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 結論から言うと、あたしの読み書きレベルでミズ・メイヒューから叱られる事は無かった。

 ……うん、この言い方だとちょっと違うな。

 あたしのあまりの不出来さに、ミズ・メイヒューには驚愕のあまり失神された。ハッハッハ。

 いや笑い事じゃないんだけど、あたしとしても笑うしか無い。


 特権階級含む貴族のご令嬢方が働かないってのは、単純な肉体労働をしない、って意味だ。彼女らは社交場での交流や遠方に住まう知人との手紙のやり取りで情報を収集し、屋敷内で働く使用人に指示を出し統括するボスであり、着飾ったり贈り物をするなどの様々な手段で、属するグループや一族における看板や広告塔の役割を果たす。

 というのが、ミズ・メイヒューの一般的な貴族令嬢の生活についてのご解説である。


 うーん、それって多分、劇団での副団長の役割に当たると思うのよね。街の偉い人との交渉とか、団員の体調管理とか、色々やってて頼りにされてた。

 あたしにもそういった役割が期待されているのだとすると、これは本当に大変な仕事を引き受けたと思う。


「輝けるブリズセリュトの」

「輝けるブリズセリュトの」

「大地に永遠と幸を」

「大地に永遠と幸を」

「主 (しゅ)よ」

「主よ」

「あなたの愛し子を見守り下さい」

「あなたの愛し子を見守り下さい」


 ミズ・メイヒューが朗々と読み上げる詩を、あたしも歌詞カードをじっと見つめながら発音に気をつけて復唱する。因みにこの唄は、このブリズセリュト王国の国歌だ。そらで歌う機会なんてそうそう無いが、それでも歌えなかったら恥をかく。

 書き取り練習の方は、歴史の授業を聞きながら歴史的事件や有名人の名を書き込んで覚えていく。お陰で今のところあたしの綴りが完璧だと自負出来るのは、過去の偉人ばかりなり。

 本日はカレンが演奏してくれる鍵盤の音色に合わせて国歌を斉唱したら昼食。その後は刺繍を練習し、古典文学を習い、午後のお茶を頂いた後は、日によって数学と理科だったり、ダンスレッスンもしくは乗馬、または楽器練習の時間だ。

 午前中からお茶までの授業は礼儀作法と宮廷作法、そして読み書きと芸術関連などの、令嬢が身に付けておくべき教養の集中講座だが、その後の時間は日によって習う分野が変わる。これは、ミズ・メイヒューに習うよりもアーウェルおにーさまにお稽古をつけてもらう方がスムーズだったりするからだ。とくにダンス。


「やあ、エイプリル。無理はしていないかい?」

「お兄様」

「熱心なのも結構ですが、お嬢様は少し根を詰めすぎですよ」

「ご家族とお茶の時間を持つ心の余裕も、令嬢には必要です。レディ・エイプリル」


 今日も黙々と、ミズ・メイヒューに礼儀作法の一環として習った扇の捌き方を復習していると、いつの間にやらアーウェルおにーさまがドアにもたれて微笑んでいた。

 あたしの気が付かないうちにもうお茶の時間になっていて、お茶の支度をしているドリスが心配そうに眉を下げ、アーウェルおにーさまを居間に通したらしいミズ・メイヒューが、眼鏡の縁をクイクイしながら淡々と論じた。


「さ、座ろうか、エイプリル」

「はい」


 アーウェルおにーさまに促され、あたしは扇を手にしたままおにーさまの向かい側の席に着く。今日のところはこれでミズ・メイヒューの授業はおしまいだ。おにーさまやミズ・メイヒューとお茶を楽しんだ後は、アーウェルおにーさまに教わる事になる。


「今日は扇の捌き方を習っていたの?」


 ミズ・メイヒューが着任してから三日あまり。蝋燭代が勿体無いとは思いつつも、毎晩遅くまで本を読んで予習復習に励んでいるけれど、やはり実技を身に付けるのも難しく感じていた。

 だってさ、扇一つとってもただそよがせるだけで『品のある動かし方』が出来なければ、どんなに頑張って宮廷作法をマスターしても、令嬢失格のレッテルを貼られて令嬢方から爪弾きにされちゃうとか言うんだもん。


「はい。扇を優美に扱えなくてはいけませんもの」

「じゃあ、今日は扇で遊んでみようか。ラーラ、予備の扇を」


 習った通りに指先にまで神経を使いながら口元へ扇を持っていくと、アーウェルおにーさまは笑顔でラーラに扇を持ってくるよう指示し、受け取ったそれを実に優雅に広げた。

 ……扇の扱いって、男性もマスターしてるもんなの?


「扇はこうして、基本的には全て広げない程度に開いて持つ。

それでねエイプリル、見て見て。こうやって……」


 アーウェルおにーさまは悪戯っぽい笑みを浮かべ、優雅に扇を翻して左手に持ち、顔の前に翳した。基本姿勢が口元を隠す程度の高さだが、今のおにーさまが手にした扇の位置は頬が隠れる程度だ。


「この仕草で、『あなたとお近付きになりたい』って意味になるんだよ」

「まあ」


 ……えっ、ちょっと待って? 扇の仕草に意味があるってどういう事?

 あたしも真似して同じように動かしてみたら、アーウェルおにーさまが微笑んだ。


「それは『私についてきて下さい』だね」

「あら? お兄様と同じように動かしてみたつもりだったのですが、どこか違いまして?」

「僕は扇を左手に持っていたけれど、エイプリルは右手で持っているから。扇言葉は、些細な動きや持っているのが左右どちらの手なのかでも、込められた意味が変わってくるんだ」

「まるで秘密の暗号みたい」

「でしょう? よくよく注意して見ていないと見落とすし、周囲が賑やかで声が聞こえない距離でも、メッセージを送れたりするんだ」


 扇で語る言葉まであるとか。扇が上手く扱えるか否かに令嬢の品格が問われるというのも、あながち言い過ぎじゃないのね。

 アーウェルおにーさまが基本的な扇言葉の仕草を次々と披露して下さる。先端を右頬に当てたら了承、左頬だと拒否。

 『あなたは積極的過ぎる』だの『私にキスして良いわよ』だの『いつあなたにお目にかかれるかしら?』だの『あなたは私の心を射止めた』とか。扇がくるくる翻って、アーウェルおにーさまの目線と時折チラリと見え隠れする笑みを浮かべた口元が、何やら意味深な雰囲気を醸し出す。明らかに扇で遊んでいるだけの悪戯っぽい眼差しなんだけど、これが薄暗い夜会とかで目線に熱が秘められていたら、違う意図に取られそうだ。

 ほほう。教わる扇言葉の大半が色恋沙汰系という事はやはり、社交界でのやり取りはそういった駆け引きが頻繁に行われている場所なのか。面倒臭いな。


「アーウェル卿は扇言葉をよくご存知なのですね」


 お茶会の際のテーブルマナーのチェックも兼ねて同席していたミズ・メイヒューが、カップをソーサに置きながら感心したように言った。

 あたし扮するエイプリルお嬢様は伯爵令嬢なので『レディ』を付けて呼ばれ、アーウェルおにーさまは伯爵令息なので、名前に『卿 (ジ・オナラブル)』を付けて呼ばれる。これが侯爵家や公爵家の複数の爵位を持つ家柄の跡取り息子だと、彼らが名乗る爵位とかあったりして実にややこしい。


「所作も美しいですし、実に様になっていらっしゃいます」

「そ、そう? まあ、手先の器用さには少し自信があるけど」


 一応、おにーさまも男なんだけど。あたしに対してと似たような言い種じゃあ、おにーさまも戸惑うよなあ。ミズ・メイヒューから斜め上方向な褒め方をされたせいか、やや挙動不審に戸惑いがちなおにーさまに、あたしは助け舟を出す事にした。


「まあ、ミズ・メイヒュー。そのような言及は控えて差し上げなくては」

「不躾でしたでしょうか。私よりも品があり、とても感じ入ってしまったものですから」

「そうだとしても、ね。

扇言葉は受け取り手である男性側の方が熟知していないといけないという事は、アーウェルおにーさまは特定の方に扇言葉を向けて頂きたいご事情が……」


 ほほほほ、と笑いながら開いた扇の下で両手を組み合わせる。この意味は『お願いだから私を許して』だそうだ。

 からかいたいんじゃないんだけど、てゆーかそもそもアーウェルおにーさまをからかうとか、出来る訳無いんだけど!

 だいたい扇言葉自体が、色恋に纏わる意味ばっかりなんだもん。男性側も把握してなきゃスルーされちゃってお終いよね。何十種類とあるそれを、ちゃんと知ってるって事は、想いを寄せるご令嬢からのメッセージを心待ちにして覚えたって事かな~とか、貴族間の恋愛事情として想像させちゃう訳で。


「こらこらエイプリル。勝手な空想を膨らませないように」


 あたしの扇言葉が通じたのか見落としたのかは分からないけれど、アーウェルおにーさまはふふふと笑うだけで明言は避けた。

 教わったところによるとアーウェルおにーさまは今年十五歳。以前は婚約者がいたけれど、幼少期に病で死別して以来、次の婚約者は未定。これは……扇で密やかに心のやり取りをしている令嬢とかいらっしゃるのかしらん。


「まあ。アーウェルお兄様の内緒の恋のお話が聞きたいだなんて、思っていても口に出したりは致しません」

「言ってる。もう言葉にしているよエイプリル。女の子は本当に恋愛話が好きだね。

だけど、うーん参ったな。期待しているエイプリルには悪いけれど、僕は本当にレディと恋愛なんてした事が無いんだ」


 この、何かフワッと掴みどころの無いおにーさまが、真剣な顔して口説いてるところとか想像つかないな、とは思ってたけど、思わせぶりに扇言葉は知ってるくせにそもそも恋愛経験ナシですか。かく言うあたしも無いけどさ。


「それでは是非、想いを寄せるお方が現れましたならわたくしにご相談下さいませ」

「そんな女性が現れたら、ね」


 時折、扇で言葉遊びをしつつアーウェルおにーさまとじゃれ合っていると、ミズ・メイヒューが唇の両端を持ち上げ、多分微笑んでいる事に気が付いた。相変わらず分厚い眼鏡で表情が分かり難い。


「ミズ・メイヒュー、どうかなさいまして?」

「ここ数日拝見しておりましたが、お二方は大変仲のよろしいご兄妹でいらっしゃるのだな、と」

「そうかしら? わたくしは他家の兄弟仲を存じませんから断言しかねますが、きっとわたくしのお兄様が寛大なご気性をお持ちだからだわ」


 実際、アーウェルおにーさまってこの屋敷に来てからほぼ、あたしに付きっきりだからね。噂のお見合い相手、第五王子サマの小姓だか付き人だか雑用係って役割がお仕事だって聞いたんだけど、まだ一度も出勤している所を見た事が無い。

 妹の身代わりがある程度板に付くまで優しくサポートします、だなんて、向こうは依頼人の立場だってのにマジで寛大だと思う。


「そうだね、当家は少々他家とは事情が違うから、気風や趣を異にしているかもしれない」


 ミズ・メイヒューへにこやかに告げ、おにーさまは開いた扇でさり気なく軽く左耳を覆った。えーとあれは確か『私達の秘密を漏らさないでね』だ。あたしは段々慣れてきた動かし方で扇の先端をスッと右頬に当てた。

 ……んっと、もしかして本来はマクレガー伯爵家も、ここまでアットホームな感じじゃない、とか? あたしが萎縮しないように、おとーさまやおにーさまが、なるべく高圧的な態度は避けている事はあたしも薄々感じている。まだ会った事が無いおばーさまにお目にかかる日が、今から憂鬱だ。


「大変心地良い空気だと思われますよ」

「ありがとう。やっぱり、可愛い妹が居る毎日は自然と家の中が華やぐね」


 アーウェルおにーさまめ。取り敢えずミズ・メイヒューの前ではあたしを褒めときゃ場が和むとか思ってるわね。何かと『僕の可愛い妹』とか形容するけど、その『可愛い』は本来の意味で使ってないのは見抜いてるんだぞ、っと。

 おにーさまもミズ・メイヒューの『これぞ家庭教師!』のイメージを前面に押し出したキャラ性は苦手だと見た。


「さて、お茶も飲み終わったし、そろそろ移動しようか」

「はい、お兄様」

「ミズ・メイヒュー、今日も妹を指導してくれてありがとう。明日の朝までゆっくり休んでくれ」

「ミズ・メイヒュー、また明日もよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、お茶の席にお招き下さり、ありがとうございましたアーウェル卿。レディ・エイプリル、それではまた明日」


 お茶とお菓子を頂き、取り留めのないお喋りが一段落ついたところを見計らって、アーウェルおにーさまが次の予定に移ろうとあたしを促してきた。あー、ホントは話題提供や締めのタイミングって、お茶の席であたしが自然とこなしてみせなきゃならんスキルなんだよね。


 おっとそうだ。早速教わった扇言葉の別れの仕草をミズ・メイヒューに実践してみよう。確か、扇を持っている手の小指だけ立てる、だっけ。


「……レディ・エイプリル。その扇言葉は本来、交際相手へ交際解消を申し出る際に使われる『さようなら』です」

「あら?」


 眼鏡のレンズとレンズを繋ぐブリッジ部分を中指でクイッと上げ、窓から差し込む陽光でレンズをキランと光らせつつ、冷静な声音で解説してくるミズ・メイヒュー。


「……ぷっ……ま、まさか兄である僕が令嬢と恋をする前に、可愛い妹は家庭教師の先生と恋愛をしていただなんて……」

「もう、アーウェルお兄様ったらそんなに笑わないで下さいまし。

せっかく習った扇言葉が、恋に纏わる意味ばかりなのがいけないのです」


 笑いの波が止まっていないアーウェルおにーさまの腕を引いて、ダンスホールの方へと向かおうとしたら、ようやく笑いの衝動を引っ込めたおにーさまに制止を掛けられた。


「エイプリル、今日はこちらの廊下を通ろう」

「ええ」


 このマクレガー伯爵邸、とにかく広い。あたしが住み始めてからあちこち探検気分で覗いて回っているけれど、まだ全ての部屋の前や廊下を通っていないぐらい広い。

 おにーさまに連れられてやって来たのは、いわゆるロングギャラリーと呼ばれる肖像画がずらーっと飾られた一角。


「ほら、見てごらん。

これは一昨年、家族で最後に描いた絵だよ」


 そう言ってアーウェルおにーさまが示したのは、最新の絵だ。背景となっている室内の家具にはどこか見覚えがあるから、このお屋敷内の応接間だろう。その絵には四人の人物が描かれていた。

 見るからに厳格そうな表情を浮かべた年配のご婦人と、優しげな微笑を湛えた淡い色合いの金髪を結い上げた青い瞳の女性。椅子に腰掛ける二人の女性の横に立つ、今とあんまり変化が無いおとーさまに、今よりもあどけなく幼い印象のアーウェルおにーさま。

 彼らは全員盛装していて、華やかな服装が実によく似合う。おとーさまが肩に手を添えている女性がきっと。


「アンジェリーナお母様……」

「うん、そしてこちらは僕らのお祖母様だね」


 まだ見ぬおばーさまが、いかにも厳しそうなお方だという事前情報は、これ以上要らんかったとです。

 あたしは絵の中の唇を引き締めた老婦人から、隣の金髪貴婦人に視線を移動させた。そしてすぐ傍らに立つアーウェルおにーさまと見比べてみる。


「こうして見るとアーウェルお兄様は、お父様とお母様、両方の特徴を受け継いだお顔立ちなのね」


 淡い金髪はアンジェリーナおかーさまから。鮮やかな緑色の瞳はおとーさまやおばーさまから。顔は両親からいいとこ取りに混ぜたよーな、そんな顔立ちなのね。

 今まであたしとおにーさまの顔立ちがよく似ていると思っていたけれど、おかーさまの肖像画を見たらむしろあたしはアンジェリーナおかーさまの方に似ている、という事が判明した。あたしと似ていない部分って、ほぼおとーさまから遺伝された部分だもの。瞳の色以外。


 いやあ、しっかし驚きだわ。世の中には同じ顔した人が三人は居る、なんて言うけど。なんだってまた、身体が弱い北国貴婦人と隣国の貧民孤児の顔がそっくりなのかしら。


「それで、こちらが昨年描いたエイプリルの肖像画だよ」


 あたしがしげしげと、自分とは年齢や瞳の色以外よく似ている人物である絵の中のアンジェリーナおかーさまのお顔を眺めていると、アーウェルおにーさまが一家の一番新しい肖像画の丁度向かい側の壁に飾られていた絵を示した。

 こちらは一人の少女の腰から上の部分が描かれていて、瑞々しい若葉のような薄緑色のドレスを着ていた。淡い金髪に輝く緑色の瞳をした、アーウェルおにーさまによく似た少女。長い手袋をはめ、閉じられた華奢な扇の先端はもう片方の手の指先に置かれている。気のせいだろうか、笑顔がどこかぎこちない。


 ……って言うか、本物のエイプリルお嬢様の顔、あたし初めて見たよ。

 アーウェルおにーさまが持ってくる服はことごとくサイズがおっきいから、あたしゃてっきり本物のエイプリルお嬢様って実はすんごいおデブさんで、人前に出られないほど太って身動きが取れないから身代わりが必要になったのかと、心密かに疑ってた! 流石に去年の時点でこのスレンダーボディーなら、まだ見ぬ今現在の体型が球体はあり得んだろう。

 どれだけ本物に忠実に描いているかは分からないけれど、お見合い用に描かせたのはなく自宅に飾る肖像画を美化しまくっていたりはしまい。多分。


 ……でも、あれ? 何か違和感が……


「おお、そこに居るのは我が最愛の甥ではないか!」


 肖像画を前に、あたしが引っ掛かりを覚えてそれが何なのかを突き止めるよりも前に。背後からやたら大仰な呼び掛けがなされた。

 廊下を振り返ると、レースやら宝石でゴテゴテと飾り立てられた服を纏い、男性なのにやたらと派手な身なりの印象の人が、オーバーリアクション気味に両手を広げてこちらへとツカツカと足早にやって来る。


「おや? おやおや?

もしやそちらは我が愛しの姪か! さあ、再会を祝してハグをしようではないか!」

「ご機嫌よう、叔父上。それ以上僕の妹に近付かないで下さい」


 謎の勢いに気圧されて、驚きからか咄嗟に声も出ない。あたしは思わず、反射的に扇を右手に持ち替えて眼前に翳していた。『あなたは積極的過ぎる』というその意味を知らないのか、知っているのに敢えて無視しているのか、初対面のオッサンはズンズン近寄ってくる。


 見知らぬ人物の接近を拒否するように、アーウェルおにーさまが一歩踏み出しあたしを背中に庇った。

 まるで役者めいた態度と、張りのあるバリトンボイス。あまりにも強烈な存在感を放つ中年のオッサンは、アーウェルおにーさまの叔父らしい。

 落ち着いてよくよく観察してみると、淡い金髪に青い瞳、それに既視感を覚える顔立ちに笑う表情といい……このオッサン、もしやアンジェリーナおかーさまの兄弟じゃね?



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