婚約破棄ですか? では最後に全部暴露いたしますわ
数ある中から作品を選んでいただきありがとうございます!
何も考えずに読める系統で、短い時間でさくっと読めると思います。さっぱりざまぁです。
ツインテールのピンクの艶髪を揺らしながら、リリエルは目の前の婚約者を見つめていた。
いや、睨みつけていた。
婚約者とその隣の色気の漏れる女。
この構図から言って、もうおかしい。
リリエルとその婚約者は二歩も離れている。
それに対して婚約者と魅惑のお姉さまとの距離は⋯⋯ゼ、ゼロ!?
というか、婚約者の腕は魅惑のお姉さまと密着していませんか!?
昼間からそういう雰囲気はアウトです。
私もした事ありませんのに。
それなのになんだか悪びれた顔をしている婚約者のサーフェスさま。
なぜあなたが悪びれているのでしょうか。
「リリエル、彼女はラスティ」
リリエルには学園のカフェテリアの喧騒が消えたように感じた。
突然、自己紹介が始まりましたわ。
そもそも、鉢合わせちゃ駄目なシチュエーションじゃありませんか?
絶対、会話がないですよね。
「「⋯⋯」」
ほらやっぱり。
かろうじて繋がっていたお互いの共通の友達が席を外した途端、重たい沈黙に飲まれて一人より気まずくなる。
それが起きていますよ。
そういうところはサーフェスさま、良くないと思います。
サーフェスは咳払いをする。
「リリエル、婚約を破棄してくれ! 俺はラスティと真実の愛を育んでいくんだ」
婚約破棄⋯⋯息がうまくできない⋯⋯私では、駄目だというのですか⋯⋯。
努力をすべて否定されたような気分ですの。
「私という⋯⋯婚約者がおりますのに⋯⋯」
声が揺らいでしまいましたわ。
私の想いは、少しも伝わっていなかったのですか⋯⋯。
こんなに⋯⋯何度もお伝えしても⋯⋯言葉では通じないというのですか?
何も気がついていないって顔をしていますわよ?
わたくしがサーフェスさまのフォローにどれだけ苦労したことか⋯⋯。
——最後ですから、わたくしの抱えきれないほどの想い。
全部言わせていただきますわね。
「私はサーフェスさま、ただ一人を愛していたのに⋯⋯」
嫌な部分もたくさんありましたわ。それでも周りが期待してくれて、あなたと一緒に未来を進んで行こうと、心に決めておりましたのに⋯⋯。
「リリエル、そんなに俺のことを想っていてくれたのか」
サーフェスはしゅんとしおらしくなる。
落とした肩より口元が緩みっぱなしですよ。修羅場なのに嬉しいのですか?
何を考えたらそんな反応が出来るのですか。
劣等感がお強いですのに。
そういう言葉こそ、ちゃんと聞いてほしいですわ。
「えぇ、サーフェスさまの顔が大好きでした。他の部分のフォローは大変でしたが、最善を尽くしましたわ」
「えっ、顔だけ?」と声が上がったのは学園のカフェテリアの後方。
皆さま、すごく良く聞いていらっしゃるのね。
「顔だけなのか? リリエルひどいぞ」とサーフェスの反撃。
はぁ、本当に何も気がついていなかったのですね。次期当主になると思って行動してまいりましたのに。
「相手の領地の特産品について、特徴を知らないばかりか、特産品そのものも知らないなんて恥ずかしく思っておりましたわ。毎回、フォローして差し上げたのに⋯⋯」
「うそっ」
カフェテリアのどこかから声が上がった。
その声、今の話の張本人ですわね。
先週のお茶会のどなたか。
「いや、たまたま他の領地と混ざってしまって⋯⋯」
これにはたじたじのサーフェス。
お茶会をなんだと思っているのでしょうね。情報の駆け引きですのに。
誰がどんな強みを持っているのか知らないで振る舞えないでしょう。
「相手の派閥も知らないで爆弾発言を差し込もうとする時に、絶妙なタイミングで言葉を被せましたのに、後で『俺の話の邪魔はするな』ってこっちが言いたいのですわ」
「「うわ〜、ないわ〜」」
割と近くからも聞こえてきますわ。
「や、やめてくれ」
声が震えているサーフェス。
サーフェスさまのご実家は中立派だからって関係ないのではありません。
むしろ中立を貫くために必要なのですよ。
「この前のお茶会だって、『あいつの父親(当主)は太っててやばくない?』って持病をお抱えだって知らないで参加しているとか、本当にやめてほしいですわ。言葉を濁すのにとても苦労したのですから」
ついでに身体の循環を良くするお茶をご紹介したら、後日感謝されましたわ。
いつ当主が変わるかも分かりません。その時に誰と繋がるのか、立場ががらりと変わる可能性もありますのに。
「だから、やめてくれって言ってるだろう!」
はぁ、話せば話すほど無駄な時間が流れてきたことを体感してきますわ。
努力が無になるとはこういう感覚でしょうか。
「まぁ、サーフェスさま、ひどいですわ」
「ひどいのはどっちだ!」
まだ懲りてませんの?
わたくしの中でも怒るべきなのか、もう話したくないのか分からなくなってきましたわ。
「そもそも婚約をしているのに、他の方に熱を上げているのがいけないのでしょう?」
「そっそれは君が冷たい態度をとるから⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯えっ?」
あっ、もしかして嫉妬させたくてやっちゃった感じかしら。
うそ⋯⋯そんなことで⋯⋯わたくしの人生を滅茶苦茶にするのですか⋯⋯。
わたくしにとって、これは許せませんわ。
「両家顔合わせの時から、男爵さまと夫人から『サーフェスと婚約を決めてくれてありがとう』と会うたびに両手で手を握られて熱のこもった感謝をされるのですよ」
正直、男爵様とご夫人とはこれからも良好な関係を続けたいと思っていましたのに⋯⋯こんな形で終わりになるなんて⋯⋯。
わたくしのほうがよっぽど悔しいですわ!
「でも私もこれでいいと思ってましたの。私はサーフェスさまのお顔が本当に好みでしたので、それ以外は私がフォローすればよいと思って⋯⋯」
サーフェスの顔色が悪くなる。
学園で、淑女科だけなんか物足りませんでしたわ。こっそり経営科や兵法科、商業科に忍び込んで勉強した日々は楽しかったですわ。
こうして今では、とても役に立っていますもの。
「サーフェスさまのいる男爵領の特徴はご存じですか?
農業七割に商業三割です。飢饉のリスクを考えたら、農業の比率は維持しても十分価値がありますわ。ただし、改良や加工技術、さらに保存技術を磨くともっと安定します。それを軸に商業の方も変えていくのが、領地の魅力を引き上げることに非常に有効ですわ。私も男爵様に計画を打診してみましたの」
男爵様から詳しい話を切望されましたわ。
あらゆる関係者と熱い論議を交わしましたね。とても充実した日々でしたわ。
自分が役に立つと、肌で感じた3日間でしたもの。
カフェテリアの空気が変わった。
リリエルの言葉を待っているように、視線が集まる。
「ようやくその計画を始めるところでしたのに」
あの日々を思い出したリリエルの顔に笑みが浮かぶ。
それは領地改良の中心人物という印象を強める。
水を打ったような静けさ。
そして、さざ波が起こる。
他の貴族子息たちが話し始めた。
「うちの領地に来てくれないかなぁ」
「顔も可愛いのに頭も回るなんて、最高」
「持つべきものは嫁だな」
「あの、リリエルさん⋯⋯」と身を固くするサーフェス。
「今のままでは資源の有効活用が難しく、領民の不満を募らせる危険性は高まっていましたわ。
早く手を打ちたくてわたくしは沢山の持参金を持っていきましたの。……八割は自分で稼ぎましたが」
「は、八割……?」
誰かが呟く。
「えぇ。ですから——」
にっこりと、リリエルは微笑む。
「婚約破棄なら、わたくしの持参金はきっちり返していただきますわね。残りは男爵様と交渉ですわね」
「ちょっと話し合わないか?」
ここへきて、ようやく低い腰ですわね。
あなたのその言葉がもっと前にあったら、わたくしたちは変われたかもしれませんね。
もうわたくしの愛は白から黒へ反転しましたの。
全部、ひっくり返しますわ。
「ええ、もちろん。
続きは両家顔合わせでお話を聞きますわ」
「まっ、待って⋯⋯」
「そうですわ」
リリエルはラスティの方へくるりと向き直った。
「もうひとつ、ラスティさんのいる領地ですが、鉄鉱石の出る鉱山。そろそろ次の特産品を考える過渡期に向かっていますわね」
「えっ?」
ラスティの方へ視線が集まる。
「残念ながら鉱山の地脈からしますと、東側の領地の方が新しい鉱山の可能性は高いでしょう」
「本当ですか!?」
おそらく東側の領地の子息からの歓喜の声。
青ざめるラスティ。
「……そんな話、聞いていません……」
震える声。
「私はどうすれば⋯⋯」
「持参金が出せるうちに、嫁ぎ先を見つけるのがよいかもしれません」
それを聞いたラスティは、力のない足を引きずる。青い顔をして帰っていきました。
取り残されたサーフェスは、縋り付くような目。
それを見て満面の笑みを向けるリリエル。
「サーフェスさま、ご安心ください」
「リリエル!」
サーフェスの顔が明るくなる。
「次に両家で会うときまでに、清算資料はきっちりご用意いたしますわ。それと別に今後の領地改良計画の継続支援も提案いたしますので、ご安心ください」
「リリエル、済まなかった! 謝るから許してくれ〜!」
縋るような声。
今までサーフェスのことを想って費やした時間を慰めるように、静かに長い息を吐いた。
これで全部でしょうか。
「……もう二度と、あなたを選んだわたくしには戻りませんわ」
わたくしも前に進みましょう⋯⋯。
そして、いつもの笑みに戻った。
するとカフェテリア中の生徒がリリエルの周りに集まってきた。
あら、今日に限って私は人気者なのね。
……騒がしいのは、嫌いではありませんわ。
* * *
久しぶりの一家団らんの朝食─。
先に来ていた男爵の父は、リリエルを手招きした。
「リリエル、君は一体何を始めたんだい? お茶会のお誘いに縁談の話まで、山程手紙が来ているよ」
「今は失恋モードですの。
新しい恋なんて、早々には来ないのですわ。
こうなったら悲しみに暮れて、やけ食いするのです」
パンケーキを美味しそうに頬張り、歓喜の声を上げているリリエル。
空元気でも美味しいものは身体に沁みる。
「ん〜、美味しいですわぁ!
パンケーキにかかっている艶やかなシロップ……見たことない蜂蜜ね」
「これはアガベシロップと言いまして隣国から来たものなんですよ」
すかさず侍女が答える。
「アガベシロップ!? 気になりますわ! お父様、ぜひ隣国の資料を取り寄せてくださいませ」
「ついに隣国進出かぁ。うちの娘はすごいなぁ」
「隣国の方でもいいので、話が合う男性の方とお会いしたいですわ」
リリエルはとびっきりの笑顔でパンケーキを頬張った。
* * *
隣国某所──。
「グラード、ここのところ隣の王国の水面下で動く者がいるようだが、判明したか?」
「王子、なんとリリエルというまだ十六歳の女学生だそうです」
「そうか、早く会いたいな」
耳に心地よい、アルトボイス。
顔にかかる金髪をかき上げると王子は、リリエルのいる王国の方を見ながら顔を綻ばせた。
主人公のリリエルはサーフェスのことを顔が好きだからと言っていましたが、それでもサーフェスを支えるべく、男爵家の領地から交流関係まで幅広い知識を持ち、良好な関係を築こうとしました。
そしてサーフェスにも変わってほしい。
その気持ちを少しでも伝えようとしていました。
しかし、リリエルの方が能力が随分と高かったのでしょう。
サーフェスの父親である男爵はリリエルと話が合い、サーフェスの両親に気に入られていました。
その横で、鈍感ながらも劣等感を抱くサーフェスは苦い思いをしていたのでしょう。
出来ることを探さず、良くない方法でリリエルを振り向かせようとしました。
そして、その方法はリリエルが一番嫌がることを知らずに……。
そんな背景があったこと、追記いたします。
ちなみにリリエルは婚約破棄以後もサーフェスの領地改良計画に携わっていきます。
サーフェス自身も反省し、出来ることを探し始めました。
そこに隣国の王子が……接触するのかな……なんて想像を膨らませております。
お読みいただきありがとうございました! 誤字脱字がありましたら、ぜひご連絡ください。
よろしくお願いいたします!




