時と呪いと祝福の狭間に
ようやく異世界への門が開きます
開いただけでどこに跳ぶかはまだ不明
「時と呪いと祝福の狭間に」
フワフワした感覚。
真っ暗な空間に一人漂う。
あ~と・・・死んだかな・・・俺・・・?
起き上がろうとしたら背中がズキッと痛む。
引きつるような痛み。
じいちゃんとの稽古で投げられて受身を取れなかったときみたいだ。
我慢できない痛みではないので起きようとする。
「大丈夫ですか?」
・・・前に目の前にドエライ美人さんが・・・いやこの人男だ、散々女に間違われてる俺にはわかる! 感覚で!!
覗き込んでいた。
ファンタジーにでてきそうな布を巻いただけのような服は手に持ったハープで吟遊詩人っぽい。
切れ長で睫毛の長すぎる目はやさしい笑みを浮かべ。
西洋風の顔立ち白い肌の鼻の高い美人顔、見たとこ腰よりも長いストレートのプラチナブロンドが余計に性別を隠している。
ホントに女なら傾国の美人って感じだろう・・・もったいない・・・よく自分に言われる言葉をここで初めて他人で実感した。
「ああ、問題は・・・ないみたいだな多少は痛いけど。」
「痛いですか?
ちょっと見せてくださいね。」
サッと手慣れた手つきで上着やズボンを捲られて触診された。
「てっつおっあだっぐっだ!!」
容赦無く「ここは痛いですか? ここんとこは?」と医者みたいに何回か聞いてくるが、俺が呻くのを返事とみなし容赦無く前身触られた・・・もうお婿にいけないかも?
「安心してください私は元医者ですから・・・免許は無いですけど。」
「イテえっつってんだろ! 後、無免許医かよ!!」
「そうとも言います、けど私のいた世界では免許なんて無かったですし。
まだ痛いですか?」
口元に細い白魚のような指をあて覗き込んできた。 (この人ホントに♂かよ)
「んお?!・・・あ、あれ?」
身体を動かしてみる・・・あれほどのあったひきつるような痛みが全く無かった。
本格的な柔軟にはいるまえにとめられた。
「お~何か魔法みたいだな。」
「ええ、魔法ですから。」
あっけらかんとにこやかに言われました。
言葉を探し辺りを見回してようやく異常事態を確認。
「・・・ここどこ?」
「生と死の狭間の空間です。」
「生と死って・・・もしかして俺死んじゃったの?
あんたは死神とか神様とかそんなやつ?」
「とんでもない、あたしゃ神様だよ。」
往年ドリフの名セリフ?!
「というと・・・よくある転生モノとか?
勘弁してよ・・・俺まだこっちでやり残したことがいっぱいあるぞ・・・。」
「・・・と言うのは冗談で。」
「おい!」
いい笑顔しやがって・・・こいつ、俺とどっこい、もしくはそれ以上イイ性格かも・・・
「神と呼ばれたこともあれば・・・悪魔とも呼ばれたことがある。
けれども私の本質はそのどちらでもないですねえ。」
「じゃあ、あんたは何?」
ぶっきらぼうに言い放つ。
話が進まないとりあえず話を聞きに入ろう。
「私はソナタ・・・ソルナータ・トウ・ル・Pーーーーーー・・・といいます。
本人ではなく残留思念みたいなもの・・・ですけどね。
まあ、人は私を『白い闇』『独奏曲の悪魔』『時代を越えるいらんことしい』『魔王製造機(デモンファクトリー』等など、その他色々と呼ばれています。
私としては気軽にソナタと呼ばれるのが好きですね。
・・・おや、耳を抑えてどうしましたか?」
いきなりの超音波に耳を抑えてのたうち回る俺を、さも不思議そうに見下ろしていやがる。
「いちちち・・・あ、あーーー・・・んで、あんたは何のようで?」
少なくともあんな拷問みたいな超音波が出せる奴が普通の人間ではないな・・・まだ耳鳴りがする。
感覚で言えばアルミホイルを奥歯で噛んでる感触の数倍?
どんな嫌な感触か知りたかったらご自分でどうぞ、新しい趣味を開拓できたらおめでとう!・・・一歩引くけど。
「用件はあなたが死にかかってることの告知。
あなたに懸かっている祝福という呪いのこと。
それに伴う今後のあなたに降り掛かる運命を伝えること。」
「一気にきたが・・・どこにツッコンデいいのか悪いのか・・・。」
「まあ、順を追って説明しましょう。
時間はここでは無限にありますしね。」
こいつの性別が男と知らなければコロリとイカレそうな極上の笑みで続ける。
「まず、これを見てください。」
ソナタが手をかざすとどんな魔法か何もない空間に歪みが招じ、見慣れた景色というかさっきまで俺がいた所の映像が流れる。
制服の3人連れだって裏庭や裏山での忍術実験。
ストロボや煙玉を使った影分身や変わり身の実演。
犬まんと犬笛を使った口寄せ。
そして火薬を使った実験で最後にドラム缶が揺れるぐらいのはずがありえない威力でドラム缶が破裂した。
そこからスローになり爆炎に背中を炙られながら猿橋を庇う自分の姿が止まる。
止まった後にその身体が透けていき完全に消えて画面が静止した。
「はい、ここに注目~~~♪」
楽しそうにどこから出したのか指し棒で画面の炎の中を指す。
良く見ると破裂したドラム缶の大きな破片が飛んでいる途中で止まっていた。
さっき消えた俺の首の手前で。
さすがに死ぬ一歩手前だったのがわかって青くなる。
「気が付いたようですね。
そう、あのままあの場に居ればあなたは確実に死んでいました。
首チョンパって感じで?
まあ、あちらの世界は現在あの場面で凍結・・・時間が止まった状態です。」
「あんた・・・いや、ソナタさんが助けてくれたのか?」
「ソナタと呼ばれるのが好きです。
後、私が助けたと言えば治療ぐらいですね。」
「ありがとう。
言うのが遅れたな・・・すまない。」
「おや、案外素直ですね。」
「茶化すな、昔からじいちゃんに恩を受けたらすなおに礼をしろと言われてるんでな。
・・・しかし・・・何故だ?」
「何故、とは?」
「いや、調合は俺がやったんだが、あそこまでの威力になるはずは無い。
いいとこドデカイ音と缶が数センチ浮く程度にしてたんだ。」
何度も行った実験の失敗に悩む。
「ガスですね、正確にいえば天然ガスがあそこの地下に眠ってるんです。
それが今回小さなガス溜の真上の缶中の爆発に誘爆した・・・のが真相です。」
サラリと出された答えに背筋が寒くなった。
実験前に感じた異臭、違和感を思い出した。
「あの臭いか!・・・あそこ、そんなにアブネエ場所だったのか?!」
「近くにA温泉があったり、昔はこの一帯も活火山があったと土地ですしね。
結構そんな場所もありますよ。
・・・どうしました、そんな恐い顔をして?」
その時俺は話を聞きつつ、さっき見ていた画像を睨むように凝視していた。
とある事に気づいたから。
「なあ・・・この缶の破片・・・このまま行けばこいつに当たるんじゃないか?」
「はい、猿橋さんでしたか?
彼女の頭辺りに確実に当たりますね。」
「!
じゃあこいつもここに避難させてくれ!
ここなら爆発が収まるまで待てば安全なんだろう?」
「無理ですね。」
「なんで?!
俺はできたのに猿橋はできないって・・・さっき治療だけだって言ってたな?」
「はい。」
気持ちいいくらい素直にうなずく。
「ここに連れてきたのはソナタじゃ無いってことか?」
「そのとおりですね。
説明すればあなたは呪いを受けています。」
「呪い・・・か、また突拍子も無いオカルト話だが、それがこの状態と関係あるのか?」
なんか話が怪しい方向に向いた気がする。
「はい、一番の根源ですから。
説明を続けますね。
ソウマ君、君は生まれた時の話は聞いていますか?」
「生まれ?
両親共に死んで今のじいちゃんに引き取られたってぐらいしか知らん。」
「実際そうですが・・・くわしく説明すればもっと複雑です。
要点だけ言えば、あなたの両親は母親のお腹の中にいるあなたと共に、たまたま運悪く病院施設の一角の人々の一人として異世界に召喚されました。
一時の戦力として召喚士の戦闘に使われたのですが・・・あなたは母親ごと大型クリーチャードラゴンに飲まれました。」
「怒っていいとこなんだろうが・・・実感わかねえ・・・。」
ソナタは苦笑する。
「まあ、非現実的ですしね。
なんにせよそれだけでは終わらなかったんです。」
「だろうな、さもなきゃ俺はここにいないはずだ。」
「はい、片方の召喚士が無謀にもドラゴンに対抗して『古代の神』の1柱を召喚。
現れたのは『闇を司りし旧世界の吸血神』でした。
結果その地域一帯はアンデッドの徘徊する死の世界になりました。
無論目の前のドラゴンもね。」
「・・・。」
「そこで奇跡なのか不運なのか、そのドラゴンからソウマさんが生まれました。」
「ちょっと待て・・・なんでいきなり俺参上?!」
「偶然飲まれた母親からあなたが出てきた。
そしてドラゴンの魔法抵抗力とその肉の壁で幸運にも神の呪いをレジストした初めての人間になった。
崩れゆくドラゴンの腐肉がクッションになってその世界に生まれ落ちてしまった。」
「信じられんが本当だとすれば・・・俺って生まれるとこから波乱の嵐?」
「ここで一端解説すれば。」
ソナタが何故かホワイトボードにマーカーで図を描いて説明を始めた。
何気に字が上手い。
説明によると、世界の一つ一つには干渉力と言うものがあって、その世界のものが他の世界に移動すると元の世界に戻そうとする力と、移動した世界からは押し返す力が働くそうな。
本来Aの世界つまりこの地球で産まれるはずだった俺は、Bの世界で、Cの世界の生物から産まれたことにより3つの世界から戻そうとする干渉を受けることになったそうだ。
結果その後それに引かれるアストラル体という霊体よりも高位な存在する力そのものが3つにわかれそれぞれの世界から今も尚引かれ続けてるらしい。
それは今いるような次元の狭間にいる場合どこに飛ぶかわからないということだった。
「つまり、俺は3つの世界の内どっかに飛ばされるってことか?」
俺の結論に小頚を傾げて
「ん~・・・半分正解ってとこですね。
3つの世界のそれぞれの間に幾多の世界があるんですよね。
つまり・・・。」
「その間の世界にも入っちまう可能性があるってことか?」
「正解~・・『ドンドンパフパフ♪』
器用にもどっかからクスダマとBGMつきで紙吹雪も降ってきた。
芸の細かい人だ。
「ソウマ君の生まれの奇跡編はここまでで、次にいきますね。」
「奇跡偏って・・・やっぱりまだあるんだ・・・。」
「『闇を司りし旧世界の吸血神』は目の前で産声をあげた小さなソウマ君を恐れました。」
「?・・・なんでそんな強力な神さんが赤ん坊を恐がるんだ?」
「神と呼ばれる高次存在は必ず何かを司っています。
この神の場合は始源の闇と死と言う終焉。
また、神と呼ばれる高次存在は司る物の概念により存在のあり方を左右されます。
その司っているモノの対極の生誕が目の前で初めて興ったのですから・・・まあ驚きもしましょう。
そして、そのことでその神は変質してしまいます。
良くも悪くも恐れを知り感情を得ました。
その赤子に興味を持ち抱き上げた時には母性さえ抱くほどに。」
「え~~~・・・その神さんって女なの?
っていうか・・・もしかして呪いって・・・。」
恐々と聞くと
「正確には『闇を司りし旧世界の吸血神』の祝福ですね数ヶ月は神に育てられていたはずです。
あなたとお分かれの際はボロ泣きして『チュ~』してましたから。
あ、その時に命が消えそうになったら次元を超えて回避するって暗黒神の呪いか祝福かわからない力が今の状況ですね。
あれ・・・また、どうしたんですか?
打ちひしがれたようにひざまずいて。」
「俺のファーストキスは闇黒神で呪われたって・・・どんな不幸だよ・・・。
・・・でも命を助けられる力なら祝福でいいんじゃねえか?」
少しでも前向きに考えてみる。
「実はこれには欠点があってね。」
その言葉に自分でも強く頬が引きつるのがわかる。
「・・・ナニ?」
「一つは跳んだ場所が指定できない。
これは一端致死性の運命を回避しても次に出たとこが安全とは限らないこと。
二つめにこの神の奇跡は連続しない。
少なくとも神力が回復するまでは発動しないから跳んだ先で死にそうになっても助けがない。」
「自分の力でナントカしろってことか・・・。
・・・なあ、さっきの話までで、その話が本当として・・・ソナタはどういうつながりがあるんだ?」
「私ですか?
神があなたのおじいさん・・・フーガにあなたを托してもとの次元に戻る手伝いをしたモノ・・・の残留思念。
簡単に言えば、魔術であなたの霊体に軽く改造を施し、私の霊体を移植して初めて次元を越えた時にこういう風に説明の為に起動する仕掛けをしておいたんです。」
「さらっとじいちゃんのこととか問題発言あったりしたけどとりあえずは混乱はしなくて済みそうだよ。
ところで・・・あれはどうにかならないのかな?」
「あれ、というと?」
クイッっと顔を爆発の映像に向ける。
「猿橋は知り合って間もないが大事な後輩だ・・・ナントカ助けられないか?」
「強くなってください。」
「は?!」
いぶかしむ俺にソナタは楽しそうに続けた。
「最後に呪い・・・まあ祝福と言っておきましょう。
祝福で跳んだ瞬間、次元も操る神の神威で世界は凍結します。
そしてそれを解く方法は二つ。
あなたが死ぬと世界は動き出します。
また、命の危機とされる脅威がが脅威たらなくなったとき・・・。
今回は爆発と鉄片をソウマ君が処理できるようになって、次元跳躍に必要な神力が補充されたときに元の世界に戻る力が働きます。
ここで注意ですが・・・。
跳んだ後は時間停止が元の次元に展開しますが、あなた自身の身体の成長も止まります。」
「のおおおおおううう~~~!!」
これ以上伸長が伸びない期間が長くなる悪夢に魂の叫びがこだまする。
気にしないようにしてるけど・・・気にしてるんだぞ・・・スッゴク・・・。
「待ってろよ・・・すぐに帰ってくるからな!!」
涙目で強がって宣言する健気な俺。
打ちひしがれながら声を絞り出す。
「さっき改造とか言ってたけど異世界いってスーパーパワーに目覚めるとかのご都合主義ってないよねえ?」
目を丸くさせるソナタは手をブンブン振る。
「ちょっとそういった改造はやりたかったんですがフーガ君に止められちゃったんで・・・元々魔力も通常の半分ぐらいしかないみたいですね。」
「神の呪いをレジストした抵抗力は?」
「さっきも言ったようにドラゴンの最後の抵抗がたまたま盾になっただけです・・・あ、そうだ。」
「なんかあるのか?」
「妙な運はありますね不確定要素ですが・・・。」
「運ね・・・ハハハ無いよりましか・・・。」
乾いた笑いしかでねえよ。
「変な力や神様や人外を引き付ける運・・・【変神寄与体質】とでも名づけますか?」
「そんな能力ほんとにあったらいやじゃ!」
「決意もできたことですし後は問題ないですね。
では、幸運を祈ります。
どこかの次元で私の本体にあえたらよろしくね・・」
霧のように消えていくソナタをみながら・・・
落下するような浮遊感とともに・・・俺は新たな世界に旅立った。
最後の体質とかって冗談だよね?