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嚢thanks  作者: 蟹 卓球
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一人称の民の声

 今朝、テレビを付けると奇妙なニュースが放送されていた。


 今日の天気も、殺人事件も、スポーツ選手の栄光も、すべて押しのけて。


 地球上に、神が降臨したというのだ。

 いや、それが人間の思うところの神なのかは分からない。

 もしかしたら、悪魔なのかもしれない。


 一つだけ確かなことは、当時の科学ではそれを説明する術がないということだ。


 筋書きはこうだ。

 ある大都市のスクランブル交差点に白い半透明の男が天から現れた。

 筋肉質の彼は髪と髭を伸ばしており、下手すると浮浪者にも見えたかもしれない

 だが、どうにも無視できない威厳を放っており、通行人は皆、移動を止め、その光景に見入っていた。


 その男がふと胸元に手を入れたかと思うと、シワシワになった巾着袋のようなものを2枚取り出して、交差点のど真ん中に置いた。

 一瞬の沈黙のあと、彼の姿は光の粒となって消えた。


 半透明の男は一言も発さなかった。

 まるで、自分の行動だけで全てが伝わると言わんばかりに。


 残された2つの袋に人々は好奇心をそそられたが、その国特有の奥手な性格のおかげか、神の力かは分からないが、誰が呼んだかも分からない警察が到着するまで、その不審物に触ろうとする人はいなかった。






 *






 そんな摩訶不思議なことが起きたものだから、すぐにこの星の最高レベルの科学者が集められ、その袋の解析が行われた。

 残念なことに、如何なる頭脳・技術をもってしてもその謎を解明するには至らなかった。

 しかし、その袋の複製だけはいとも簡単に行われた。


 どうしてかって?


 袋の中にもう一方の袋を入れたものを放置していたところ、突然それが発光した。発光が収まった後、科学者たちは急いでその袋に駆け寄り、中身を調べた。

 すると、その中からは、2つの袋が出てきた。

 どうやらこの袋は中に入れたものを複製できるらしい。と、彼らは気がついた。


 これは後にドキュメンタリーで語られていたことであるが、その時、半分諦めモードであった研究室に歓声が沸き起こった。

 中には、踊りだした者までいるという。


 その発見のお陰で研究は飛躍的に進み、その袋が持つ以下のルールが判明した。


 〜〜


 ・袋は通常時ジックロップ程度の大きさであるが、伸縮性があり、引き伸ばすことでいくらでも大きくなる。


 ・袋は決して破れることがない。


 ・26時間47分11秒を周期としてその袋は発光する。


 ・袋が発光すると袋の中に入っていたものはその袋の中から消え、代わりに世界中のランダムな袋の中に中身が2倍になって現れる。


 〜〜


 つまり、この袋の中に入れたものは倍になるが、その中身は世界中のランダムな人のものとなるのだ。

 そのため、袋に入るものであればどんなものでもコピーできるといえば聞こえは良いが、その成果を自分自身のために利用するのは不可能に近い。






 *






 さて、仕組みを除いてできることが殆ど解明されたこの袋であるが、それをどのように利用するべきかということに対しては議論が巻き起こった。


 それを世界に1つだけの芸術品に使用し、より多くの人に行き渡るようにすること、貴重な資源に対して使用し、その生産源とすること、各国の要所に置き、運搬のツールとして利用することなど様々な案が挙げられた。

 しかし、いずれも限られた人だけがその袋の効力を得るものであったため、一般人からの反発が大きかった。


 検討に検討を重ねた代表者たちは、これは神から授かったものだから、全人類が使用できるようにすることできっと世の中が良くなるであろうという非科学的な理由で大衆への配布を決めた。


 まあ、多くの人にその箱が渡ることによって多くの物が複製され、結果的に地球上の資源が増えると考えたのかもしれないが。


 結論から言うと、その選択は人類史上最悪のものであった。

 それをパンドラの箱ならぬ、パンドラの袋と呼ぶのかは分からない。

 とにかく、悪いのはパンドラの箱を開けた者ではなく、中に災厄を詰め込んだ張本人だということは疑いようがないだろう。







 *






 あなたならこの袋をどのように使うだろうか。


 その袋の中に入れたものは世界中のランダムな人のもとへ行くという特性から、最初は皆、それを自分の利益のために使用することを諦めていた。

 中には、日給程度のお金を入れ、

「これを受け取ったあなたはこのお金の半分を受け取って構いません。ですが、もう半分は自分の財布に入れずに、袋の中に戻していただけないでしょうか。」

 という旨の手紙を同封し、あわよくば自分のもとへ戻って来るのを待つ楽観主義者もいたようだが。


 多くの人々が袋の中に入れたものは食料・薬・教材など、生活に困窮している人の助けになりそうな物が主であった。

 今日のご飯に困ってもいないのにそれを自分の物にする者は冷たい目で見られる風潮があったが、きっと誰もが一度は袋の中の物を食べたことがあるだろう。


 外国製と思われる美味しそうなお菓子が入っていたとき、我慢できずに手をつけてしまった私のように。


 振り返ってみると、その頃の袋は概ね幸せを増幅していた。

 多くの人が顔も知らない難民のために余った物資を袋に詰める。

 中に何が入っていたとしても、自分のものとすべきではないと知りながら、今日は何が入っているだろうかと楽しみでついつい袋の中を覗き込んでしまう。

 まさに、毎日がクリスマス状態であった。


 誰もがその袋が発光する時間を楽しみにし、誰かのプレゼントとして心ばかりの品物を袋に詰める。

 ついには、多くの公共施設に袋が発光する時刻を示すための時計が設置されるようになった。






 *






 より密の味に近いのは他人の不幸か、それとも自分の幸福か。


 その袋に対する社会的関心が失われていった頃、袋の悪用が問題となった。

 彼らはその袋を自分の利益のために使用する方法に気がついてしまったのだ。

 その発想の根源には、袋の中に入れたものは他の袋の中へ移動するという性質がある。

 当初、人々はこのことをせっかく袋の力でコピーした物品が自分の物とならないというデメリットとして捉えていた。

 しかし、ほんの少しの悪知恵で、どのような短所も長所へと化ける。


 魔法の袋が、ゴミ袋として使われ始めたのだ。


 このゴミ袋とは本来の言葉通りの意味である。

 家庭ごみを袋の中に詰め込み、袋が発光したらその中のゴミは無くなっている。

 分別がめんどくさいゴミも、重たくてゴミ置き場まで運ぶのが億劫なゴミも、生理的に触れたくないゴミも、この袋に入れるだけで27時間後には光となって別の人の元へいく。

 他人に押し付けている分、山へ捨てるよりもたちが悪い。


 メディアはそのような行いに対して警鐘を鳴らしたにも関わらず、いや、そのような行いを良くない人に広めてしまったせいで、袋の中はゴミで溢れかえる事となった。


 それを放置していると手遅れになるため、政府はゴミの回収に力を入れることにしたが、毎日新しいゴミが捨てられるせいで、いたちごっこに過ぎなかった。






 *






 パンドラの箱に餌を与えるのに飽き足らず、とあるシリアルキラーは自らがパンドラの箱となった。


 その袋は生物も複製するということが科学者たちの実験で分かっていた。

 袋の中に豚を入れると、約27時間後には遺伝子も成長度合いも全く同じ2匹の豚が現れた。

 どうやら、クローン生物のように、それらの生き物は全く同じのようである。

 しかし、流石にそれを自分の身で試す人間はいないはずであった。

 物体として完全に同じであっても、意識に関しては未知の領域である。


 正気を疑うことに、そのシリアルキラーはそれをやってのけた。


 目指したことは、いわゆる世界征服である。


 単細胞生物よろしく、武器と一緒に袋の中に入ることによって自らを増殖させ、その先でまた袋に入って発光を待つ。


 このようなことを繰り返してその殺人鬼は世界中に数を増やしていった。

 たとえ、袋の中から出てくるのを発見されて通報されそうになったとしても、手に持った武器で口封じをすれば良い。


 流石に数が増え、どこかでやらかしてしまったのか、その企みが公となった。

 しかし、時すでに遅し。その殺人鬼は数を十分に増やし、たとえそのうちの100人を捕まえたとしても残りの1948人が増殖する始末だった。


 誰もが自分の部屋にナイフを持った男が現れることを恐れ、袋を手放した。

 中には、自分の命の予備を作るために殺人鬼に習って袋の中に入る人もいた。

 そんなこんなであったため、世界は大混乱となった。






 *





 これだけ語れば、私たちの生活は袋によって原型を留めないほど破壊されたことが分かってもらえるだろう。


 その後の話は、袋の持ち込みを禁止する地下シェルターを建設したとか、ある日突然不思議な力でコピーされたものがすべて消滅したとか勝手に想像してもらって構わない。


 ……このような悲劇がいつかの誰かに伝わると良いと思い、私はこれを紙に書き残して袋の中に入れた。もし、この紙を偶然どこかで見かけた場合、そしてあなたがこの話を全く知らなかった場合は、ぜひこれを世界に広めてくれることを願う。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

残りは明日、投稿します。

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