目覚め
「目覚め」
目を見開く。
知らない天井だ・・・ってお約束な感想は置いといて・・・目の前に透明な板でふさがれた丸い窓。
外は微かな明かりが見えるが、狭い棺おけのような入れ物に入った状態なので少々暗い。
そう考えてたら耳に『ピコ』っという聞きなれたPC等の電子音。
視界が一瞬で明るく切り替わり『ナイトビジョン』と透過文字が3回ほど点滅して消える。
『おお~便利~・・・そういや、表示文字ってなんで英語とかでなく日本語のカタカナなんだ?』
『フォゥ・・・ン・・・』
「それはマスターの記憶領域を最初にスキャンしたときに、思考を日本語で行っていたからです」
おう!・・・びっくりした・・・。
柔らかい音とともにベルが視界に飛び込んできた。
手を何度か振る・・・半透明なベルの身体をすり抜ける。
「マスター・・・どうかしましたか?」
『いや、実体無いんだな・・・って?』
「肯定、現在は網膜透写でマスターの視覚神経に映してるCGのような状態です
マスターの表現ですと・・・脳内ヨメ?」
可愛く小首をかしげるベル・・・脳内ヨメて・・・。
『お~け~・・・』プハ~・・・ところでこれはどんな状態?」
口に当てられてたなんか『シュコーシュコー』いってるマスクを取り外しながら聞いてみる。
なんせ今の状況・・・素っ裸でドロドロした液体に浮かぶように寝てて、TVで見たリラクゼーションカプセルの中に入ってるみたいだ。
気温は暑くも無く、寒くも無い裸族の様な今の俺でも快適に眠れそう。
しかし、今現在は寝すぎて眠れん・・・出してぷりいず・・・。
「医療カプセルの中と推測します
情報が不足しているので、どんな施設の・・・までは確認できません」
何か思案するようなベルに違和感を感じたので
「なあ・・・ベル、なんか雰囲気変わったというか・・・」
「是呈、私は成長型の戦闘OS補助のAIですのでマスターとのコミュニケーションや外的情報で性格や言動等を最適化していきます
今回はしぐさや言動で情報啓示の信憑性の低さを表しました」
・・・ある意味すげえ・・・なんか育てゲーとかの進化版か、俺以外見えないけど。
「まあ、話は戻す・・・ここは軍事施設なのか?」
ベルは小さな頭プルプル振り
「否定、警備の薄さ、セキュリティーの稚拙さから見て私の知るそれとは異なると思われます」
ゼスチャーまで取り入れてきたか・・・サイズ的に場違いに和む・・・これからが楽しみだ大事に育てよう。
初めて生まれた娘を見るお父さんってこんな気持ちなのかも・・・と脈絡も無い想像をしてしまった。
「とりあえずここから出たいんだが・・・無理やり開くかな?」
「肯定、マスターの力で可能ですが破壊してしまいます」
とりあえず壊すのはやばいかな?
「他に方法は?」
額に2cmほどの縦筋が入りBFが開くと赤いルビーみたいな多目的センサーが露出する
一瞬、頭の中に反響センサーの情報がワイヤーフレームのCGイメージで認識される。
「マスターの頭部右の辺りに内部コンソールのコネクタがあります」
身体を捻って確認する・・・あった。
イメージであった場所と同じ位置に開閉式の回線コネクタらしきものが見つかった。
「カプセルのシステムにハッキングして開閉させますが許可されますか?」
「そんなこともできるのか?!
お~け~やってくれ」
「では、左手首を下のジェルにつけてください」
「?・・・こうか?」
『チャプン・・・』
「是呈、マテリアル構築・・・マスターファイルNo01全体図より部分抜粋左腕外骨格装甲リード・・・3.2.1.構築開始」
腕の辺りが『ボウ・・・』っと光出す。
小さな幾多の光が周囲に加速度的に灯り始め左手の光に集まりだした。
小さな光は集まる端から次々生まれては収束する。
「なんか波動砲とかハイメガキャノンとかの演出みてえ・・・」
『・・・チ・・・チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ・・・・・』
「な、なんだあ?!」
虫の鳴き声みたいな小さな連続音が始まり手に何かが群がるような違和感。
驚いて手を引き抜くと手は黒く薄いグローブのようなもので覆われている。
それが盛り上がり厚さを増していく傍ら、手首までしか無かったそれが光が集まる度に腕を黒が侵食するように上って来る。
「マスター、冷静になってください害はありません!」
困った顔で慌てるベルからイメージが流れてきて納得、落ち着いた。
変化していく左手をジェルに戻すと変化は速度を増していった。
光が消えると指先から肘までの手甲が完成した
『バシューーー・・・』
拳を一回握るとナノマシンの加速構築の余剰熱と手甲内部の水分が、肘の隙間から放出され素肌にピッタリと張り付き馴染んだ。
「凄いな・・・これで素手感覚で動かせる・・・抵抗感がまったく無い」
指先から手の甲、肘までの外側は厚さ5mm~1cmの装甲板で覆われている。
内側は柔軟性に優れたゴムのような材質だが手の開閉、手首の捻りに抵抗が無い。
布や絹の手袋よりも抵抗がないくせに、右手で掌を押すと車のタイヤを思わせる弾力にすごい違和感。
手首に対象に二つの突起があるリング状の輪がありそこは回転する仕組みだが、そこ以外に白と黒の色分けがあるのに継ぎ目らしきものがまったく無い。
これって俺がデザインした一部か!
想像が目の前の形になった感動を噛み締めているとまたイメージが
「WM?」
頭にある名前とイメージが重なると手首の輪が180度回転して内側にあった突起から『ニョロ・・・』っと細いワイヤーが飛び出してコネクタに接触入り込んだ。
「ゲ・・・なに・・・これ」
俺の疑問に仕様用途がイメージで流れてくる。
ベルに視線を送ると
「この方法ならマスターに要らない混乱を招かないと思いまして・・・」
申し訳なさそうな仕草に何もいえなくなる。
ほんと・・・よくできてるわ・・・。
よく解らない数字の羅列と回路図のイメージが流れるが・・・何故か理解できるしハッキングの行程が手に取るように把握できた。
「こちらの作業は自動で行っていますがマスターに慣れていただく為に高速処理でイメージを送っています」
「お前は何でも知ってそうだな・・・」
べるは困った様に薄く笑い、後ろ手に顔を寄せながら
「否定、私は知っていることを知っているだけ・・・です」
「どっかの化け猫憑きのメガネっ娘みたいなセリフやね・・・まあ俺の知識からか・・・?」
「Exactly(その通り)」
「やっぱり・・・」
『プ・・・シュー・・・』
「おお、開いた!」
部屋の中はカプセル以外机と椅子あとは外に出るドアが一つだけ。
起き上がってみるが身体に長時間動かなかった違和感も筋肉の強張りも感じられない。
『チャパ・・・』
カプセルから出てドアの付近に音も立てず移動・・・身を隠す。
『ベル、これから敵か見方かわからない場所を探索するってことで思考入力に切り替えるぞ!』
『了解、マスター』
ドアを開き少し顔を出し右左特に上を念入りに確認。
『左右の確認はわかるのですが上まで念入りに確認するのですね』
『じいちゃんと屋内戦闘の修行で何度も上から不意打ち食らったからな』
忍者みたいにいろんな物でカモフラージュして来る時もあれば・・・。
気配を完全に消してさらに存在感も曖昧にぼかしてパッと目で見ても認識できない技も使ってたもんな・・・じいちゃんは凄いや。
『認識阻害・・・マスターの祖父はチャフやセンサージャマーでも装備しているのですか?』
廊下に出る左5m先の曲がり角でしゃがむ。
『そんなわけあるか・・・気やプラーナがどうとかいってたからな』
そっと覗き込む行き止まりに右手にドアあり。
『理解不能、一度お話を聞いてみたいものです』
『そうだな帰れたら会えるだろ・・・・なっ?!!!』
一気に来た道を無音で駆け戻った。
『どうしましたマスター!?』
『ジャッバアン!・・・・トプン・・・』
最初の部屋のカプセルにしゃがみこみ息を整える。
「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・ハ~・・・」
『心拍数上昇中! センサーに何ら反応無し!!』
「ベル・・・頼む・・・」
「マスター! 何があったのですか?!」
「せめて下半身も外部装甲出して・・・」
「・・・了解・・・・」
『・・・・・・チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ・・・・・』