プロローグ 紅蓮の魔術師
高く、天まで届きそうに高い。アルテナ山。
その近くにあるのが、世界で一つの魔法国。―――アルテナ。
この国には夏が来ない。永遠に冬のままである。
アルテナは一人の皇女によって治められている。
皇帝はすでに他界し、男の息子が居ないため今の皇妃が皇女になった。
皇女の名前はアルテナ。この国の名前のアルテナは国を治めたものに受け継がれる。
今の皇女で32代目である。
皇帝になった者は不思議な魔法の儀式により、先代の皇帝の全ての能力が継承される。
そのため、反乱などが起きないのだ。
アルテナには娘が一人居た。
娘の名前はアルティー―――
「姫様。今日こそ魔法訓練を受けてもらいますよ」
アルティーの執事である男がそう言った。
「え〜?面倒だし、お母さんの力を継承するからいいじゃん!」
そう言うアルティー。
「いけません!ある程度の力が無いと、儀式は実行できないんです!それに、そんな言葉使いじゃ、皇女様に顔向けできませんよ!」
「大丈夫だよ。あたしは天才だから」
言うことを聞かないアルティー。執事も困り果てていた。
そして今の皇女ことアルテナは、周辺の国との会議でもう四日ほど出かけていた。
「じぃ。ちょっと耳貸してくれない?」
そう言ってアルティーは、人差し指を立てて誘う手招きをした。
「なんですか?そうしたら魔法訓練をしてくださいね」
渋々と近づく執事。
執事が近づいたその時、アルティーは突然駆け出し、部屋から出ていった。
「ああ、しまったぁー!」
慌てて追いかける執事。
アルティーは逃げてから五分ほど経ったころ、アルティーは外からアルテナが帰ってくるのを見つけた。
「ああ!見て見て!お母さんが帰って来たよ!」
そう叫んだアルティーは、一直線にアルテナのもとにいった。
「お帰り!お母さん!」
アルテナのもとに走り込むアルティー。
その時初めて見る男がアルテナの隣に立っていた。
その男は怪しげな金髪に、エメラルドの眼から放つ眼光、そして紅蓮のマントを着ていた。
「これがアルテナ様の娘。アルティー様ですか。やはり美しくそして、威厳もある」
紅蓮のマントの男は言った。
「皇女様。お帰りなさいませ。……その男は?」
後から追いついた執事が言った。
「この者は私の雇った優秀な魔術師です」
アルティーはこの魔術師の出会いに嫌な気配を感じた。
その日から、アルテナは疲れていると言って、アルティーと話さない時が増えた。
そんなある日―――
「なんかおかしい!あの赤マントの奴だ!あいつが来てからお母さんはおかしくなったんだ!」
そう言って確信したアルティーは紅蓮の魔術師の所へと向かった。
ずんと重い扉をあけるとそこにはアルテナと紅蓮の魔術師が居た。
「アルティーですね?ちょうどいい所に来ました。これから重大な話があるのです。いいですか?あなたは魔法訓練に精を出さないようですね。もうあなたには呆れました。私の後継ぎは紅蓮の魔術師に任せます」
アルテナは言った。その言葉はアルティーに深く刻み込まれた。
「待ってよ!私これから魔法訓練もちゃんとやるから!」
当然のようにアルティーがそう言う。
「黙りなさい!あなた、知っていますよ。魔法が使えないんでしょう?それで訓練にも顔を出さないで、しかも私の子だというだけで天才だとか自惚れて!」
図星であったアルティーは何もいえなかった。
「あなたは破門です。即刻この国から立ち去りなさい!」
アルテナが叫んだ。
「まぁ、アルテナ様。アルティーだって使い様が無いわけではないんですよ」
なだめるように紅蓮の魔術師が言った。
そして、紅蓮の魔術師はアルテナの耳にそっと言った。
「なるほど……アルティーを牢に閉じ込めておきなさい!」
そうしてアルティーは牢獄に閉じ込められてしまった。
閉じこまれてどれだけ時間が経ったか、アルティーには解る分けなかった。
「姫様、聞こえますか?姫様!」
「じい?じいなの?どこにいるの?」
「壁の向こうでございます。今爆破するので離れください」
言われたとうりに後に下がるアルティー。
すると最小限の爆破音で壁が破壊された。
「姫様!説この通路を抜ければ出口です。出口に出たら急いで他の国へ行って下さい!後の事は私に任せてください」
アルティーは今まで見たことの無い執事の顔を見て、全てを悟った。
「姫様。お別れでございます。皇女様はあなたの小さな魔力に潜在能力があることをお気づきになったのです。その魔力を全て、抜き取る気なのです」
「そんな、うそでしょ?でも、ホントなのね」
執事は深く頷いた。
アルティーは涙を浮かべて、出口へと走っていった。
アルティーは、全ての根源は紅蓮の魔術師に違いないと思った。
アルティーの旅はお母さんを元に戻す事だった。