【閑話】フードファイター
閑話になります。
今回は宿屋のおばちゃんの話です。
それではどうぞ!
「あぁ〜、忙し忙し」
宿屋のおばちゃんは、声に出してるとおり忙しそうにパタパタと動き回っている。
「2人キャンセル入ったと思ったら、一気に10人チェックするなんてビックリよ!これは、腕を振るって料理作らなきゃ行けないわね!!」
ジュワァァァァ!!
おばちゃんは、豪快に大鍋に入った具材をかき混ぜ、調味料、その他もろもろ(おばちゃんの愛を含む)を加える。
「よし!今日のメインは完成!あとはスープ作りね!あー、ほんと猫の手でも借りたいくらい忙しいわぁ...」
おばちゃんは、大型の氷魔法の掛けられた魔道具(冷蔵庫のようなもの)の中から、キューブ状に切られたじゃがいものような野菜を取り出し、グツグツと音を鳴らしている茶色のスープが入った鍋へと入れた。
「さて、これはこのまま煮込んどけばいいわね!」
そう言って、おばちゃんは厨房の端っこに置かれた椅子にどかっと座った。
「はぁぁ〜、あっ、そういえばお酒のストックあったかしら?見に行かなきゃ...」
パタパタパタパタ
おばちゃんは、スリッパからパタパタと音を鳴らしつつ厨房の外の食堂に行った。
「あっ、やっぱり。もう3本しかないわね...。新規の10人と、昨日からいる4人、14人いるから最低10本は必要ね。大酒飲みがいたら困るし、人数分持ってこようかしらね!」
その時、丁度食堂の前を通りかかった宿泊客がいたのをおばちゃんは見逃さなかった。
「あっ!丁度いいところに!ちょっと!君だよ!いいからおいで!」
おばちゃんの巧みな話術?により宿泊客の男性を食堂へ呼び出した。
「200モールあげるからお酒を運ぶの手伝ってちょうだい!君も夜に飲むでしょ!?お酒なかったら困るわよね!?」
男性は、は、はぁ...?と、曖昧な返事をした。
「さて!それじゃあ着いて来て!全部で14本あるから運んでもらうわよ!」
そう言っておばちゃんは、宿泊客の男性を無理矢理手伝わせる事に成功した。
もちろん終わったら200モール払っていた。
こういうところはキチンとしているのだ。
「あらいけない!スープの火掛けっぱなしよ!?早く止めなきゃ!?」
パタパタパタパタ
おばちゃんは慌てて厨房へ戻る。
「消えろ!」
おばちゃんが、火の魔道具に手をかざすと、シュウ...と火が消えた。
念じながら魔力を注ぐと火の付け消しができる魔道具のようだ。
「ふぅ、底も焦げてないわね...。あらっ!もうこんな時間!?そろそろお客さんも食堂に出てくるわね。さっ、早く分けなきゃ」
おばちゃんは、手際の慣れた良い手つきで料理を盛り分けて行く。
「よし!完成!さて食堂に持ってくわよ。んしょっと」
パタパタ、パタパタ
やはりスリッパのパタパタとした音をさせながら歩く。
「さぁ今日は豪華に作ったわよー!!食べ残しは許さないわよ!!」
宿泊客は、運ばれてきた料理を見て、
うおおお!!
と声を上げた。
いつもこんな感じのようだ。
おばちゃんはこの歓声と、美味い!という声を聞き、ニコニコとしている。
自分の料理を褒められるのがとっても嬉しいみたいだ。
「ふぅ、今日も疲れたわ」
時間は流れ夜。
おばちゃんは、ベッドに座り誰に言うわけでもなく呟いた。
「あんたが死んでからもう20年くらいか...。昔は本当辛かったわね...。ふぅ...」
斜め上にある神棚を眺めながらため息をつく。
「あらやだいけない。こんなしんみりしてたら明日に引きずっちゃうわ!さて、今日はもう寝てしまおう!うん、それがいいわ!」
若干落ち込んだ思考を無理矢理戻し、さっさとベッドに横になり寝てしまった。
翌日、おばちゃんはいつもと変わらない笑顔でいたようだ。
もう20年近く1人で切り盛りしているのだ。
昨夜のような事は慣れたことだ。
過去に大きな試練を超えたおばちゃんの笑顔はきっと、いつまでも変わらないだろう。
【閑話】フードファイター
おしまい
次回から恐らく3章が始まると思います。
それでは次回でお会いしましょう!
感想、誤字報告、アドバイスがありましたら是非お願いします!




