覚醒のデジタル・タトゥー
しかし、絶望の淵で無一郎の指が触れたのは、
父の遺品のスマホだった。
壊れているはずの画面が、微かに明滅している。
無一郎は、父が死ぬ間際に何度も書き留めていた
数字を入力した。
一族が「賊軍」に堕とされた起点の日。
「1-5-8-2」
次の瞬間、スマートフォンの画面が異様な輝きを放ち、
膨大なデータの奔流が溢れ出した。
そこに展開されたのは、一族が百五十年にわたり、
命を懸けて、あるいは命を削って収集してきた
「国家の裏面史」の断片だった。
戦国時代、西園寺の先祖が仕組んだ謀反の濡れ衣。
幕末、日本の国土を秘密裏に外資へ売り渡した契約書。
昭和、国民を「生贄」として特攻へ送り出した真の命令系統。
そして、令和の今、西園寺景久が進めている
「日本解体工作」の全容——。
父の音声ファイルが流れる。
『無一郎……勝て。俺たちの死を、データとして刻み込め。
消えない呪い(デジタル・タトゥー)となって、
奴らを地獄へ引きずり込め』
無一郎の瞳から、絶望が消え、漆黒の殺意が宿った。
父がくれた名前、「無一郎」。
それは「無」ではない。
「ここから全てを無に帰し、新しく始める者」という
意味だったのではないか。
無一郎は、父のスマホから「ライブ配信」を立ち上げた。
かつての祖先たちが持ち得なかった、現代の「力」。
一度流せば、二度と消すことができない、
デジタルという名の刺青。
「俺の名前は、五代無一郎」
無一郎はカメラに向かって、静かに語り始めた。
「百五十年、お前たちに『賊軍』として
殺され続けてきた男たちの末裔だ。
今から、あんたたちの生活が
なぜこれほどまでに苦しいのか……
その本当の理由を話す。
西園寺景久、見てるか?
あんたが消したかった『記録』は、
今からこの国の『記憶』になる」
スマートフォンの録画ボタンが、血のように赤く点灯した。
視聴者数が、1、100、1000と跳ね上がっていく。
五代無一郎の、百五十年の宿命を懸けた「逆襲」が、
今、始まった__。




