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メール  作者: ミナセ。
3/10

2通目

~メール 2通目~


 いつも通り、6時50分に目が覚める。

 もう、習慣になっている。

 携帯のアラームより先に目が覚めてとめる。

 そして、テレビをつける。


 単調な毎日のリピート。


 けれど、非日常はそこにもあった。

 優子のニュースが流れている。

 やはり、夢じゃなかったんだ。

 そう、思うしかなかった。


 思うと辛いだけだから、大きな力で流れてくるベルトコンベアーに乗っかるように、

 繰り返しの日常に乗ってみた。



メールが入る。



「あなたと出会った初めての場所。憶えている?

                そこにヒントがあるよ」



 彼女、優子からだった。

 私はこのメールにも返事をしてしまった。

 返事など来るはずもないのに。



 そういえば、優子と会ったのは、新宿だった。

 良が店を選んでいたと思っていたのだが、後から聞いたら、優子が店を選んでいたと知った時はびっくりした。

 その店は創作料理の店で「ピンクパンダ」というかわいい名前の店だった。

 なかなかいい雰囲気の店だった。


 大通りから離れているためになかなか発見しにくい店だったが、隠れ家的な要素もあって私は好きであった。

 そういえば、今度二人で行こうねっていっていたけれど、結局二人でいけなかった。

 今から思えば仕事よりもっと優子を大事にしておけばよかった。

 もう、遅い事だが。





「おはようございます」


 明るい声で、現実に戻される。


「ああ、おはよう」


 声をかけてきたのは、同じ会社の宮部 舞である。

 宮部は高校の時の後輩らしいのだが、実はまったく憶えていないのである。

 どうも、その後家族の転勤で東京にきて、東京の大学を卒業して、新宿支店での勤務をしている所に大阪支社から私が転勤してきたのである。

 当時、右も左も解らないのをよく教えてくれたのが宮部であった。


「あのニュースなんですけど、あれって加藤さんの彼女ですよね。なんか、こんな時なんて言っていいか解らなくてすみません。でも、元気出して下さいね」


 気をつかいながら宮部が話してくれているのは解った。

 けれど、実際私はなんて言われたいんだろう。

 それすらも、解らない。

 ニュースで優子が死んだという事実が流れているが未だに、実感がわかない。

 そう、今朝も優子からメールが来ているからだ。


 そのため、私にはいつもと特に代わりないのである。

 いや、あると思うが、思いたくないだけなのかもしれない。

 おそらく、どこかで現実を見つめることを拒否しているのだと思う。


 それに、今までも優子とはそうだったから。

 お互い忙しくてメールを一日一回するだけだったから。

 うまく表現出来ないことだが・・・


「宮部、いいよ。元気だから。それに元気出せって言われる方がなんかつらいよ。普通でいいよ」


 気を使ってくれている宮部にはたぶん、今の気持ちはわからないだろう。

 それに、コッチ側には入って欲しくなかった。

 だから、月並みな返答をしてみた。


「そうですよね。ごめんなさいでした。それで、今日はどこに行かれるんですか?」


 明るく宮部は話している。

 私はいまいち宮部という子がわからない。


「今日は、午前中は豊田のF電機、午後は八王子の明鏡精機だよ。帰社予定は18時かな」


 仕事は技術派遣の営業である。


 関西にいた時より企業も多いし、人も多いから仕事としてのやりがいは多い。

 ただ、技術の内容がかわったために、自分で勉強する事も増えた。


「営業ってたいへんですよね。いつも帰り遅いですし、八王子って遠いですよね。でも空気きれいなのかな~」


 なんか宮部が、頑張ってくれているのがわかったが、どうも発想についていけないときがある。

 生返事をして仕事にとりかかった。



 今日も一日がはじまる。



「行ってきます」


 いったいだれに向かって言っているのかも解らないセリフをいって私は外回りに出かけた。






 電車に乗っていると携帯にメールが入った。

 良からだ。


「今日はどこに行くんだ?ちなみにこれから八王子」


 よく、良とは行く会社がバッティングする。

 先方の情報交換や、紹介なんかも上司には内緒でしてたりする。

 おかげで契約が伸びている。

 それが現状だ。


「今日は豊田に行ってから八王子に向かう。昼でも一緒に食べるか?(^^)」


 良に返事を送った。

 夜、良が開いていれば、今日優子から着ていたメールの話し、そして、優子と出会う前のことを聞きたいと思った。

 今更なのかもしれないが。


 予想以上にF電機の営業は早く終わった。

 まあ、いつもこうだと困るのだが、今日みたいな日はいいだろう。


 12時少し前に八王子につく。

 初めて八王子に来た時はおもったよりごみごみしていてびっくりした。

 だが、今ではこういう所の方がありがたい。

 何もない工場地帯は食べるところがないし、あったとしても、値段が高いか、まずいかだ。

 まあ、両方かねそろえているすばらしい店もあったりするが。


 駅についたから良にメールを送る。


「今駅についたけれど、早かったか?」


 待ち合わせなんて特に決めない。

 すぐに連絡がつくからだ。

 携帯メールのおかげだ。




 そういえば、優子と付き合い始めの頃はよくメールしていたな。

 だが、営業と違って優子の仕事 システムエンジニア はなかなか時間がとりにくいらしく返事が遅れていった。

 それで、優子とのメール交換が一日一回になったんだ。

 まあ、それがお互いのペースになってしまうと、つらいとあんまり感じなくなったが。



 良から返事がくる。


「後ろを向いてみな~」


 後ろを振り向いてみた。

が、そこには良はいない。

 すぐに、メールがくる。

 良からだ。



「後、少しで駅につく。ホントに後ろにいると思った?」



 良はたまにこういうメールを送ってくる。





 2、3分後に良は来た。


「本当は後ろにいたんだぜ~」


 良がおどけて話す。

 かるく、駅前の店に入って話しはじめた。

 出会った頃の事、今日来たメールの事。

 そして、出会う前の彼女について聞いた。


「めずらしいな。加藤から桜井の話が出てくるの。

お前は結構秘密主義だったからな~桜井の話しは確か・・・

あ、飲み会の後にあの子、彼氏いるのかだけだったな~」


 なんて、良にちょっと懐かしく言われてしまった。


 あの飲み会の後、当時良の彼女だったなんとかという子と4人でよくでかけたな~

 それから、つき合い始めてからはお互い時間の関係上2人でしか会わなかったが。


 思い出なんてあやふやなものだ。


 すこし、そう思いながら良に話してみた。

 実は、何が聞きたいのかよくわかっていない。


「ああ、なんか俺ってこういうのもなんだけれど、優子とつき合っていたけれど、過去はあんまり聞かなかったから。

特に何がききたいってわけじゃないけれどなんか、なんか、こうわだかたまりというか、なんというか

すまんな。中途半端で」


 自分でいいながら少し思った。

 つき合っていたけれど、お互いプライバシーを尊重しすぎていた。

 そういえば聞こえはいいかも知れない。

 けれど、お互いのこと知らなすぎたのではないだろうか。

 今からでも優子のことを知りたい。


「う~ん、そう漠然といわれると難しいな」


 良の悩んでいる声がひびく。


「そうだな~、桜井とはじめてあった店。確か、仲良い友達とよく店の開拓してたっていってたな。

それくらいしか、桜井のイメージってないんだ」


 すまなさそうに良が話してくれる。

 すごく、気をつかってくれているのもわかった。


「仲いい友達って誰だっけ?」


 優子の仲いい友達は、男女問わず多かった。

 一度仲いい男友達と一緒に遊びに行く、行かないでケンカした。

 それ以降優子は男友達と出かけにいくことがなくなった。


「ああ、別れた彼女だ。ほらよく4人で会っていた。お前と桜井が付き合うまで」


 さらっと言う良の顔が曇っているように見えたのは気のせいなのか、そう思いたいだけだったのか解らない。


 どうしてわかれたんだっけ?

と、もう少しでいいそうだった。

 良のプライバシーもあるだろう。

 気が付いたら、


「そっか」


というセリフにいつのまにか変わっていた。

 ただ、何ともいえない空気がながれた。



「今日行かないか?そのピンクパンダに」



 その重い空気をどうにかしたかった。

 けれど、この切り出しは間違っていたかもしれない。


「いや、今日は用事があるんだ。わるい」


 ちょっとおどけた良の笑顔おかげですくわれた。


 いい友をもったな~

 そう思えた瞬間であった。


「じゃ、そろそろ仕事にもどりましょうか?」


 その良の一言でまた仕事がはじまった。







 明鏡精機に営業をしている時に営業所からメールが入った。


「お疲れさまです。13:40分 F電機の山村課長からお電話がりました。おりかえしお電話下さいとの事です。宮部。p.s.今日は暇ですか?」


宮部からだ。

業務連絡もメールで来る。


 たまに、仕事に関係ない内容の時もある。

 時間に余裕のある時は返事を書いているが、大抵は返事をしない。


 F電機の山村課長ではなく、河村課長である。

 毎回こういうミスはある。


 以前ひどいのがあって一度注意したが、それも、最近はどうでもよくなっていている。

 こっちが気をつければいいだけだから。


 そして、河村課長に電話をする。

内容は、


アセンブラが出来て、シーケンス制御が出来る人。

特にラダー書ける人。

面談時には図面を見て技能のチェックをします。


であった。


 受注である。


 とりあえず、宮部にメールのお礼をして、早めに帰社しよう。



 予定も終わり、帰り際に新規開拓予定の企業にアポイントをとる。

 帰社途中に優子が勤めていた会社が入っているビル近くを歩く。

 もう、あそこにはいないんだ。

 あんまりまだ実感がわかない。


 ただ優子が死んだことを認めたくないだけなんだ。

 どこかで、冷静に見ている自分がいる。

 また明日考えよう。

 そう思うことにして会社へ戻った。


「ただいま戻りました」


 また、誰にむかっていっているのか解らないセリフをいって帰社する。

 まあ、習慣なんて恐いものだ。

 もう、そんな事を気にしなくても、普通に口から言葉が出るようになってるんだから。



 人事担当に話しかけ、現在の面接状況の確認と、他営業所の進捗を確認する。

 少し、先方要望にはスキル不足だが、人は見つかった。

 当人への連絡と平行して、企業にメールを送付する。


 そして、報告書を作成していると、上司が話しかけてきた。


「加藤、もうあがっていいぞ~なにかと大変だろうから。日報書いたらあがれ~」


 なんで、そう言われたのか解らない。

 受注もあったし、人も提案している。

 まだメールの返事は来ていないが7時前。

 おそらく、まだ先方は仕事をしているだろう。

 できれば、見積りと面談日程まで本日中に決めたかったが、上長命令であれば、明日にまわそう。

 そう、思って、日報作成と進捗状況を報告して、先に帰らしてもらった。


「お先に失礼します」


と、また誰にいっているのか解らないセリフを残して。


 帰ろうとしていたらロビーに宮部がいた。


「お疲れさまです。加藤さん今日は早いですね

よかったらこれからどこかいきませんか?

何かお手伝いできればと思って気晴らしにでも付き合えればと思って」


 確かに、これから一人で「ピンクパンダ」に行くのは正直いやであった。

 宮部も気を使ってくれているみたいだし、宮部と「ピンクパンダ」にいってみた。


 メイン通りから離れたところに「ピンクパンダ」はある。

 今流行のダイニングバーというやつだ。

 なかなかおしゃれな店で、雰囲気はかなり好きだ。


「わぁ、加藤さん、いい店しっていますね。なんか私気に入っちゃいました。

こんな店に連れてきて頂けるなんて、感動です

ありがとうございますね、加藤さん」


 いったい何の目的で宮部は一緒に来たのだろう?


「どこで、この店知ったのですか?意外と加藤さん、こういう店くわしかったりするのかな~」

宮部が聞いてきた。


 確かに、メイン通りから離れているし、毎日仕事で帰りも遅いから、こういう店を知っていることの方が不思議なんだと思う。

 けれど、どうしても、宮部には優子のこと。

 特にメールが来ていることは話せないと思った。

 それは直感かもしれないし、また、多分、宮部に言うと多くの人に広がるような不安が多いのだ。


「まあね」


 なんかごまかしているようだが、なんとなく答えてみた。

すると、宮部から


「今日、早く上がれたでしょ。実は上司の方に話しておいたんです。

どうも加藤さん落ち込んでいるようだから、リフレッシュが必要なんだと思いますって。

だから今日は私が加藤さんのリフレッシュ役になれればと思います」

といわれた。


 普通なら、かわいい子にこういう事を言われたらうれしいのかも知れない。

 確かにいやな気分にはならないが、どうも私は宮部が苦手である。


 何か本当はこういう性格じゃなくて、作っているようにしか感じられないからである。


「ありがとう」


 けれど、口から出るセリフはでもそういう思いとは違っている。

 そういうものだ。


 それから、宮部がいろんな話をしてくれたが、どうも、耳に入らなく、気がついたら、お酒ばかり飲んでいた。

 お酒もかなり入りどんどん寡黙になって来ている自分がよくわかった。


 宮部の目はお酒のせいかかなりとろ~んとしている。

 妙な沈黙だけがやたらとうるさい。


「実は、お預かりしているものがあるのですが、受け取っていただけませんか?」


 この沈黙を破ってくれたのは店員であった。

 びっくりした。

 そして出してきたものは、ひとつのオルゴール。

 預け人は優子であった。

 今朝のメールはこのことを伝えたかったのだろうか。


 オルゴールを開けてみると「TUNAMI」が流れてきた。

 そういえば、この曲が流れているときに告白したんだった。

 気がついたら、泣いている自分がいた。

 ここまで大事にしてくれていたのに、私は優子をどれだけ大事にしていたのだろう?


 そして、そこに手紙がひとつ入っていた。

 そこに書かれていた文字は


「助けて」


であった。


 一瞬私は固まってしまった。


「いいな~そのオルゴール頂戴。ダメ~」


 宮部が何か話しかけてきたけれど、それすらもどうでもいいくらいであった。


 その日は気がついたら家についていた。

 長い一日であった。


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