当たり前なこと
最終章12話になります!
それではどうぞ!
「ヒィ…、て、手が……」
「あなたは別に強くないんだから、力で魔王なんてお仕事しているクジラ君に勝てないのがよくわかったでしょ?もうちょっかい掛けるのはやめなきゃダメだよ?」
クジラに力を込めて手を握り締められたルーシュは、若干泣きそうになりながら解放された右手をさすっていた。
「ちょっとやり過ぎましたかね?」
「ううん、キチンと痛めつけてありがとねクジラ君。ささ、こんな事をしてる間にみんな勢揃いしたみたいだよ?フーの街に連れて行ってくれるかなぁ?」
ルーシュを見ながら、少し心配した素振りを見せるクジラ。アリシヤは首を横に振って旦那を痛めつけてくれてありがとうと伝えた後、周囲を見回してトトリ家は勢揃いしたと口にする。
「そうですねお義母さん。そろそろ行きましょうか。皆さん、荷物持ってください。今から出発しますよ」
クジラは同じように周囲を見て、トトリ家が全員いる事を確認するとそろそろフーの街へと出発すると呼びかけた。
「ほらほらあなた!べつに折れたりしてる訳じゃないんだから、さすっても何も変わらないわよ!はい、荷物持つ!」
「あ、アリシヤが冷たい……」
それによって、荷物を持ってクジラを取り囲むように集めるトトリ家の面々。
「よし、それじゃあ行きますか。皆さん、適当に一列に並んで空間の裂け目みたいなのを潜り抜けてくださいね」
「「はーい!」」
クジラが空間移動を行使して空間の裂け目を具現化し、潜り抜けてフーの街へと移動するように指示を出すと、リンとレンが真っ先に飛び込んでいった。飛び込んだ先で、わー!などと驚きの声が上がっている。
「ふふっ、みんなも早く入らなくちゃ。クジラ君はまだまだ忙しいんだから、これ以上無駄に私達に時間を使わせちゃダメだからね」
そんなリンとレンを見て微笑みながら、周りの家族達に声を掛けて3番乗りで空間の裂け目を潜り抜けていくアリシヤ。それにより、一列に並んでゾロゾロとフーの街へと降り立っていった。
「さあ、あとはお義父さんだけですよ」
最後に1人、その場に残っていたルーシュ。クジラは彼に貴方が最後の1人だと話しかける。
「わかってる。お前に2人きりで一言だけ言っておきたい事があったから残ってたんだ。一旦、その裂け目を消せ」
ルーシュは腕を組み、目を瞑りながらわかっていると言ってクジラに空間の裂け目を消すように伝える。
「あー、僕からは消し方がわからないですけど、経験的にあと10秒もすれば自然となくなるんでちょっとだけ待っててください。……よし、消えましたね」
クジラは自分で空間の裂け目は消し方がわからないと口にした後、10秒ほど待てと伝える。約10秒ほどすると彼の言う通り、空間の裂け目は自然と消えた。
「……じゃあ言うぞ?2度は言わないからな?……最高の結婚式を挙げる為に、様々な場所に空間移動しては駆け回って、リーシャを心から喜ばせようと奮闘出来る位に、リーシャを愛しているんだろ?ならばお前が死ぬまでリーシャに全てを捧げる程に愛し続けろ。そしてリーシャに辛い思いを絶対にさせるな。でなければ俺はお前を呪ってやる。武力では叶わないから、呪術や黒魔術といった類の技術を死に物狂いで獲得して、お前を呪い苦しめてやるからな!」
ルーシュは空間の裂け目が消えて誰にも話を聞かれないだろうと判断すると、クジラの目を見ながら言葉を紡ぎ、彼の胸に軽く拳を押し当てた。
「当たり前の事を言わないでくださいお義父さん。何度も言う通り、僕はリーシャが好きで好きで仕方がないんですから。他の女性に目移りする事なんてないですし、この気持ちが冷めるなんて事、ありえないと思っています。……さあ、フーの街に行きましょう?」
クジラは軽く笑うと、当たり前の事を言うなと言って自分の思いを伝える。
「……ふん、無駄な話だったか。じゃあさっさと行くぞ。……お前を息子と認めた訳ではないから勘違いするなよ?」
「あはは、いつか認めさせますから」
フンと軽く笑うと、クジラに空間移動を使うように命じるルーシュ。大分、ルーシュに認められたのかなと思いながら、クジラは頷いて空間移動を行使するのだった。




