第2話 紅蓮の強さ
ロア.クリスタルから南の森にユリアンとヴァンはいた。
二人は無言で歩き続けていた。
「おい、てめー!本当にあってんだろうな?この道」
最初に口を開いたのはユリアンだった。
「おい!てめーが道は任せろって言ったんだろが」
半分怒りをいれ、言うユリアン。
「うるせぇ〜な。お前はテメー、テメーよぉ!俺にはヴァンて言う名前があるんだぞ!」
その態度にカチンときたヴァンも言った。
「俺は道のことを聞いてんだ!テメーとは一言でも少ない会話じゃねぇーと嫌なんだよ!早く道は合ってるのか言え!」
「ヴァンって呼んでからじゃねぇーと答えねぇよ!」
気の合わない二人はちょっとした事で大きな喧嘩へと発展していく……のは日常茶飯事となっていた。
すぐそこに強大な力があると知らずに。
前をあまり見ずに歩いている二人。
ユリアンは不思議な感触のものを踏んだ。
それは何かの尻尾のようであった。
尻尾をたどると草の中に、草の中からできたのは何とも奇妙な怪物。
獣の恐ろしき表情、強靭な体の四足歩行に鬣があり、そして翼が生えていた。
その獣はユリアンとヴァンをじっと見て唸っている。
突然、口から火のような物を噴出した。
2人はなんとか交わす。
「ちっ!こいつはあぶねぇぞ!」
とっさに判断し、叫ぶヴァン。
火を避けながら、逃げ回り少しずつ攻撃していく。
走り抜けるとそこは岩の壁だった。
「くそ!行き止まりかよ!」
追い詰められたユリアンは剣を構える。ヴァンも同様に。
その時だった、低く大きな遠吠えの声が聞こえた。
奇妙な獣は猫に追い詰められた鼠のように縮こまった。
その声が近づくにつれ獣は震えだし、遂には逃げてしまった。
声が無くなり辺りは静けさに包まれる。
森の中から出て来た者の正体は不気味の一言に尽きる。
全身が黒い鱗のようなものに鎧を着ている。
ぎょろりと飛び出す目玉に、ぱっくりと裂けている口。
それは―――ワニ。ワニ人間。
その得体の知れない者は口を大きく広げ言った。
「紅眼。蒼眼。こいつらだな」
そいつはユリアンとヴァンのことを知っているようであった。
「だからなんだよ!」
強気に出てみるヴァン。
「紅蓮の獣戦士……レブルセヴァー!貴様らを殺しにきたものだ」
そう言ったレブルセヴァーは手に持っている巨大な斧を振りかざし、垂直に落としてきた。
「受けるな!流せ!」
ユリアンがとっさに言った言葉を受けて、ヴァンは流した。
それでも激しい金属音がする。
レブルセヴァ―の斧は地面を砕いて50cmほど掘り起こしていた。
(くそぉ。あいつの言ったとうり受け流さなきゃ死んでたぜ。あの獣がビビッて逃げるはずだぜ)
「よく受け流したな。潰そうと思ったのに………だけどな、次の俺の攻撃で終了だ」
そう言ったレブルセヴァーは右手を開きユリアン達に向ける。
すると今度はこぶしを返し握る。力を溜めている様に。
その腕はだんだんと膨らみ始めた、最後には太さは40cmほどにまでもなった。
「これが紅蓮の獣戦士レブルセヴァ―の奥義。クロコダイル.キャノン」
レブルセヴァ―は膨らんだ腕を一気に開きユリアン達へと向けた。
その開いて掌から出たのは、闇の力であろう漆黒であった。
『クロコダイル.キャノン』と言ったその衝撃波の力は、想像を絶する強力過ぎるものだった。
ユリアンとヴァンだけではなく、後ろの壁までもが吹き飛んだ。
全てを破壊し吹き飛ばすその残酷な闇の力を、二人は初めて知った瞬間であった。
轟音の連続。ユリアンとヴァンは、自分が宙に浮いているのがハッキリとわかった。
その瞬間は五秒と経っていない瞬間であったのに、二人には十年もの月日を感じられた。
その時二人は、生まれてから数えるほどしか出会ったことの無い感覚に襲われていた。
『恐怖』であった。全ての感情を抑え、この感情が一番に出ていた。
ユリアンとヴァンは自分達の目標の高さを新めて知るのであった。
それと同時に二人の頭はいや、本能は『聖獣』の名が浮かび上がるのだった。
しかし二人は今、『聖獣』の事は意識できずにいた。
そして、――紅蓮。と言う者達が、運命の狭間に居る邪魔者であり、最強の敵であり、倒さなくては進めない者達である事を、後に確認するのであった。
(あの時、紅蓮の騎士が放った真空波……あれは手加減だったのか?それともこいつのほうが強いのか?そもそも、紅蓮ってなんだろう?俺は、俺は……紅蓮っていうのを舐めていたのに過ぎないのか?)
ユリアンの頭の中は全てが紅蓮へと変わっていた。
(ユリアンってこんな化け物みたいな紅蓮って奴と、闘うのか?俺にできるか?あのワニ人間の衝撃波を、紅蓮のやつはみんな使えるのか?)
ヴァンも同じような事を考えていた。
そこには壊れた壁の岩と二人の戦士が倒れていた。
レブルセヴァーは自分の奥義『クロコダイル.キャノン』を食らって生きれるはずが無いと思い、その場を後にした。
二人の戦士の生死を確認しないで……
レブルセヴァ―のミスは生死の確認だけではない、近くには聖都と呼ばれる都。
――サテライン。がある事を知らずに過ぎ去った事であった。