横浜居留地の黒い霧
一八六〇年代、幕末の横浜。
そこは、新時代の技術と、
異国の野心が入り混じる混沌の街だった。
二代目・宗一郎は、幕臣として長崎で海軍伝習を受け、
異国の言葉を操る卓越した士分であった。
しかし、その優秀さゆえに、彼は触れてはならない
「国の根幹を腐らせる密約」を目撃することになる。
ある雨の夜、
宗一郎は横浜の外国人居留地にある
商館の奥深く、ある会談を盗み聞いていた。
そこにいたのは、西園寺家の当代・西園寺 景冬。
初代・景行の冷徹な血を色濃く継いだ若き公家である。
景冬の前には、英国の武器商人、
そして巨大な国際金融資本の代理人が座っていた。
「日本という国を、一つの巨大な『商品』として提供しよう」
景冬の口から漏れたのは、
維新の理想など微塵も感じさせない、
冷酷な商談だった。
「我ら西園寺が新政府の舵を握る。
その見返りに、日本の主要な港、炭鉱、
そして鉄道の敷設権を貴殿らに譲渡する。
日本が借金を返せぬ時は、国土そのものを直接の抵当とする。
民は永遠に、貴殿らのために働く小作人と化すだろう……」
宗一郎は激しい眩暈を覚えた。
倒幕、維新、文明開化。
それら全ての美談の裏で、
西園寺家は「日本を海外の植民地に差し出す」ことで、
自分たち一族だけの永久的な支配権を買い取ろうとしていたのだ__。




