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メール  作者: ミナセ。
4/10

3通目

~メール3通目~


 いつも通り、6時50分に目が覚める。

 もう、習慣になっている。

 携帯のアラームより先に目が覚めてとめる。

 そして、テレビをつける。


 少し頭が痛い。

 二日酔いだ。


 昨日、かなりお酒を飲んだが、お酒より、色々なことがありすぎて

 頭がうまく回っていない。

 昨日、優子からのオルゴールのメモを見てからの記憶がかなりあやふやだ。


 こういう時はいつもの日常の繰り返しが救われる。

 とりあえず、会社に行こう。

 おもりが付いた頭を抱えて動き出した。




「おはようございます」


 明るい声で現実に戻される。

 宮部である。


「ああ、おはよ」


 返事をしながら、ふと思った。

 昨日、宮部とどう分かれたのだろう。

 よく思い出せない。

 昨日のことを聞こうと思ったけれど、なかなか切り出しにくく、


「昨日、ごめんな」


というあやふやな言葉で片付けてみた。


「昨日、加藤さん、飲みすぎですよ。大変だったんだから。

 これは何かでお礼してもらわないといけないですね~

 今週末どこか連れて行って下さいよ~」


 まあ、この話し方なら普通に分かれたんだろう。

 もし、何か間違いでもあったら、今みたいな二日酔いの頭痛じゃすまなそうだからな。


「まあ、今週も休めるかどうかまだ解らないから。考えておくよ」


 なんか適当なセリフでごまかしている。




 今日も一日が始まる。

 朝はメモを見る事から始める。

 いつも帰り際、明日することを箇条書きにメモを残している。

 記憶なんてあやふやだから。

 覚えているより、メモを見るほうが安全だし、すんだら捨てていけばいいんだから。




 そういえば、優子と付き合いたての頃、事故の後遺症で記憶が10分しか保てない人の映画を見に行ったな~

 確か「メメント」とかいったはず。

 たまたま、テレビで見ていて宣伝していたから見に誘ったんだった。

 あれが、そういえば、初めてこっちから誘ったデートだったな~

 付き合いたてが一番楽しかった。

 いつからだろう?すれ違い始めたのは。




「加藤さん、2番にF電機の川室さんからお電話です」


 宮部の声で現実に戻される。

 最近よくトリップする。

 どうやら、何かどこかに非日常に逃げたがっている自分がいるのかもしれない。


「お電話変わりました加藤です」


 昨日受注をもらった方からだ。

 相変わらず。宮部は名前を間違えてくる。


 受注の進展が起きた。

 技量は低いから金額は落とすという方向で、一度面談を行うという事である。

 通常派遣であれば、事前面談は行わないのだが、実際は行っていることの方がほとんどである。


 電話後、採用担当と打ち合わせを行い、その後、連れて行く当人と打ち合わせをした上で、面談日を決定する。

 スムーズに事が運び明日の10時に面談が決まった。


 今日は面談内容の事前確認とその用意のために、また日野へ営業となる。

 予定が変わった。

 そんな事はよくあることだ。




「いってきます」


 また誰に向かっていっているのかわからないセリフをいう。

 会社を出てすぐにメールがきた


「今日はどこに営業に行くんだ?

            昼一緒に食べないか?」


 良からだ。

 昨日のことも相談したかったし、かなりありがたかった。

 何かあったとき、一番助けてくれるのは良だ。


「今日も日野~ 受注の進捗がでました(^o^)v

       ファミレスでよければOK」


 良からのメールは嬉しかったが、実は優子からのメールを期待していた。

 今日はまだ来ない。

 一日1通来るはずなのに。


 メールが来る。良からだ。


「OK じゃあ、1130に日野で」


 待ち合わせ場所は特に決めない。

 ある程度の時間がわかっていれば。




 仕事が始まる。

 プライベートがどうであれ、仕事なんてどうにでもなるものである。

 ただの流れ作業なのだから。

 気合いが入っていたのは、はじめだけ。

 気が付いたら惰性でも動いていく。

 ベルトコンベアーの荷物みたいに。


 ただ、バイブにしている携帯だけが今日は微妙に震えていた。

 鳴っていない携帯なのに震えた気がする。

 妙に気になる。

 まるで、拾ってきたネコに首輪をつけたかのような、違和感。


 そのせいか、11時には日野についていた。


「少し早く着いてしまったよ。そっちはどう?」


 メールをしてみる。

 問題がなければ、すぐに返事が来るだろう。


そしたら、


「後ろを見てみなよ」


 昨日と同じようなメールが良から来た。

 面白くないな~っと思って後ろをみたら、そこに良がいた。


「おいっす。こっちも早く終わってね。

でも、眠いね~」


 おおきなあくびをしている良がいた。


「ゆうべ眠れなかったのか?何かあったのか?」


 目が赤い良が気になって聞いてみた。

 もし、良自身がプライベートで何か問題を抱えているのに、こっちが良に頼ったら、負担になる。


「おいおい、昨日覚えていないのか~

夜中に電話してきて、話したかと思ったら、いきなり寝始めたんだぞ~

お酒飲むのは勝手だが、そういうのは勘弁してくれ。

しかも、酔っているせいか、話がわかりにくかったし、気になって眠れなかったよ」


 どうやら、昨日夜、良に電話していたらしい。

 記憶にはないが、そうとう消化できなかったんだろう。

 寝る前に良に電話していたらしい。


 そういえば、昔良に聞いたことがある。

 色んな人から相談受けるから携帯はいつも枕もとにおいてあるということ。

 しかも、夜は不安になりやすく、誰かに話したくなる傾向が強いからだとか。

 よく体が持つと思う。


 なんか、良の性格から相談したら真剣に乗ってくれるけれど、真剣すぎるから相手より悩んでしまう事もあるのを知っている。

 だからこそ、夜中は電話しないようにしていたのだが・・・


といっても言い訳になるので、良には


「すまなかった。しかも実は覚えていないんだ。

わるい」


としかいえなかった。


「まあ、いいよ。まあ、食べながら話そう」


 にっこり笑ってくれる良だからこそ安心できる。

 そういえば良ってあんまり怒らないよな~




 ファミレスについた。

 ファミレスを選んだのは、話が長くなるのがわかっているからだ。

 少しうるさいが、妙に学生の時、勉強会をしたのとか、集まってわいわいしたのを思い出す。

 そういえば、社会人になってから、あまりこういうところで話し合うことが減ったような気がする。

 いや、誰かと真剣に話をすることが減ったのだろう。

 それだけ、表面上の付き合いが増えた証拠かもしれない。


「それで、思うんだけどな~」


 おもむろに良が話し始めてくれた。

 人の話を聞いて、まとめて感想をいう。

 ただそれだけなんだけれど、それが良はすごく上手だ。

 良が話し始めた。



「まず、『助けて』のメモから『他殺』と想定して話すよ。

『助けて』とメモを残したという事は、その時点では『殺される』という恐れはあったけれど、

確実ではなかったと思う。

本当に『殺される』直前なら、そういうまどろっこしい事はしないと思う。

おそらく、お前に『危険』があることを知って欲しかったんだと思う。

これだけの理由ならこの『危険』は大きな事、つまり『殺される』ほどの事ではなかったかもしれない。

けれど、もし、なんらかの理由で『電話』や『携帯』、『メール』を使用することが出来なかったとしたらどうだろう?

桜井からのメールで店が『ピンクパンダ』だとわかるのは4人だけだからな。

つまり、誰かに気付かれずにSOSを出したかったのかも知れない。

まとめると2つ。


1つは、小さな危険があって、お前に気が付いて欲しくて行ったこと


2つは、大きな危険があって、しかも電話やメールでは伝えられないのでとったこと。


このどちらかじゃないかと思うんだ。

けれど、結果的に桜井が死んでいる事から、後者じゃないかと思うんだがどうだろう?

何か心当たりはあるか?

ただ、あくまで推測だから間違っていたらごめんな」


 淡々と話す良を見て相変わらずすごいと思った。

 それは、漠然とショックを受けていただけの私と違ってここまで整理できるものなのかと思った。


「確かに何か理由があったからだと思う。けれど、どうして電話やメールをせずにこういう方法をとったのだろう?」


 良のいう事は解るが、優子に私は信頼されていなかったのだろうか?

 確かに、仕事を行う比重の方が多かった。

 鳥のつがいのように一緒にいたこともほとんど無かった。

 けれど、何かあるのなら相談してくれれば良かったのに。


 悩んでいる私を見て良が語ってくれた。


「おそらく。盗聴か盗撮かされていたのかもしれない。それに、桜井はお前を信頼していなかったのではなくて、巻き込みたくなかったのかも知れないし、また、心配かけさせたくなかったのかもしれない。

ごめんな。うまく言えなくて。

でも、桜井も仕事の方がウエイト大きかったが、お前を思っている気持ちも強かったと思うよ。

なんというか、気を使う子だし・・・」


 ものすごく、一言ひとことを考えながら良が話してくれているのが解った。

 ただ、何か心の中でひっかかるものがあった。

 それは解らなかった。

 ただ、それとは違う何かが口から出てきた。


「実は、一番初め優子からきたメールがわからなかった。ただ、優子の部屋に行ったんだ。

そこでなにか言い様のない違和感があったんだ。

もしかしたらそれは誰かに見られていたからかもしれない。

週末にでももう一回優子の部屋にでも行ってみようかと思う」


 そう、2通目のメールから考えると1通目のメールがわからない。


「私はあなたと一つになるの。だから苦しまないで。 これは、はじまりよ。私が見てきたものと同じ景色に触れて。まずは私の部屋よ」


 良に1通目のメールを見せてみる。

 悩みながら良は話してくれた。


「あくまで俺の感想だから正解と思って聞かないでくれ。

まず、苦しいことが起きるという事なんだと思う。

それと、桜井が経験したこと、起こっている事をたどって欲しいんだと思う。

こういう書き方をするのは直接書きたいけれど、書けないからこう書いていてのかも知れないな。

もう一度行ってみるか。桜井の部屋に」


 良の話し方がすごく急であった。

 まるで今から優子の部屋に行くかのように。


「まさか今から行くんじゃないよな?」


 ひょっとしたらと思って聞いてみたら。


「何いっているんだ。今からに決まっているじゃない」


 この行動力があるからこそ、良なんだ。

 そう思うことにした。




 優子の部屋は明大前にある。

 駅からは少し歩くけれど、便はいい方だ。

 そういえば、この付近ではいっぱい店に連れて行ってもらったな。


 そう思いながら歩いている。

 どこかで、現実を否定しながら、どこかで過去に封印したいとも思っている。

 おかしなものだ。


「ここだよ」


 古びてはいるが、しっかりしているマンション。

 7階建ての4階。

 エレベーター降りて右奥に優子の部屋はある。


 来る前に警察には連絡していた為中には入れるようになっている。


「何かメールで進展はありましたか?」


 以前取り調べの時にいた警官の方がいた。

 良が手短に説明をしてくれた。


 部屋に入る。

 誰かに見られている。

 言われればそうかも知れない。

 けれど、違和感はどこかにある。


 ベットに小さいテーブル。

 テレビとパソコン。

 衣装ケースに化粧ポーチに鏡。


 相変わらず、無機質な部屋だが何かいつも見慣れているものと違う。


「見つかりました」


 捜査官が小型カメラと、盗聴器を発見した。

 良の推測は確定となった。


「これを元に設置した犯人を追跡いたします」


 そのセリフも別に安心できるものではなかった。


メールが来た。


「あなたからもらった

一番大事にしていた宝物は何かわかる?

それをさがしてみて」


 優子からだ。

 私が優子にあげた宝物。


***************************


「ありがとう。これ私大事にするね」


 このセリフは、去年のクリスマス優子に指輪を買った時。

 それまで、お互い指輪を持つことなんてなかったから。


 それからずっと右薬指にしてくれていたはず。

 確か、最後の夜も指にしていた。


***************************


 外していなかったはずだ。

 もし、外しているとしたら・・・


 私は鏡の下にあるアクセサリー入れを開けてみた。

 そこに、あの時、クリスマスの時にあげた指輪入れがあった。

 開けてみると指輪の変わりに鍵が入っていた。


 この鍵のことなのだろうか?

 だが、この鍵いったい何の鍵だろう?

 マンションの鍵としては小さいから違うだろう。

 けれど、この部屋には鍵をかけるものはこれといってない。

 この形状、もしかしたら、いやそうかもしれない。


 昨日のオルゴールに鍵穴があった。

 確信はもてないが。


「どうした、加藤?」


 良が話し掛けてきた。

 メールのこと、鍵のこと、オルゴールのこと。

 一つひとつ説明をしていく。


「そのオルゴールどこにあるんだ?」


 良の当たり前の質問に答えられない。

 そう、覚えていないのだ。

 今朝、手元にはなかった。

 宮部なら知っているかも知れない。


 プライベートな内容だから、宮部の携帯にメールしてみた。


「昨日のオルゴール知らない?実はあれ、必要なんだ~

                    知っていたら教えて?」


 あまり、携帯にメールはしたくなかったが、会社のパソコンに残るのは避けたかった。


 すぐに返事が来た。


「私、持ってますよ~ 欲しいけれどダメみたいだったから預かってます。

    明日持ってきますね。でも代わりに何か下さいね。では、お帰り待ってます」


 何か買わないといけないのか。

 仕方がない、駅前で何かそれっぽいものを買っておこう。

 ため息ついていたら、良にメールを覗き見された。

 そして良に


「大変だな~

 でも、明日にはオルゴールも手に入るし、今日の回収からある程度のことはわかると思う。

 まあ、元気だしな。

 ところで、明日の昼はどうなんだ?」


といわれた。

 ふざけてからかわれるかと思ったが、良はいたってまじめだった。

 真剣に今回の決着をつけようとしてくれている。

 他人事だけれど、こういう時良は最後まできちんとしてくれる。

 だからこそ、相談をしやすいのだ。


「明日はちょっとダメなんだ。

 朝から客先に人を連れて行かないといけないから

 悪い」


 良にそう答えた。

 確かに明日オルゴールやら、警察からの進捗で一段落出来るかも知れない。

 何か理由がわかれば楽になれるだろう。

 逃避している自分からも楽になれるはずだ。


「そっか、じゃあ、明日夜明けておけよ。

 そうだな。新宿の南口のポストあたりに8時くらい。

 そうしよう」


 珍しく、良が時間も場所も指定してきた。

 何かあるのかな?

 なんとなく、そう思った。

 まあ、明日になれば解る事だ。


 あまり仕事に穴もあけられない。

 良と二人して、仕事に戻った。



「ただいま戻りました」


 また、誰に言っているのかわからないセリフをいう。

 返ってくる返答もまた覇気のないものである。


 そんなものだ。

 流れ作業な仕事だから。


 明日に向けて打ち合わせを上司とする。

 段取り、見積もり、質問内容の事前チェック。

 そして、日報作成と、行動予定作成。


 昨日はあまり寝ていなかったせいか、今日は仕事もそこそこで帰ろうとした。


 メールが来た。


「まだ、仕事中ですか?

 もしよかったらごはん一緒に食べませんか?」


 宮部からだ。

 今日はかなり疲れていたから、そういう気分にはなれなかった。


「明日のことがあるから今日はごめんねm(_ _)m」


 とりあえず、それっぽいメールを送って家に帰った。

 もし、時が戻るのならば、この時宮部に会いに行っていたのに。


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