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「賊軍」  作者: 此花 陽
1. 令和の流砂
9/13

横浜居留地の黒い霧


 一八六〇年代、幕末の横浜。


 そこは、新時代の技術と、

 異国の野心が入り混じる混沌の街だった。


 二代目・宗一郎は、幕臣として長崎で海軍伝習を受け、

 異国の言葉を操る卓越した士分であった。


 しかし、その優秀さゆえに、彼は触れてはならない

「国の根幹を腐らせる密約」を目撃することになる。


 ある雨の夜、

 宗一郎は横浜の外国人居留地にある

 商館の奥深く、ある会談を盗み聞いていた。


 そこにいたのは、西園寺家の当代・西園寺さいおんじ 景冬かげふゆ

 初代・景行の冷徹な血を色濃く継いだ若き公家である。


 景冬の前には、英国の武器商人、

 そして巨大な国際金融資本の代理人が座っていた。



「日本という国を、一つの巨大な『商品』として提供しよう」


 景冬の口から漏れたのは、

 維新の理想など微塵も感じさせない、

 冷酷な商談だった。



「我ら西園寺が新政府の舵を握る。

 

 その見返りに、日本の主要な港、炭鉱、

 そして鉄道の敷設権を貴殿らに譲渡する。


 日本が借金を返せぬ時は、国土そのものを直接の抵当とする。

 民は永遠に、貴殿らのために働く小作人と化すだろう……」


 宗一郎は激しい眩暈めまいを覚えた。

 

 倒幕、維新、文明開化。


 それら全ての美談の裏で、

 西園寺家は「日本を海外の植民地に差し出す」ことで、

 自分たち一族だけの永久的な支配権を買い取ろうとしていたのだ__。



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