1章21〜1章終話
1章21〜1章ラストまでの修正版です!
それではどうぞ!!
「そういえばさぁ、リーシャって歳いくつ?」
タナベの村を旅立ってからはや3時間。
クジラは、そういえば自己紹介したけど、これは聞いていなかったなと思っていた事を質問した。
「歳ですか?
16歳ですよ?
そういうクジラはおいくつですか?」
「え...。リーシャ、ジュウロクサイ?(嘘だろ!?同年代とか!?2つくらい下かと思ってたよ!)」
クジラは驚きが隠せないようだ。
かなり動揺しながら再度聞き直す。
「え?そうですけど...。
もしかして、もっと年下だと思ってたんですか!?
たしかに、他の同い年の女の子と比べたら、幼く見える気がしてたけど、私は16歳です!」
リーシャに幼く見えるは禁句のようだ。
軽く怒った後、頬を膨らませてクジラの様子を伺う。
「あはは、ごめんね?
幼く見てた事は謝るよ」
クジラは、怒り方も何だか幼い子みたいだなぁと思い苦笑しながら謝った。
「むぅ、次似たような事を言ったら本気で泣きますからね?」
「それは困るなぁ...。
気をつけるよ、リーシャ」
「そんなことよりも!
クジラはいくつなんですか!?
私だけしか言ってないんでフェアじゃないです!
うーんと...、顔的に20後半は言ってないかなぁ...。
私の予想は22歳!
どう、合ってますか!?」
今度は、リーシャがクジラに年を聞き、暫定的な年齢の予想をしてくる。
しかし、それは彼の年齢にかすりもしなかった。
「あー...。
違うよ、僕も16歳。
君と同い年だよ?」
クジラはリーシャの驚く顔が容易に想像でき、ニコリと笑いながら答えを言う。
「はっ?」
リーシャは、まさかの同年代ということを知り、口をポカンと開けて間抜け面を晒した。
「えぇええええええぇぇぇ!?」
彼女は、それから2、3秒間を空けた後、とても大きな声で叫んだ。
『ピギッ!?』
「(あっ、いつの間にか横にいたプチが驚いて逃げてった)」
「嘘ですよねっ!?
私と同い年ぃ!?本当ですか!?」
クジラが、リーシャの声量に驚いて逃げ出した軟体魔物のプチに気づいて横を向いた瞬間、リーシャはクジラに詰め寄り何度も聞き返す。
「うわっ!
ほ、ほんとだよ?
同年代だよ同年代。
やったね?」
クジラはとりあえずかなり驚きながら返答を待つ彼女を落ち付かせながら、同年代だということをもう1度宣言する。
「まさか、同年代だなんて思いませんよっ!?
てっきり、2つくらい上かと思ってましたよ!」
リーシャは未だ落ち着こうとせず、クジラに詰め寄ったまま話し出す。
「ま、まぁ落ち着こうよ...。
(ごめんなさい。
僕も、あなたの事を2つくらい下かと思ってました)
ほら、とりあえず水分補給しよ?」
クジラはなんとか落ち着かせる為に、タナベの村から出る前にあらかじめ具現化魔法で創作し、リュックに詰めていたスポーツドリンクをリーシャに軽くトスした。
「わわっ、ありがとう。
ちなみにこれは?」
リーシャは軽く落としそうになりながらもキャッチし、多少薄白く濁りのあるスポーツドリンクについて聞く。
「それはスポーツドリンクって言って、運動した後とか大量に汗をかいた時に飲む飲み物なんだ。
これを飲むだけで、体から抜けた重要な栄養を取り戻せるから結構な優れ物なんだと思うよ?」
「んくっ、...ふぅ。
なんか不思議な味がしますね。
初めて飲む味です」
「まぁ、嫌いな人は嫌いな味なのかもね。
僕は結構好きだけど。
それよりもさ?
同い年ってわかったんだから、別に敬語じゃなくていいんだよ?
僕達はこれからずっと一緒に旅をしていく事になるだろうし」
「そうですね。
でも、私、もともと奴隷として育てられたせいで、敬語を使うようにかなり躾けられたんです。
そのせいであまり敬語が抜けなくて...」
「あっ...、なんか変なこと思い出させてごめんよ?」
クジラは、自分が知らぬ間に失言していた事に気づき謝る。
「いえ、いいんですよ。
なので私の敬語は気にしないでください」
リーシャは、寂しそうな笑顔を浮かべて言った。
それをクジラは見逃さない。
「いやっ、それじゃだめだ!
君はもう奴隷じゃない!
1人の少女だ!
君を脅かす存在はもういないんだよ!
だから、僕を練習台にして、ちょっとずつでいいから普通の少女としての心を取り戻して行こう。
ね?」
肩をがしっとつかみ、まくし立てる。
「...っ」
クジラの言葉に彼女は何も答えられずにいた。
だが、3秒もしないうちに、目に涙が滲み始めた。
彼女は、結構涙腺が緩く、泣き虫なようである。
「リーシャ、君はいつまでも奴隷だった頃を引きずっていてはダメだよ。
それほど怖かったのかもしれない。
でも、今は僕がついてるから。
安心して、ちょっとずつ前に進んで行こうよ」
「あっ、ありがとうクジラ...」
クジラの笑顔で語られる言葉に耳を傾け、彼女は静かに涙を流し始めるのだった。
それから数分後、リーシャの涙も収まってくる。
「ごめんねクジラ...。
また泣いて迷惑かけちゃいました」
リーシャは何処か申し訳なさそうだ。
「いいんだよ。
これからは一緒に旅をするんだからね。
こんな事、ちっぽけな事だよ」
彼女の弱気な言葉に、すかさずクジラはフォローに入る。
「本当にありがとう...クジラ。
私は、貴方に出会えて良かった。
今言われたみたいに、頑張って前に進む事にする。
だから...」
リーシャは真っ直ぐクジラの瞳を見つめながら語り出した。
その喋り方を見て、彼女の中で何か大きな物が変わり、心構えが前向きになったように感じる。
「改めて、これからよろしく!」
そんな前を向いて歩き出した彼女は、まだ少し泣きながらだが、しっかりと笑みを浮かべていた。
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「そろそろ日も落ちてきたし、今日はここら辺で野宿にしようか」
クジラは立ち止まり、周囲を見渡しながら、そう提案した。
リーシャの心の在り方が変わり、2人の絆が大幅に深まってから、軽く3時間は歩いたのではないか?
とにかく、2人の体力はごっそりと減っており、顔には疲れが見えていた。
「うん。
私はそれがいいと思うよ」
リーシャはべたっと地面に座り込み、彼の意見に全身を使って賛成だと伝えている。
彼女の喋り方は敬語ではなくなり、砕けた口調になっていた。
これが本来の彼女なのだろう。
「わかった。
ならここら辺にテント張るよ」
クジラが具現化魔法を発動すると、ポンッ!という音と共に、目の前に2つのテントが設置される。
「あっ!そういえばクジラは具現化魔法なんて物を使えるんだったね。
昨日はいろんな事があったから、うっかりその事を聞き忘れてたよ」
「聞きたいことがあるって言われても、具現化魔法の事って、話せる事がないんだよなぁ...」
「どういうこと?」
「僕は、この世界に生まれた時からこの魔法が使えてたんだよ。
(流石に別の世界から転生する時に習得したなんていえないしなぁ。
それに、嘘は言っていない)」
「つまり、物心着いた頃から...。
そんな伝説級の高位魔法が使えるのならば他の魔法も全般は使えるの?」
リーシャはいい具合に勘違いをしてくれる。
この話の運びこそ、クジラの予想通りなのだろう。
「いや、具現化魔法だけしか使えないよ。
それ以外は逆に全く使い方がわからないかな?」
「なんか、凄い特異体質だね...。
そうだ、その具現化魔法は人前ではあまり使わない方がいいよ?
周りから、どう思われるかがわかったものじゃないからね」
「そっか。
リーシャがそう言うのなら人前では使わない事にするよ。
ちなみにリーシャは、なにか魔法が使えたりするの?」
「そうだねぇ...。
私は、火魔法と水魔法の治癒系が使えるよ」
「へぇ、ちなみに水魔法の治癒系って事は、水魔法は攻撃面では使えないって事?」
「うん。そういうことだよ。
クジラの国では攻撃、治癒って感じに分野ごとの隔てはないの?」
「うん。
そもそも、魔法使う人がいなかったね」
「魔法を使う人がいない...?
なんか、凄い国ですね...」
「(リーシャがとんでもなく間違った想像をしてる気がするけど、説明のしようがないから仕方ない。
スルーしておこう)」
「でも、そうしたら魔力灯などは使えませんよね?
明かりとかはどうしてたの?」
「それは魔力とは違う、光を出す事のできる道具を使ってたね。
(成る程。この世界は電気の代わりに、魔力を使って家の明かりを付けていたのね。
普通にLEDの光と同じくらいの明度あったから、まったく気にならなかったよ)」
「魔力以外の物...か。
クジラの故郷が気になるなぁ」
「あ、あはは...。
まぁ、いつか行く機会があれば着いてくるかい?」
「うん!何処までも着いて行くよ!」
「それは頼もしい限りだ。
それじゃあ、そろそろ晩ご飯にしようか?
(ごめんよ、この世界ではないから、多分行ける事は無いと思う...)」
「賛成っ!
じゃあ、準備手伝うよ。
何かすることある?」
「うーん...、悪いけど具現化魔法が全てやってくれるから、準備する事が無いんだよなぁ...」
「そ、そっか」
リーシャは何も出来ない事を悔しく思い、がっくりとした。
「さて...、何にしようかなぁ?
(外で食べるキャンプ感覚のご飯だし、無難にカレーライスあたりでいいかな?)」
「私は何でもいいよ?
クジラの作る?具現化する料理はきっとどれも美味しいんだろうからね!」
「(なんか期待されちゃってるなぁ...。
そうなるとやっぱり王道であり、絶対に味に保証ができるカレーしか選択肢はないんだなぁ)」
クジラは過度な期待をしているリーシャに苦笑いしつつ、カレーライスの具現化をした。
やはり今回も、『ポンッ!』という音と共に、炊飯ジャーとカレーの入った大鍋が出現した。
湯気が立ち香辛料の香りが空腹を促進させてくるようで、リーシャの方からごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
「それじゃあリーシャ、ご飯をこのお皿によそってくれないかい?」
「うん、わかった。」
リーシャは、だ円形の耐熱皿としゃもじを受け取り、お米を皿によそっていく。
お米が無いのだから、当然のごとく、しゃもじもこの世界では無いはずだ。
リーシャは手慣れない不器用な手つきで、2つの皿に並々のお米をよそっていった。
「クジラはこれくらいでいい?」
「あぁ、結局お代わりもすると思うから適当でいいよ」
「はーい」
クジラは、そう言ってリーシャから差し出された皿を受け取り、お玉でカレーをお米の上にかけてゆく。
「すーっ、はぁぁぁ。
なんか、凄い食欲をそそる匂いがするねっ...」
きゅるるるるる〜
「はっ!?///」
リーシャは先ほどから気になっていたカレーの匂いを大きく吸い込むと、より一層空腹感を感じたようだ。
「あはははは!
よっぽどお腹空いてたみたいだね!
はい、これで完成だよ」
「あ、ありがと///」
クジラは、お米が盛られた2つの皿にカレーをかけ終えると、片方の量が多いと感じた方をリーシャへと手渡した。
「それじゃあ、食べようか。
おかわりはいくらでもあるから沢山食べてね!」
「うん!いただきます!」
元気良く返事を返し、リーシャは大口を開け、食べ始める。
「お、お、お、お、お」
「お?
(まさか、王道であるカレーが口に合わなかったとかじゃあ無いよな...?)」
クジラは、カレーは異世界人の口には合わないのかと危惧する。
「美味しーい!!」
「(よかったぁぁぁぁぁぁぁぁ)」
しかし、真逆の返答が返ってきて、クジラはついつい手元でガッツポーズを決めてしまっていた。
「美味しい!美味しすぎます!!
なんて言えばいいんでしょうか!?
とにかくこう...、お米との相性が最高です!!」
まさに大絶賛だ。
リーシャはカレーを一口食べるたびに饒舌になっていき、ベタ褒めしていた。
「はは、口に合ってなによりだよ
。そういえば、僕もカレー食べるのは久しぶりかな。
いただきますっ。
...うん、美味しいね!
(僕好みな大きめな牛肉がゴロゴロ入ったカレーだ。
この牛肉を食べた時の食感がたまらないんだよなぁ...)」
彼も一口食べると満足そうに声を出し、食べるペースを早めてカレーライスを胃の中へと流し込んで言った。
『グルルルルルゥ...』
2人が大満足でカレーを食べている時、彼らの数10メートル先では、このような呻く声が聞こえていたが、彼らには届かず、気づいてすらいなかった...。
「ほんとこれ美味しいね!!今まで食べた中で、一番美味しい食べ物かもしれない!!」
「それはよかったよ。で、お代わりいるかい?」
「是非お願いしまっす!」
リーシャはハイテンションに皿をクジラへ渡す。
2人は未だ楽しそうに晩ご飯をを食べている。
『グルルルルルゥ...』
「んっ!?リーシャ、今...」
「うん、近くに魔物がいる...」
だが、ようやく2人が認知できるほどの距離まで魔物がやってきたようである。
2人は身構える。
それと同時に、自然と晩ご飯は中断となった。
「リーシャ、とりあえずこれを持っときな」
「は、はいっ...!」
クジラは、念の為にリーシャへ鉄の剣を渡した。
何故、絶対的有利である銃を渡さなかったというと、この世界に銃があるかわからなかったので、実戦で突然渡すのもダメだと考えたからであろう。
『グルルルルルゥ...』
「いた、あれは狼?」
「いえ、あれは狼型の魔物。
シルバービーストです!
夜行性で、集団となっては一切行動しませんが、個々の力は相当強いと、図鑑で見たことがあります!」
「シルバービーストって言うのか...。
(うわぉ...、まさにファンタジー。
とりあえず、精霊...、呼ぶか!
呼ぶならば、安定でモグラさんだよね、他の精霊さんは会ったことないし...)」
彼は具現化魔法を使用して祈る。
ズズズズズズッ
「早く来てくれ...」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
ボコォ!
『ヴラァァァ!!』
「よしきたっ!
モグラさん!
あのシルバービーストの撃退をお願いします!」
『任せなさい!!』
ブォォォォン!!
『キャン!!クゥゥン...』
土精霊モグラが、鋭い爪が付いた手でシルバービーストを薙ぎ払うと、シルバービーストは、犬のような声を出し、ビビって逃げてしまった。
「(あ〜、やっぱり強いなぁ...)」
「クジラ!?あれは一体なに!?」
リーシャは、突然出てきた土精霊のモグラに驚きを隠せず、声を上ずらせながらクジラへ質問する。
「あのモグラは僕の具現化魔法で召喚した土の精霊だよ」
「本当に、具現化魔法って反則ですね...。
ふぅ、びっくりしたぁ...」
リーシャはそっか、具現化魔法だもんね。などと呟きながら、ペタリと座り込んでしまう。
彼女もシルバービースト同様、本気でビビっていた。
『怪我は無いみたいだねクジラ君。
ちなみに、そちらの少女は?』
「あぁ、彼女はリーシャです。
色々あって一緒に旅することになりました」
『ふぅん、そうなのかい。
はじめまして、リーシャさん。
私は土精霊です。
どうぞよろしくお願いしますね』
「はっ、はい、こちらこそどうぞよろしくお願いします!」
『おっと、残念だが今回はそろそろ時間のようだ...。
それじゃあ僕は消えるよ。
君達の旅に精霊の加護ありますように』
「ありがとうございましたモグラさん!」
『うむ』
モグラは煙のように消えていく。
「ふぅ、何とかなったね。リーシャ」
「そ、そうだね。
でもまさか精霊に会う日が来るなんて私、夢にも思わなかったよ」
「そうだね...。
あぁ!?カレーが!!??」
クジラはリーシャの驚いた顔を見て満足そうにしていたが、ふとカレーのあった場所を見ると、大きな声をあげた。
「どうしたの...。
ってあぁ!?
精霊さんが現れる時の振動のせいで、全部ひっくり返ってる!?」
「...はぁ。
まぁ、助けてもらったから、ノーカンって事で許してあげよう?」
「そうだね...うぅ」
ちょっとしたハプニングが原因で、夕食は中断ではなく、終了してしまった。
「カレーの事は諦めて明日に備えるとしようよ。」
「そうだね...私のカレェがぁ...」
「あ、あはは...。
また作るから元気だそうね?」
「うん...」
2人は...、主にリーシャだが、とてもがっかりとした様子で、それぞれ設置されたテントの中に潜って行った。
[クジラ視点]
シルバービースト騒動は終わり一夜明けた。
僕達は軽く朝食を食べて、日が登り始めると共にフーの街を目指し、歩き始めた。
野宿に使ったテント、モグラによりぶちまけられたカレーと食器達は全てその場に置いて放置してきた。
はじめはどうにか処分しようと考えたようだが、いくら考えても名案は思い浮かばなかった為、そのままにしてきてしまったらしい。
「うーん、昨日は風があって結構涼しかったけど、今日は風がないせいかすごく暑く感じるなぁ...」
僕は額の汗をぬぐいながら隣にいるリーシャへ話しかける。
「そうだねぇ。
昨日はかなり過ごしやすい天気だったからねぇ...」
彼女もこの暑さに結構参っているようだ。
いっそのことエアコンでも具現化して持ち歩くか?
あ、コンセントの差し口がないや。
それにしても、この世界は村と村間が広くて移動手段も無いから結構辛いなぁ...。
電車とかの移動手段に慣れてる僕にとっては、もう嫌になるレベルだよ...。
ん?電車...?
あっ、そうだ!
自転車を出そう!
そうすれば、3倍ほどの速さでフーの街までいけるだろうし、自転車漕いでれば涼しい!
なんで僕はこれを気づかなかったんだ!
くそぉ!!
1日損した気分だ!
まっ、過ぎた事は仕方が無いね。
それ!いでよ自転車!
ポンッ!
いつもの具現化をした時の音と共に、ママチャリと呼ばれるようなカゴが付いた自転車が出てきた。
「よし!これで移動速度が上がるぞ!」
「え、その鉄の塊はなんなのクジラ?」
リーシャは、戸惑っていた。
まぁ、何も知らなければ突然変な形状の鉄塊を具現化したようにしか見えないもんね。
「これは自転車って言う乗り物で例えるなら、人力の馬車みたいな物かな?
まぁ、乗って試した方がいいでしょ?
後ろの荷台の所に乗ってくれないかな?」
僕は自転車に跨ぎ、後ろの荷台に乗るように言った。
「う、うん。これでいい?」
リーシャは若干オドオドしながら後ろに乗る。
「よし、しっかりと捕まっててね!」
シャカシャカシャカシャカ
自転車を漕ぐ音が延々と聞こえている。
はぁ、もしもバイクの免許があったりしたらバイクを具現化したんだけどなぁ...。
いま具現化しても、操作の仕方がわからなくて事故りそうだし、我慢するか...。
それからしばらくして...、
「(リーシャって軽いんだな...)」
安定して真っ直ぐ進む自転車により、僕はそんな事を考えながらペダルを踏み込む。
「わぁ凄い!
この自転車っていう乗り物は、歩きの何倍も楽だし、下手したら大型の馬車よりもかなり速いよ!」
リーシャは正にはじめて自転車に乗ったような子供のような反応を見せて笑っている。
僕も昔、母さんの漕ぐ自転車の後ろに乗った時、こんな反応したっけなぁ...。
まぁ、5歳くらいの話なんだけだね。
「リーシャにも、そのうちこれの乗り方教えて、リーシャ用の自転車を用意してあげるからね?」
「本当ですか!?
やったぁ!
私もはやく乗れるようになりたいな!」
うん、やっぱり可愛いわこの子。
いちいち感情が表情に出るところが凄くいい。
「それじゃあ、とりあえず今日は二人乗りで行くとしようか!」
「うん!もっとスピード出せる?」
「おっけー!もう少しだけペースを上げるよ!」
「涼しいー!
さっきまで、暑い暑い言って歩いてた私達がバカみたいだね!」
「はは、そうだね。
自転車乗ったら汗も一気に引いたよ。
それじゃあ頑張るかな!」
「なんか楽しちゃって悪いね?
頑張ってねクジラ!」
[クジラ視点終わり]
シャカシャカ、シャカシャカ
自転車を漕ぎ始めはや2時間。
クジラとリーシャは、徒歩の約2〜3倍の速さで道中を進んでいる。
「ふぅ、リーシャ、そろそろ止まって休憩にしないかい?」
「そうだね。
クジラもずっと自転車を動かし続けてたから疲れたよね?
そしたら、休憩ついでに私に自転車の乗り方を教えてよ!」
「うん、それ全然休憩にならなそうだね?
まぁいっか!
それじゃあ、教えながらちょっとずつ前に行くようにしよう。
そうすれば多少は休憩出来るはず...」
クジラは、自転車を降りて、リーシャに乗るように指示する。
「とりあえずはじめは、バランスを取ってゆっくりと進む事を考えるんだよ?」
「うん!
このぐるぐる回る所を足で踏み込めばいいんだよね!」
「そうだよ。
じゃあまずは後ろを持つから...って、ちょっと!??」
シャカシャカシャカシャカ!
リーシャは話を最後まで聞かず、なおかつ全力でペダルを踏み込み、凄い勢いで漕ぎ始めた。
「うわっ!わぁ!きゃぁぁぁああ!!」
ブレーキは教える暇もなかったので、止め方がわからないようだ。
かなりのハイペースでぐんぐん漕ぎ進んでいる。
「リーシャ!とりあえず漕ぐのをやめて安定させる事を意識するんだ!」
クジラは全力で走りながらリーシャにアドバイスを送る
「は、はいぃぃぃ!!!」
リーシャは漕ぐペースをかなり緩め、安定させる事を意識し始める。
多少ふらついているが、安定して運転できるようになってくる。
飲み込みがとても早いようだ。
「クジラー!私、自転車乗れたよ!!」
リーシャは笑顔で、後ろから走って追いかけるクジラの方を向く。
「ばかっ!
漕ぎながら後ろ向いたら...」
クジラは、自転車初心者のリーシャがあまりにも無謀な事をしたのを見て、慌てて声をかける。
だが、後ろを向いた時点でもう遅い。
「えっ?ってきゃぁあ!」
ガシャッ!!
自転車の横転する音がする。
クジラは、走るペースをマックスまであげ、急いで駆け寄った。
「リーシャ!大丈夫!?」
「痛たた...な、なんとか大丈夫だよ」
リーシャは軽く涙目になりながらクジラの声に応答する。
「まったく、漕てたのはいいけど、運転中の余所見は事故の元だからね?
次から絶対にやらないように気をつけないとダメだよ?」
クジラは怪我は無いと知り、胸を撫で下ろしながら軽く叱る。
「うん、気をつける...」
リーシャは転んだ事が悔しいのか、はたまた叱られてしょんぼりしているのか、暗い様子で返事を返す。
「でも、初めて乗ったのにここまで安定して漕たのはすごい事だと思うよ。
僕なんて、初めは5日くらい乗れなくて練習したもん」
クジラは、ここで叱るだけで終わらせるのはダメだと感じたのか、良いところはしっかりと褒めてあげた。
どうやら、彼は褒めて伸ばす方針のようだ。
「そ、そうなの?」
リーシャは褒められた事により、暗い表情から一転、嬉しそうな様子になる。
「(ちょろい...)」
クジラは、彼女の育成に飴と鞭は最適なのだろうと悟った。
「いまの調子でいけば、1時間もすれば安定して乗れるようになるから頑張ろうね!
じゃあもう1回乗ってみよう!」
念のためもう1度褒め、もう1度乗らせることに。
「うん!」
クジラの飴と鞭作戦に掛かっている事に気づかず、リーシャはとても自慢気な様子で自転車に跨った。
それから30分弱。
リーシャは、簡単に乗りこなせるようになってしまった。
「(やっぱりこの世界の人は、バランス感覚とかも元の世界と比にならないのかなぁ...。
まぁ、今考える事でもないね。
もう2人乗りする必要もないだろうからもう1台自転車出すか)」
クジラは、異世界人の肉体の作りに疑問を持った後、イメージを膨らませて念じた。
ポンッ!
彼が念じると、そこには初めに出した自転車と全く同じタイプの自転車が出現する。
「リーシャ、もう君に自転車について教える事はないよ。
この自転車は君の物だ」
今出した新しい自転車を、リーシャに託す。
「やったぁ!ありがとうクジラ!」
リーシャは誕生日プレゼントをもらった小学生の如く喜んでいる。
「それじゃあ、フーの街までぶらり自転車旅を再開しようか!」
「うん!この自転車大切に使うねクジラ!」
「そうだね。
そうしてくれると僕も嬉しいよ」
「さっそく行こうよクジラ!」
「了解!」
2人はとても楽しそうに移動の再開をきめた。
すると2人は真新しい自転車に跨り、ゆっくりと漕ぎ始める。
「〜♪」
リーシャはもうとにかくご機嫌であり、鼻歌まで歌い出した。
「あんまり浮かれてるとまたこけるから気をつけなよ...」
クジラはそんな彼女を見て、また転んだりしないか、ハラハラドキドキだ。
その光景は、まるで兄妹のような仲睦まじいものであった。
「でも、本当にリーシャは凄いね。
僕なんて、自分で漕げるようになってから1ヶ月くらいはこけないように必死になりすぎて、鼻歌なんて出来る余裕もなかったよ」
「そうかな?え、えへへ///」
リーシャは褒められ、ニンマリと笑う。
クジラは、表情がコロコロと変わるリーシャを見て楽しんでいるようだ。
それから、ぽつぽつと会話を続けながらシャカシャカと自転車を漕ぎ続ける。
「それにしても、あとどのくらいでフーの街なんだろうねぇ」
クジラはいい加減着かないのかと思いながら、リーシャに問いかける。
「そうだねぇ...。
自転車のお陰で、目的地までの距離が相当縮まってると思うから、このまま徹夜で漕ぎ続ければ明日の朝までには着くかなぁ?」
「うへぇ、流石に漕ぎ続けるのは勘弁願いたいかなぁ?」
「私はそれでもいいよっ!」
「えっ?じ、冗談だよね?
...本気で言ってる?」
クジラは乾いた笑みを漏らす。
「冗談だよ!
流石に私もそれは無理だよ。
今日も野宿と考えて、順調にいけば多分、明日の日が落ちる前までには着くかなぁ...」
リーシャは冗談に聞こえない冗談を交えつつ、大雑把に到着時間を答える。
「そうかぁ。
とりあえず今日は、日が落ちるまでは漕ぎ続けることにしようか!」
「そうだね!
さっ、もう一踏ん張りだねクジラ!」
「あぁ!頑張ろう!」
2人でお互いに声援を送り合いながら漕ぎ続けた。
そして、日没。
2人は、なんとか決めた時間まで自転車を漕いだ。
途中昼ごはんの為、30分ほど休憩を取ったが、それ以外はずっと漕いでいたはずだ。
そんなハードな1日を過ごした事により、歩きの時とはまた違った疲労感が2人を襲っていた。
「...ここで野宿としよう」
「...うん」
2人は最小限な言葉のキャッチボールをした後、ようやく漕ぐ足を止めた。
ちなみに、野宿の提案を出したのがクジラで、返事をしたのがリーシャだ。
「あぁ〜、疲れたぁぁぁぁぁ」
ポンッ!
ポンッ!
クジラは、自転車から降りると共に、設置済みテントを2つ具現化させる。
「はぁぁぁぁ、疲れたねクジラ...。
それにしても、具現化魔法って便利すぎるね?」
「うん...、本当に感謝してる。
...ふぁぁ、僕、ちょっと寝るよ」
「ん、そだね。
私もそうする...」
長時間運動した事により、2人とも相当お疲れな様子だ。
自転車を降りた途端、すぐにテントに入り込み、寝てしまった。
「...はっ!?あれ?もう朝か...。
やっべぇ、リーシャお腹空いてないかな?」
2人は少し休むと言っていたが、相当疲れが溜まっていた事により、そのまま夜を明かしてしまう。
クジラは目が覚めるとすぐにテントの外に出た。
しかし、リーシャは...
「...あふっ、もうだべられないよぉ...」
「まだ寝てるのか...。
とりあえず、夕食兼朝食ということで胃に優しそうな食べ物を具現化しとくか...」
テント越しから聞こえてくる寝言を聞き、リーシャが寝ている事を確信するわ、
クジラはそれをいい事に、ちゃっちゃとご飯の具現化(調理?)を始めるのだった。
「ごちそうさま!」
「ごちそうさま。
ふぅ、美味しかったね」
「うん!
このお蕎麦...っていうんだっけ?
冷たくて暑い日には最適な料理だね!
凄く美味しかったよ!!」
「うん、それは良かったよ。
リーシャが美味しそうに食べてくれるから、こっちも献立を考えるのが楽しいよ」
「そ、そう?
それなら良かった。
あ、そうだ!街に着いたら、私が料理を作ってあげるね!
流石に、男の子に自分よりも美味しい物を出されたら、対抗せざるを得ないでしょ!?」
「それは楽しみだなぁ。
それなら、僕も具現化魔法を使わないまともな手料理で対抗しようかな?
リーシャ、期待してるよ」
「任せて!絶対に美味いって言わせてあげるから!」
「よし、街に着いてからの目的?みたいなのも決まったし、そろそろ出発しようか」
「昨日は予想以上に距離を稼いだから、多分昨日と同じくらいのペースならば、昼前には街に着くんじゃないかな?」
リーシャは昨日のように暫定の到着時間を答える。
その暫定到着時間は、大幅に修正されていた。
「ほんとに!?
よぅし、やる気が出てきたぞ!
ラストスパート頑張ろう!」
「そうだね!よいしょっと...」
2人は、それぞれ自分の自転車に跨がり、昨日の疲れなど吹き飛んだかのような軽やかさでペダルを踏み込む。
若者の回復力は恐ろしいものだ。
昨日の日没は今にも死にそうなほど疲れていたのに、今はそんな様子が微塵も感じられず、笑顔で自転車を漕いでいるのだった。
だがしかし、それから約3時間後。
日が上がり、前日よりも温度が高くなっており風もない。
どうやら本日は猛暑日のようだ。
「ふぅ、ふぅ、やばっ、しんどい...。
リーシャは大丈夫かい?」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、な、なんとか...」
顔には現れてなかったが、やはり2人の中には、昨日の疲労が多少ばかしは残っていた。
それと同時に暑さにやられ、2人は体力の限界に近い。
「ゼーッ、ハーッ、ど、どうするっ?
ハァー、ふぅ...少し休憩取るかい?」
リーシャよりはまだマシなクジラが彼女に気を遣って声をかける。
「い、いやっ、ハァ、ハァ。
あと少しだとっ、思うから、このままっ、ゲホッゲホッゲホッ!い、いごう...」
「ハァ、ハァ、明らかに大丈夫そうには見えないよ?リーシャ...」
「だ、大丈夫だよっ...。
くっ、クジラの約束通りに、水分は欠かさず飲んでるから...。
それよりっ、ほらっ、なんか...見えてこない...?」
「あ、あれは...街だ!!
やったぁぁ!!僕達は勝ったんだ!!
リーシャ!!あと少し頑張ろう!」
「そっ、そうだね!
それより自転車のまま入っちゃうの!?
明らかに目立つよ?」
「あ、考えてなかったよ...。
ちょっと気分がハイになって、危うくこのまま行くとこだったよ。
そしたら、ここに倒して大きめのシートで覆って隠しておこうか」
クジラは自転車から降り、自転車を横に倒した。それに続きリーシャも同じ行動をする。
ポンッ!
クジラは、遠足などでよく見るビニールシートを具現化し、それを自転車の上にかぶせ、四方をビニールシートに付属させて具現化させた釘状の物で止めた。
「これで一応は安心だろうね。多分」
「ちょっと不安だけどこうするしかな
いよね」
「それじゃあ街に入ろうか」
そして、クジラとリーシャは街の中に入ってゆく...。
そして、ここから2人の冒険は始まるのだった...。
明日から2章の修正版にとりかかります。




