思考崩壊と苦労人
9章179話になります!
本日は1回のみの投稿です!
それではどうぞ!
「はふはふっ、あーむっ……。ん〜!美味しい〜っ!!バーベキュー最高〜!果実酒も甘くておいし〜!」
リーシャは小さなトングを用いて肉をタレに付け、口の中に放り込む。この世界でバーベキューをする時は、トングを使って焼いた食材を食べるらしい。モキュモキュと炭火焼きの肉を食べてはコクコクと甘い果実酒を飲み、とても幸せそうだ。
「ああ、これは美味いっ!なかなか良い肉を買って来たじゃないか!それに、んくっんくっ……、プハァッ!!ビールが美味い!バーベキューやりながら飲むビールは恐ろしい程に美味いな!」
「マールさんの食いっぷり、リーシャが言ってた通り本当に凄いな……。今の時点で軽く人の3倍くらい食べてるのかな?」
「はっはっはっは!勇者は日々の労働に耐えきる為の身体作りが必須だからな!基本みんな大食らいだし、私以上に食べる猛者も何人かいるぞ!ほら、クジラ君も張り切ってモリモリ食うんだ!そんなヒョロっちいままだと、いつまで経っても外見に魔王としての貫禄が出てこないぞ!」
クジラがマールの食べっぷりに驚いていると、マールは豪快に笑いながら大体の勇者に該当する特徴を口にする。ビールを何杯飲んでいるのかはわからないが、完全に酔っ払った様子だ。彼女はクジラの言葉に返答をした後、ちょうど良い絡み相手が現れてくれたなと言わんばかりにクジラの肩に腕を回し、もっと食えと告げる。どうやら絡み酒をするタイプらしい。
「む〜!マールさんってば私のクジラにベタベタしすぎー!クジラもデレデレしちゃダメだよ!」
「リーシャ、僕は酔っ払いに絡まれてもデレデレしないから安心してね?というか、リーシャもだいぶ酔っぱらってるね。顔真っ赤だよ」
マールがクジラと肩を組んでいるのをいち早く見つけると、若干不安になる足取りでクジラの目前にやって来て文句を告げるリーシャ。クジラはわかりやすく嫉妬してくれているリーシャにほっこり笑顔を浮かべながら、安心するように伝えると顔が真っ赤だねと話を逸らし始める。酔っ払いと絡む時は、面倒な話題は軽く受け流して別の話題を展開していくのがベストな対応なのだ。
「えへへ〜、私は顔に酔いが出るけど、実際まだまだ余裕でここからが本番な人だから大丈夫だよ〜。マールさんマールさん!バーベキューセットにジャンジャン焼いてないお肉を置いていって!真ん中から右半分が私、左半分がマールさんのスペースね!自分のスペース以外からお肉取っちゃダメなんだから!」
「そっちこそ焼くのが待てないからって私の領域から肉を取るなよ?ああ、クジラ君はヒョロっちいからドンドン食べるんだ。どちらの領域の肉を食べても良いからな?」
「あははは、ありがとうございます(酔っ払いの言葉は信用して良いかわからなくて怖いなぁ。2人の目線が焼肉以外の所にある時を狙って食べる事にするか)」
自身の焼肉のスペースを決めて、互いのスペースには不干渉でいこうという条約を結ぶ酔っ払い勇者2人。クジラはその後にマールから言われた言葉に対し、愛想笑いを浮かべながら酔っているから信用に値しないなと判断し、食べる時は目線に気を付けようと心の中で決めるクジラ。彼は酒に結構強いらしく、唯一普段通りな様子である。
「……待てよ?私は勇者だし、聖なる力的なもので生肉を食べても腹を下す事は無いのでは……?」
「という事は私も……っ!?」
「ちょっ!?待って2人とも!生肉食べたら危ないって!よって頭が悪くなってるよ!?ほら、マールさん生肉持つの禁止!もちろんリーシャも!僕が焼いてあげるから、焼けるまでそこで待機!良いね!?」
「わ、わかった……。卵に絡めれば豚の生でもいけそうな気がするがなぁ」
「えへへ〜、クジラに怒られちゃった。でもね?マールさんと私の胃は勇者パワーで生のお肉も普通に消化出来ちゃうんだよ?」
「……はぁ、酔っ払いの世話は辛いねぇ」
焼きあがるのが我慢出来ない酔いで頭が壊れた2人が、隙あらば生で肉を食おうとする為、クジラは細心の注意を払って2人を監視しながら肉を焼き続けるのであった。おそらく彼が、会場内で1番の苦労人である。




