夫婦のルール
9章114話になります!
本日2回目の投稿です!
それではどうぞ!
「(どうしよう…。全力で謝罪するタイミングがわからない…。というか、どう謝れば許してもらえるんだろうか…)」
「(うぅ…、どうしよ…。昨日の事を許してあげて、自分も怒り過ぎた事を謝って仲直りするタイミングがわかんないよぅ…。そもそも、ほとんど理不尽な感じに怒ったんだし、クジラは許してくれるかなぁ…?)」
クジラがリーシャにブチ切れられた翌日の朝。2人はクジラのスマホのアラームでモゾモゾと目を覚ますと、困り果てた様子で顔を合わせた。結局昨夜は仲直り出来ず、朝を迎えてしまったようである。普段は仲睦まじくピタッとくっ付いて眠る2人だが、今日は違ってテントの右端と左端で横になり、真ん中でリコとリオが眠るような感じだった。
キュ〜…
「うぅ…」
「あ、朝ごはんにしよっか」
「…う、うん」
顔を合わせ、2人揃ってどうしようと困っていると、リーシャのお腹から可愛らしい音が響く。クジラはそれを幸運だと感じ、朝食にしようと言って準備を始めた。この2人、仲違いになってからマトモに会話が成立してるのは食事の話だけだ。ちなみに、リーシャは可愛い鳴き声を出してしまった空気の読めないお腹を押さえ、赤面しながらクジラが朝食を出してくれるのを待っている。沸騰して怒りメーターマックスだった頭も今はもう完全に冷めたようで、彼女の心の中は昨日の暴走に対しての後悔と申し訳なさで埋め尽くされているといった様子だ。
「リーシャ、今日はトーストサンドにしてみたよ。はい、どうぞ」
「うん、ありがと…。いただきます…」
クジラに見られながら、小さくひと口トーストサンドを齧るリーシャ。普段ならばそこから転々と会話が広がっていくはずだが、仲違いの事もあって必要最低限な会話しかない。
「…ごくっ(トマトとチーズが沢山入ってて美味しい…。クジラにそれを伝えて笑い合いたいけど、どうやって話を切り出せば良いかわからない…)」
「…ごめん、もしかしてあんまり美味しくなかった?」
「い、いやっ!そんな事ないよ!とっても美味しい…!」
「そ、そっか。それならよかったよ…」
リーシャは10回ほど咀嚼し飲み込むと、チラッと一瞬だけクジラを見て、困ったような顔をする。そんな彼女の表情を目撃してしまい、若干泣きそうな顔で謝罪をしながら口に合わなかったかと聞くクジラ。昨夜から冷たい態度を取られている事もあって、メンタルがボロボロだ。それに彼女は慌てて美味しいと返答をする。それは普段の2人ならば絶対にありえない程、ぎこちないやり取りだった。
…
……
………
「「ねえっ…」」
黙り込み、トーストサンドをモシャモシャと食べながら時折チラチラと互いに視線を送って、目が合ってしまったらバッと勢いよく顔を背けるという行為を何度か繰り返すと、思い切ってほぼ同時に声を掛け合うクジラとリーシャ。
「「っ!?」」
まさかタイミングが合うとは思わなかった2人は驚愕し、顔を見合わせて言葉を詰まらせる。
「ぷふっ…、あははははっ」
「えへへへへ…」
互いの驚く顔が面白かったからか、数秒ほど顔を見合わせた後、どちらからともなく笑い合った。
「「ごめんなさいっ!!」」
そして、2人はまた同時に謝り頭を下げる。流石は溺愛し合うバカップルといったところだ。息はピッタリである。
「私から言わせて?あの…、私が元々の原因を作ったのに、勝手に怒り出してあんなに酷い態度をとって、本当にごめんなさい…。朝起きてクジラの顔を見て、なんだか凄く昨夜の事を後悔しちゃって…。その…、許してくれるかどうかはわからないけど、謝りた…」
「リーシャぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「はぅあっ!!??ちょっと、最後まで言わせてよぅ!」
リーシャがショボンとした様子でクジラに向けて謝罪の言葉を伝えていると、我慢の限界を迎えたクジラはリーシャに飛びつき、思い切り抱きしめた。それに驚きマヌケな叫び声をあげながら、彼の体をグイグイと押して最後まで言わせろと文句を言うリーシャ。
「…無理!どれだけ寂しい思いをしたと思ってんのさ!夜だって、このままリーシャに本気で嫌われたらどうしようって不安な気持ちで寝付けなかったし、さっきリーシャがトーストサンドを食べながら変な顔をした時なんて、嫌われたらどうしようじゃなくて、もう嫌われたんだなって思いかけたんだよ!?もしもあの状態がもう少し続いていたら、心が折れてリーシャの前から逃げ出す所だったよ…」
「ごめんね?本当にごめんねクジラ。そこまで私なんかのせいで傷付いてたなんて思わなかった…。本当にごめんなさい…」
クジラは昨晩から我慢していた感情がドッと吹き出したのだろう。珍しく涙を見せながら、リーシャを抱きしめる力を強めながら思った事をそのまま口にする。そんな感情任せな言動をしているクジラを受け入れ、抱きしめ返しながら何度も謝るリーシャ。自分のクソみたいな態度が彼にどれだけ負担を掛けていたか知り、罪悪感で心がパンク寸前といった様子だ。
「…ごめん。男なのに急に泣き出しちゃって…」
「ううん、クジラの本音をいっぱい聞けて私は嬉しいかな。…本当にごめんね?いくら怒ったとしても、あんな酷い態度は絶対にしないから許して欲しいな…。私、クジラに嫌いって言われるのは死んでも嫌だから…」
ひと通り感情のままにわめき散らし終えると、冷静になって謝るクジラ。リーシャは抱きしめ返しながら後ろに回した手で彼の頭を優しく撫でて慰めつつ、許しを請う。
「僕だってリーシャに嫌われるのは死んでも嫌だよ。だから、別に昨夜みたいな怒り方とか態度を取ってもいいけど、僕の事を絶対に嫌いにならないで欲しいな。それを喧嘩中にどう伝え合うかが問題だけども…」
「それならさ…、今度から喧嘩をしちゃったら、思い出した方からタイミングとか関係無しに好きだよって伝える事にしよう?そしたら、伝えられた方もこっちだって好きだよって返すの。そしたら安心して喧嘩出来るでしょ?」
クジラの言葉に対し、リーシャは抱きしめるのをやめて彼と30cmほどの距離を空けて顔を合わせると、ホニャッと笑顔を見せて2人だけの喧嘩の時のルールを提案した。
「なんかそれ、あまりのおかしさに耐え切れなくて、喧嘩を再開する前に和解出来そうだね。うん、そうしよう。喧嘩したら、思い出した方から好きだよって伝える。夫婦の約束だね」
「夫婦…。えへへ、うんっ!それじゃあら指切りげんまんしよっ!私、この約束は絶対に忘れない!携帯にメモも残しておくね!」
2人は夫婦間のルールを作ると、楽しげに笑い合いながら指切りをする。彼らの時間でいうと半日ほどの仲違いは、同タイミングの謝罪によって幕を閉じるのだった。
予約投稿が予約投稿してくれない…。




