第4話 偶然が重なる奇跡
ディリンは正体未明である二人の居る部屋へと向かっていた。
「その二人の特徴や見つけた時の状況を教えてください」
ディリンは兵士に尋ねた。
「はっ。旅人の剣士のようでしたが、見つけた時に武器は無く、石壁が破壊され岩石が周りありました。ひどい傷を負っています」
ディリンと兵士はその部屋に着き、扉を開けた。
そこには深手を負った二人が居た。
「これはひどい……魔物に…いや、こんな傷をつける魔物は見たことが無い。では何者?」
ディリンは初めて見るその傷に、途惑いを感じた。
その二人は酷く魘されている様であった。
「とにかく、治療をしましょう、誰か治療道具を」
しかし誰も動く事は無かった。
「どうしたんですか?早くしないと命の危険が関わってるのですよ」
ディリンは不思議に思ったが、兵士は口を開いた。
「それが、どんな治療薬や薬草でも、嘘の様に効果が無いというか」
「そんな筈は無い。誰か治療薬を持ってきて!」
ディリンは少しだけ声が大きくなり、一人の兵士が治療器具を持ってきた。
慌てて受け取り、治療を試みたが、付けては消える様に効果が無くなっていく。
「そんな…このような傷は初めてです」
その時部屋に兵士が駆け込んで来た。
「司祭様がお帰りになりました!!」
その知らせを聞いたディリンは、父なら解るかもしれないと思った。
「父を、司祭様をここに呼んでください」
「もう来ておる」
外から声が聞こえた。そして一人の男が入ってきた。司祭である。
「例の二人は何処に?」
司祭は口を開いた。
「司祭様。ここでございます」
しばらく二人の傷口を見た司祭は、顎を触りながら口を開いた。
「これは、幻魔の力だな。それもかなりの使い手のようだ」
「幻魔?幻魔とはなんですか?」
司祭の言葉に尋ねるディリン。
「ん〜……まぁ、闇の力って事だよ。正体は解らないけどね。でもしっかりとした治療法はある」
そう言うと司祭は何かを念じる様に合掌した。
すると目が眩むような眩い光が辺りを包んだ。
二人の傷口から漆黒の影が煙のように抜けていった。
すると二人の傷口は、先程の事が嘘であったかのように、傷が癒えていった。
「ん、ぐぅ〜〜」
片方の緑色の髪をした男は目を覚ました。
その男は辺りを見回すと司祭を見つめた。
「あんたが治してくれたんだよな?なんだか解らないけど解る。ありがとう」
その男はさっきまで眠っていたのに、理解していた。
「まぁ、そんなとこだ。それより君は何者かな?」
司祭が言うと男は静かに答えた。
「俺はユリアン。元ロア.クリスタルの騎士。今は聖獣を求め、旅をしている。横の寝ているこいつはヴァン。不本意ではあるが、聖獣を探している仲間だ」
倒れていたのはユリアンとヴァンであった。
ユリアンがそう言うと、司祭は顎を触って考えている素振りを見せる。
「そうか。ちょっと興味があるな。私はここの司祭ホリスだ。回復したら後で私のところへ来てくれ」
そう言って手を差し出し、ユリアンと司祭ホルンは握手をした。
数時間が経ちヴァンも目覚め、二人でホルンに会いに行った。
「そうか、良くわかったよ聖獣と君たちの関係が、そして紅蓮の少しの事も」
ユリアン達はすべてを話した。
「君達の傷跡から、紅蓮の強さは覗える。そして君達がサンラインの兵に見つけられた偶然。知っているか?……偶然とは重なるものなのだ。偶然の重なるもの…それは奇跡。私にとっては悲しい知らせのようだが」
「奇跡?偶然?良くわかんねぇこと言うな!」
ヴァンの本心であろう言葉だった。
「まぁつまり、聖獣の仲間は近くにいると言う事さ」
「ホルンさん。ディリンって言いましたっけ?彼女の事でしょう?」
ユリアンは悟っていた。
「そうだ。だが偶然はそれだけじゃない。ディリンの連れ込んだ客。薄い眼の色だがアルティーと言う彼女もだな」
それは偶然が重なりに重なった。奇跡と言える産物であった。
「ユリアン君とヴァン君。暫く泊まっていってくれないか?ディリンとの別れは、父親として堪える」
そしてサンラインに暫く泊まる事となった。
暗く光が差し込まない不気味な洞窟。
「何ぃ!奴等が死んでいない?馬鹿を言え!クロコダイルキャノンを食らったんだぞ!!」
そこから巨大な喚き声が聞こえてきた。
「しかし本当だルムルセヴァー。だがこのミスは許してやろう」
「ほぉ?それは何故だ?紅蓮の騎士さん」
ルムルセヴァーの前にはあの紅蓮の騎士が立っていた。
「貴様口を慎め。俺より下の身分。そして圧倒的な力の差」
「何を言うか紅蓮の騎士。俺は竜帝様によって生まれたもの。貴様より下の身分などは関係無い。実力は劣っているかもしれないがな」
「ちっ!いいか!サンラインに聖獣の後継者4人が運良く集まっている。そこを狙って抹殺して来い」
そう言うと紅蓮の騎士は消えていった。