべく向こうから自発的にペラペラと語りだすよう話を持っていこうとしたら、派手なオッサン……せー、せーふぁすオジサマ? は、自己紹介以前にアーウェルおにーさまをずいっと押しのけて、あたしをムギュッと抱き締めてきやがった。おいオッサン。受け止めるだなんて、こっちは一言も言ってねえ。


 力一杯ギューッと抱き締められる事も危惧していたが、少し暑苦しいぐらいで全然辛くない。このオッサン、挨拶だと自称するだけあって、レディーを抱き締め慣れているとみた。

 ほっぺたに当たる訪問着の布地は滑らかなシルクで、キンキラ輝いているタイと宝石が引っ付いているタイピンもお高そうだ。ふんわりと漂うムスクの香りと微かな葉巻の匂い。

 ……むう、ハグに至る過程は結構強引だったのに何だろうこの、そんなに悪くないな~ってくすぐったいよーな感覚。あたしって、自分でも知らなかっただけでオッサン萌えだったのかしら?


「叔父上、いい加減になさって下さい!」


 眉を釣り上げたアーウェルおにーさまに救出され、あたしは扇を広げて口元を隠す。うむ、存外挨拶のハグとやら悪くはなかった。

 当たり前だけれどおとーさまもおにーさまも、あたしを単なる身代わりだと百も承知しているから、表向きは家族として遇してくれてはいるけれど、まあどっか他人行儀なんだよね。あたし、『家族が当たり前にするスキンシップ』なんて、体験した事無かったもんだから、疑似体験が嬉しいような寂しいような。


 あたしの心境なんて知る由もないアーウェルおにーさまは、とても心配そうにあたしの顔を覗き込んでくる。


「可哀想に、エイプリル。

叔父上の挨拶のハグとやらはいつも了承も得ずにくるから、怖かっただろう?」

「失敬な。私はこれまで、アーウェルに無理に迫った覚えはないぞ」

「いいえ、お兄様。

身内の気の置けない気さくさが、くすぐったくも温かくて何だかとても安心するものでした」

「ええ?」

「そうだろうとも、マイ・スイート!」

「セーファス様、こちらでしたか。このようなところでお嬢様方と立ち話などなさらずとも、お部屋にご案内致します」


 ハグの感覚を反芻しているあたしを怪訝な目で見つめてくるアーウェルおにーさまと、大喜びするオッサンの後方、廊下の先からドリスが早足でやって来た。どうやらこのオッサン、案内の使用人を置いてきぼりにしてアーウェルおにーさまの後ろ姿を見掛けて突進してきたらしい。


 客人をご案内して訪れたのは、中庭に面したテラスだった。雪もすっかり溶けて、春めいた花々が咲き乱れる花壇から、ふんわりほのかに甘い香りが運ばれてくる。

 ラーラやドリスがまたもやお茶の準備を整えてくれたので、あたしは練習の成果を見せるべくポットに茶葉を入れて高い位置からお湯を注ぎ、蒸らしてからカップに茶を注ぐ。


「叔父様、どうぞ」

「マイ・エンジェルのお茶が飲めるだなんて感激だ……」


 笑顔でカップに唇を付けたオッサンは、次の瞬間ぶふっと茶を吹き出した。


「ま、マイスイート……お茶葉の分量はきちんと計ったかな?」

「あら?」


 やべー、ちょっと緊張してて匙で何杯入れたか覚えてねえや。てへぺろ。


「まさかマイ・エンジェルにマトモなお茶が淹れられないだなんて……! このお茶目さんめっ。だが、そこがまた良い!」

「申し訳ありません、叔父様。もっと練習致します」


 しおらしく謝罪したら、オジサマはあたしの後ろ頭に手をやって……チュッとデコにキスされた。このオッサン、マジで手が早いな。いや、あたしを姪だと信じて疑っていないからだろうけど。


「叔父上。エイプリルはようやく元気になってきたばかりの病み上がりなのですから、弄らないで下さい!」


 せーふぁすオジサマがあたしが淹れた茶を吹き出したのを目撃し、自分は飲まずにちゃっかりラーラに新しく淹れ直させたアーウェルおにーさまは、キリッとした表情で苦情を申し立てる。

 つ、次は上手くやるもん。


「病み上がり、ね。亡き姉上といい、義兄上といい、エイプリルは療養中の一点張りでなかなか会わせてはくれなかったけれど、今日はまた随分と血色も良さそうじゃないか」

「何ですか叔父上。エイプリルは伏せっていなくては問題があるとでも言いたいのですか」


 ふむふむ、せーふぁすオジサマはアンジェリーナおかーさまの弟、っと。確かアンジェリーナおかーさまはマクレガー伯爵家と同じ一門である、ミルフォード伯爵家の出身だっけ。つーことは、このオッサンはマクレガー伯爵邸の住人ではないはず。

 にしてもアーウェルおにーさま、やたらとこのオジサマに突っかかるなあ。もしかして嫌いなのかしらん。


 病弱と言われるエイプリルお嬢様だけれど、あたし自身は病気知らずの健康体、歯だってシスターから一番厳しく教え込まれただけあって、毎日欠かさず磨いてきて頑丈かつ真っ白だ。冬場で少し薄くなったと言えど、夏場の力仕事で日に焼けて筋肉も付いているあたしは、とても深窓のご令嬢には見えまい。

 その点については早いうちに必ず誰かに疑問視されると分かっていたので、身代わりを依頼された時点で真っ先におとーさまと相談して返答内容は決めてある。


「近頃はとても体調が良いのです。こちらのお屋敷で暮らし始めてからは勉学を優先しておりますが、健康的に過ごせるよう、保養地では体力作りを頑張っていた甲斐がございました」

「ほう、体力作り。それは頑張ったね。

参考までに、どんなメニューだったのか、この叔父に教えてくれたまえマイ・エンジェル」

「朝夕の一キロ走り込みと雪中乾布摩擦、スクワットと腹筋と腕立て伏せを二十回ずつ毎日欠かさず三セットです」


 笑顔で一息に言い切ったあたしに、オッサンはポカーンと口を開いて「は?」と呟いた。全く同じ表情で、アーウェルおにーさまも固まってこちらを見ているのが面白い。どうやらおとーさまから、この打ち合わせについては聞かされていなかったらしい。

 劇団の下働きとして毎日働いていたあたしの仕事量を、ちょっと少な目に換算してみると、これぐらいの運動量なんじゃないかと思うのよ。


「それを……毎日?」

「ええ。流石に雨や雷、雪の日は屋内で行いましたが、晴れた日や強風の中を走り込むのは清々しい気分になりますわ」


 練習した動きで扇を翻し、おほほほ、と笑うあたしに、せーふぁすオジサマとアーウェルおにーさまは顔を見合わせ、奥に控えているドリスは納得したように頷き、あたしの入浴の世話を普段しているラーラは一瞬軽く唇の端を持ち上げ、すぐに澄まし顔に戻った。きっと、お世話しつつも何か変なお嬢様だなー、と内心では思ってたんだろうね。


「……エイプリルは病弱、だと義兄上から口を酸っぱくして聞かされていたが……」

「ええ、とても身体が弱いです。

腹筋が割れてはおりませんし、腕に力瘤も出来ませんし、保養地の周囲の走り込みを十周しただけで疲れてしまうほど、体力がございませんのよ?」

「我が愛しの甥よ、義兄上は我が最愛の姪を軍人にでもしたかったのか?」


 殊更澄まし顔で言うあたしに、せーふぁすオジサマは理解しがたいと言いたげに自分の額をピシャリと叩いた。

 おや、オッサンの中での最愛を、あたしってばアーウェルおにーさまから譲り受けたぞ。


「僕に聞かないで下さい……僕だって初耳なんですから……」


 アーウェルおにーさま、病弱で儚くか弱いカワイイ妹の名誉を穢してゴメンナサイ。恨むのなら、健康的貧民南国娘を自分の娘の身代わり令嬢に仕立て上げよう、なんて考えたおとーさまをお恨み下さい。南無。


「こちらのお屋敷に来てからは毎日お勉強で、なかなか外へ体力作りにも出られませんの。

ただでさえわたくしは身体が弱く、腹筋も割れてはおりませんのに、このままでは三日三晩の徹夜さえこなせない、軟弱な身体になってしまいます」

「割れなくて良い。淑女の腹筋は割れていなくて良いんだよエイプリル……!」

「君はむしろ健康優良児だよマイ・スイート」

「まあ」


 まあ、お兄様と叔父様は何を仰っておいでなのかしら。変ね? という雰囲気で、キョトンとした表情をしてみせると、おにーさまは頭を抱え、オッサンは早くも衝撃から立ち直った。


「エイプリルはずっと屋敷に居るのか。それは外の空気も吸いたくなるだろう。

この叔父が君をエスコートして差し上げよう。乗馬は得意かね、マイ・エンジェル?」


 かたんと席を立ったオジサマは、あたしに向かって片手を差し出してくる。どうやらあたし扮するエイプリルお嬢様はせーふぁすオジサマの中で、病弱な姪からお転婆な姪という枠組みにクラスチェンジを果たしたらしい。本物が帰ってきたらどうしようね、ホント。


「アーウェルお兄様からまだ乗馬を教わってはおりませんの。よろしければ、セーファス叔父様の馬に乗せて下さいませ」

「うんうん、叔父様に任せておいで。

では、郊外へ遠乗りに向かおう。アーウェル、君も一緒にどうだい?」

「……いいえ、僕は父上に至急問い詰めねばならない問題が持ち上がりましたので、遠慮致します。叔父上、妹をよろしくお願いします。

今日一日で、叔父上に随分懐いたようだし。別に僕が居なくても平気だよね、エイプリル?」

「ハッハッハ。男の嫉妬は見苦しいぞ。心配せずとも、夕食前にはちゃんと送り届けるよ」


 ありゃ、ずっと屋敷に閉じこもって勉強三昧だったから息抜きが出来るのは有り難いけど、今日会ったばかりの情報不足なオッサンと二人きりにさせられてしまうの? ヤバくないか?

 アーウェルおにーさまは座った目であたしとせーふぁすオジサマを見送るし、悠長に着替えの時間をくれないせっかちなオッサンに連れられるあたし。

 助けを求めて視線をさ迷わせると、ラーラは急な外出でも見苦しくないようにと春用の外套と帽子を大急ぎで部屋から持ってきて被せてくれた。うん、今のあたし、室内着だったからね……引き留めてくれる訳じゃないのね。


「さあマイ・スイート、手を貸して。乗せてあげよう」


 玄関でトップハットを受け取り慣れた仕草で被ったせーふぁすオジサマは、従者が引いてきた黒毛の馬にひらりと跨がり(実に様になっていた)、踏み台を用意させ、初心者のあたしでも乗りやすいようにと手を差し伸べてくる。

 気を遣ってくれるってどーせなら、こんなギュウギュウ締め付けられたコルセットやらバッスル(ドレスのスカート後方部分を膨らませる為の下着。お尻を覆っててかさばる)やらで動きにくいファッションじゃなくて、せめて乗馬服を着させて欲しかったよ。


 まあね、少しは外に出たいって思ってて口に出したのはあたし自身だし? アーウェルおにーさまが断固拒否しようとしなかったのだし、せーふぁすオジサマは親族として親しんでおいた方が良い方なのだろうけど。

 教会のロバの世話ならした事はあるけれど、いかにも由緒正しい気の強いお馬様! って風格を漂わせる馬にこんなに近付くのは生まれて初めてだ。おずおずとオジサマの手のひらに重ねた手はグイッと引き上げられて、あたしはせーふぁすオジサマの前方に横座りになった。くそう、こんな動きにくいドレスでさえなければ、もっと安定しそうな体勢で跨がってやるのになあ。


「まあ、馬の上はとても視点が高いのですね」

「そうだろうとも。

それでは、軽く散歩をして来るよ。日暮れ前には戻る」


 せーふぁすオジサマは自分の従者さんに言いつけると、馬上のあたし達はラーラやドリスに玄関先からお辞儀と共に見送られ、庭先のテラスの上に見えたアーウェルおにーさまに軽く手を振って、馬は郊外へと向かった。



 マクレガー伯爵邸は王都の貴族街の中でも外周に位置し、少し足を伸ばせば郊外の自然を目にする事が出来る。

 道が舗装されていない起伏の多い野原には野の花が咲き、ヒラヒラと蝶達が舞い、柔らかい風は爽やかな匂いを纏って昼下がりの草花を揺らす。

 草原の先には森が広がっていて、天から降り注ぐ日差しが美しい緑のコントラストをより映えさせる。


「気持ちの良いお天気ですね、セーファス叔父様」


 風に吹かれて落とさないよう、あたしは帽子を片手で軽く押さえ、もう片方の手にはうっかり置いてきそびれた扇を握りつつ、手綱を操っているオッサンを見上げた。せーふぁすオジサマはあたしの腰に腕を回して支えてくれつつ、唇を綻ばせる。


「そうだね。我が最愛の姪との、絶好のデート日和だ」


 馬に乗ってちょっと郊外にゆったりと足を伸ばすお散歩が、いったいいつからデートになったんだ。


「あら、わたくしの気分転換ではなかったのですか?」

「もちろん、愛しい君の気鬱を晴らす為だとも、マイ・エンジェル」

「幾度も思いましたけれど、わたくしの名は『エンジェル』ではございません」

「最愛の君は私のエンジェルだ」


 わざと目を丸くして驚きを表現してやると、オッサンはバチコーンとウィンクを寄越してくるので、右手に持った扇をクルクル回して払いのける。


「そんな、マイ・スイートが愛する別の方とは誰だい!?」


 あ、通じた。芝居かかった調子で嘆いてみせるオッサン。なんだ、やっぱりこのオッサンも扇言葉知ってるんじゃん。

 あたしは扇を口元に当て、取り合わずにほほほと笑う。いやー、打てば響くように秘密の暗号めいた仕草だけで相手に意図が通じると、これはちょっとゲームみたいで面白いかも。帰ったらおにーさまにもっと教えてもらお。


 それはともかく、おかーさまの名前がアンジェリーナでも、あたしを天使と形容するのは似合わない事この上ない。第一このオッサン、自分で言ってて恥ずかしくないんだろうか?


「双子ながら、亡き姉上は美しい人だと常々思っていたものだ。だがこうして成長したエイプリルの顔を見ていると、そのエメラルドのような瞳が私の懐かしくも慕わしい春を思い出させるのだよ……」

「ブリズセリュトでは緑色の瞳など、ありきたりで珍しくもないわ、叔父様」


 なんぞ、遠くを見つめてシリアス顔を作るオッサンに、あたしはバッサリと切り捨てた。

 南の国では滅多に見掛けなかったけどさ。おとーさまにおばーさま、おにーさまや、この国の出身だったらしきシスターだって、みーんな同じ緑色の瞳をしている。マクレガー伯爵邸で働いている人も、半分ぐらいは緑色の瞳だったはず。


「コホン、ところで真面目な話だが」

「何でしょう?」


 つれない姪ことあたしに、クスンと泣き真似をしてから、オッサンは咳払いを一つ。そうして真顔で切り出してきた。


「私はてっきり、エイプリルとアーウェルは不仲だとばかり思っていたから、今日はとても驚いたのだよ。

もしも君が、何らかの意に添わぬ事をアーウェルに強要されているならば、遠慮なくこの叔父に相談しなさい」

「……え?」


 黒毛の馬が並足で進む草原に、さあっと軽やかな風が吹く。

 あたしはセーファスオジサマが何を言っているのかよく分からなくて、首を傾げてマジマジとその顔を見上げた。オッサンはしごく真顔であたしを見返してくる。


 自分の時間を潰してまで、あたしのレディ教育を手伝ってくれて、あたしにいつも笑顔を向けてくるアーウェルおにーさま。おとーさまとのやり取りでは、小さい頃から妹を気遣っていた風な印象だったけど……

 ……それが実は、本物のエイプリルお嬢様と仲が悪い? でもそれならさ、わざわざあたしに親身になる必要無くない?

 いや、身代わりのあたしが『レディ・エイプリル』の居場所にもっともらしくレディ面して居座っていたら、本物は戻るに戻れなくなる、ね。


「……わたくし、叔父様に『お兄様が苦手です』だなんて、そのような意味合いの言葉を申した事がありましたでしょうか?」


 アーウェルおにーさまと接するようになって、まだ四日。セーファスオジサマとは今日が初対面。

 この四日間、本物のエイプリルお嬢様がどんな人で何を考えていたのか、おとーさまもおにーさまも、あたしに詳しく語ろうとしないところを見るに、真のレディ・エイプリルを無理になぞらせるつもりは無いのかと推測せざるをえなかった。

 けれど、おとーさまもおにーさまも、本当のエイプリルお嬢様とは不仲の絶縁状態で、彼女の事を全く把握していないから、あたしにろくな情報を渡せないのだとしたら?

 あたしは『真のエイプリル』を知る人が誰であるのか、どういった関係なのかも分からないまま、疑いの目を潜り抜けて『レディ・エイプリル』を演じ抜かなくてはならない。

 ……ボロい仕事だと思わせて、なにこの綱渡り。


「アーウェルも、そうはっきりと言ったのではないけれどもね。アーウェルは私だけではなく誰に対しても、エイプリルに関する話題を語らう事をとことん嫌がるし。

エイプリルはアーウェルが留守にしている隙を狙って、王都の屋敷へ滞在しているとしか思えない時期にしかやって来ないし。たまに会う君は、兄をどう思っているのかと私が尋ねても、いつだって不機嫌そうに表情を固くしてだんまりだったものだから。

……長年の兄妹喧嘩から、仲直りしたのかな?」


 セーファスオジサマはとっくにあたしの事を身代わりだと見抜いていて嘘を吐いているかもしれないし、そもそも本物のエイプリルお嬢様とアーウェルおにーさまの仲を早合点して、勘違いしている可能性だってある。

 けれど、あたし扮するエイプリルお嬢様がアーウェルおにーさまと仲違いする予定が無い以上、あたしはにっこり笑ってこう言うしか無い。


「わたくしとアーウェルお兄様はとても仲良しですし、この先も一番大切なお兄様です」

「そうか。兄弟は仲良くするのが一番だ」


 穏やかに笑い返してくるセーファスオジサマは、馬首を森の方へと向ける。


「この先の湖の畔で、今の時期だとベリーが生っていたはずだ。お土産に摘んで行こうか」

「はい、叔父様」


 麗らかな春の昼下がりだと言うのに、身代わり生活に早くも暗雲が立ち込めてきたよ。

 けれど、あたしを不安にさせた張本人のクセに、腕で支えてくれているオッサンの胸元に体重を預けると、何だかとても安心出来た。


 ねえシスター、血の繋がった身内と一緒にいる時って、もしかするとこういう感じなのかな?



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