第3話 黒髪の女性
母親を元に戻すべく、執事と別れ国から逃げて来たアルティーは、船に乗りなるべく遠くの国を目指していた。
(この辺りまで来れば大丈夫かな?なんでお母さんはああなったんだろう?)
蹲り、逃げる事に必死だったアルティーは、安堵すると急に母親の事を思い出した。
湧き上がる悲しみがあった。
しかし、体の奥底から湧き上がる感情がもう一つあった。
それは、『怒り』であった。
(悔しいなぁあの赤マント!倒したい…でも、魔術師とか言ってたからなぁ。魔法…使えるんだろうなぁ、私使えないし…)
悲しみにそして怒りに暮れている間に船は大陸へとついた。
港から出るとそこはなんにもない辺境の町であった。
(必死に逃げて来たからな…何したら良いかわかんない)
辺りを見まわしてみても、活気が無く商店街なども無い、ただ住人が住むだけの町。
(この町、お店が無いなぁ……なら何処かで買い物してるって事だよね)
「ねぇねぇおばさん!この辺りに町とか、無い?」
近くに居た中年の女性に話しかける。
「それならここから東に行った所に聖都があるよ」
「聖都ね……わかった!ありがとう」
そのあとアルティーは、勢い良く駆け出して行ってしまった。
女性は他にも何かを言いたそうだった。
アルティーはそこに行けば、魔法が使えるかもしれない。
そう思って駆け出したが、アルティーの思った以上に、その道は険しく厳しいそして、魔獣が出る道だと気付くのは後の事となってしまうのだった。
清く、透き通った泉があった。
そこで顔を洗う一人の女性が居た。
若く、白く透き通るような肌をしていて、黒く美しい髪、緑の服を着ているが何処か聖女の様であった。
長く整った睫、細い眉毛にバラのように赤い唇。そしてエメラルドの瞳を持っていた。
その時であった。女性の悲鳴が何処からか聞こえてきた。
慌ててその黒髪の女性は、近くにある長い弓と矢を持って走り出した。
悲鳴は連続で続き、その声を聞き的確に近づき悲鳴が大きくなっていった。
草むらを抜けその声の正体を見た。
今にも飛びつきそうな獣が一人の女性を襲っている。
それを見た黒髪の女性は弓を引き絞った。
素早く打ったその矢は、獣をつら抜いた。
洗練された見事な動きであった。
黒髪の女性は改めて見たその助けた女性を、自分も女性ながらも美しいと思った。
頭にはバレッタのような物を乗せ、美少女と言うにはあまりにも大人っぽい女性であり、赤紫色の髪、そして露に見せた肌が印象的であった。
筋の通った鼻にピンと立った耳、そして黒色のような瞳だが、近くで見ないとわからない黄色も混じっていた。
「ありがと〜!!凄いね見事に撃ち抜いちゃったよ!!」
女性は立ち上がると叫んだ。
「あなたは何故ここに?ここには魔獣がよく出るのですよ!私がいなかったら食べられてたかもしれないんですよ」
黒髪の女性は血相を変えていった。
「だってぇ〜聖都に行く所で襲われたんだもん」
「聖都?聖都に行くのですね?だったら私の行く先と同じです。一緒に行きましょう」
「ホントに!?助かる〜!!私アルティー!!よろしくね」
黒髪の女性は仕方が無さそうに、アルティーを連れ聖都まで連れていった。
その間に数匹の魔物が襲って来るも、黒髪の女性は弓矢でいとも簡単に倒していく。
アルティーはただ後についていくだけで、聖都まで難なく行けたのだった。
「さぁ着きましたよ!あなたはあなたの用事を済ましてください。私はもう帰りますので……」
ぶっきらぼうにそう言うと歩き出した黒髪の女性。
アルティーは黒髪の女性に着いて行った。
「なんですか?私に着いて来て!」
「だってぇ〜私この町に来ても、何して良いかわかんないだもん」
そう言うアルティーに呆れたように黒髪の女性は言った。
「なんですって?じゃあ何であの危険な道にいたんですか?」
言い終わったらアルティーは、泣きそうな顔で黒髪の女性を見ていた。
「はぁ〜……何か訳があるのでしたら、私に着いて来て下さい」
黒髪の女性はそう言うと、アルティーはうれしそうに着いて行った。
着いたのは立派な宮殿であった。
「うわぁ、すっごい!ねぇあなた、なんでここに来たの?」
「私はこの宮殿『サテライン』の司祭の娘です」
黒髪の女性はそのまま宮殿へと入って行った。
そのまま彼女の部屋らしき所に連れていかれた。
「さぁお話ください。あなたの過去を」
アルティーは今までの事を全て話した。
母親の事、魔法の事、魔術師の事、執事の事、逃げて来た事。
「まぁ、そんなひどい過去があったのですね…」
俯いて自分の事のように考える黒髪の女性。
「あなた、アルティーと言ったわね。これからの予定はあるの?」
「予定って魔法が使えるようになりたいだけで、でも今は無いかなぁ」
「そうですか……ならしばらく私の所で泊まっていても良いですよ」
「本当!?ありがとう。そうさせてもらう」
するとドアをノックする音が聞こえた。
「すいません!外に謎の二人が倒れていたので確保したのですが、正体未明の意識不明で、司祭様が居ないので……」
兵士であろう声だった。
「わかりました、今行きます」
黒髪の女性はそう言ってドアを開けた。
「待って!あなたの名前は!?」
「私は……ディリンです」
黒髪の女性、ディリンは外に出ていった。