第8話「愛と願い」
なにこれ……
なにこれなにこれなにこれなにこれなにこれ!!!
何より……恥ずかしい!!!!!!!!!!!!
自分の脳内をさらけ出す感じ!!!
たったこれだけのフレーズを書くのに、何度ベッドでのたうち回ったか……!
でも、ふと頭に浮かぶ……
怜央さんと、セナ君の言葉。
「……俺、奏ちゃんのことが好きだから」
「ラブストーリーも何度も演じてきたし、
ラブソングも何度も歌ってきたけど……
俺は、次の曲は“君のことだけ”を想って歌うよ」
「お前のこと、ちゃんと好きなんだよ。
……いつも、我慢してんの。今日も、今も」
「……バスローブもやばかったし、今のその服もやばいし、
素直に“かわいい”って言いたいのに、言ったら全部崩れそうで言えないの、マジで面倒くさい」
……涙が零れそうになる。
……2人は、どんな気持ちであの言葉をくれたんだろう?
どちらかを選んだら……絶対に、どちらかを悲しませる。
こんな素敵な人たちに、まさか自分がそんな想いを向けられるなんて……
想像したこと、なかったのに。
詞って……
きっと“告白”に似ているんだ。
だから、こんなに恥ずかしい。
でも、だからこそ……
ちゃんと、伝えたい。
今の自分の、ありのままの気持ちを。
ピアノに向かって、1小節、1フレーズずつ……
少しずつ、少しずつ、言葉を紡いでいく。
伝えたい“誰か”の胸に、届くように願いながら。
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件名:【歌詞案ご提出の件】「Only」音羽奏様
城田さま
いつもお世話になっております。音羽 奏です。
先日は、ウェディングソング採用のご連絡をいただき、本当にありがとうございました。
まだまだ拙いのですが……この曲に、どうしても自分の想いを込めたくて。
仮ではありますが、歌詞を書いてみました。
詞を書くのは初めてなので、ご迷惑でなければ……という気持ちなのですが、
もし少しでも参考になるようでしたら、ご覧いただけたら嬉しいです。
タイトルは「Only」です。
男性ボーカルを想定して、相手に誓いを立てるような気持ちで書きました。
お手数をおかけいたしますが、ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
……
音羽 奏
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……これがダメで、また前みたいな歌詞が来たらどうしよう。
結果が怖くて。
テスト期間中、メールを開くのが怖くて、ずっと……PCを立ち上げられなかった。
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件名:【ご確認の御礼】歌詞原案「Only」について
音羽 奏 様
いつもお世話になっております。
株式会社RiseTone Management 制作部の城田です。
このたびは、新曲「Only」の歌詞原案をご提出いただき、誠にありがとうございました。
拝読させていただきました。
率直に申し上げて……とても素晴らしかったです。
メロディに寄り添った言葉選び、音数やリズムを意識した配置、
なにより「まっすぐな想い」が伝わってきて、胸を打たれました。
現在、作詞担当とも共有させていただいたうえで、
この原案をベースに最終調整を進めていければと考えております。
ご本人の意図や、表現したいニュアンスなど、
改めてお伺いできる機会を設けられましたら幸いです。
本作は、ドラマ主題歌としても重要な位置づけの楽曲となるため、
リスナーの心に届くよう、引き続き丁寧に形にしてまいりましょう。
また追ってご連絡させていただきます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
……
株式会社RiseTone Management
制作部 A&Rセクション
城田 直也
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無事に作詞も完成し、今回はどうしても生演奏にしたくて……
ピアノ+ストリングス+木管という編成で、スタジオミュージシャンの方にお願いすることになった。
今日はその収録日。学校帰りに、スターライトパレードのみんなとスタジオに集められる。
セナ君、怜央さんと会うのは、あの軽井沢以来。
ほんの一瞬だけ、スタジオの空気が張りつめた。
「じゃあ、ピアノいきまーす」
エンジニアの合図とともに、ピアニストが譜面に目を落とす。
深呼吸のあと、静かに鍵盤に触れた。
……けれど。
違う。
思わずヘッドホンをずらして、モニター越しの演奏に耳を澄ませる。
綺麗。でも、綺麗すぎる。
間の取り方も、音の粒も、どこか“予定調和”に感じてしまう。
「もう一度お願いします」
ディレクターの声で、再度テイク。
……やっぱり、違う。
この曲は、ただのラブソングじゃない。
言葉にならなかった想いを、そっと抱きしめるようなメロディ。
その一音一音に、微かにでも“揺らぎ”がなければ、温度が伝わらない……
「……すみません。あの、ピアノ……もう少し、間を……」
思い切ってマイクを取ると、ブースの中のピアニストが、わずかに眉を上げた。
経験豊富な、ベテランのスタジオミュージシャン。
「……了解です」
でも、三度目のテイクも、何かが噛み合わなかった。
「いったん止めましょう」
ディレクターの冷静な判断。
スタジオに、重たい沈黙が流れる。
ミュージシャンの方が、真剣に解釈しようとしてくれているのは、痛いほどわかる。
でも……これじゃ、違う。
「これさ、奏ちゃんのデモの方が良かったな」
椿さんの何気ない一言に、空気がまた変わる。
「奏、これお前が弾けよ」
「でも……私……」
セナ君……そんなこと言っても……セナ君は知ってるじゃない。
私はもう、3年も人前で弾いていない。
この状態で、鍵盤に手を置けるのかすらわからないのに。
「すいません、いったん変わってもらっていっすか」
セナ君がブースの中に声をかける。
「ほら、奏」
……こんな……何人も人がいる前でなんて……
立ち上がれずにいるとセナ君が手を差し出して来る。
「ん」
その手に引かれるようにして、立ち上がる。
ブースへと連れて行かれ……
「お前らもだよ」
セナ君が、メンバーたちに声をかける。
「オレらも一緒に歌うからさ」
「……いいの?」
あまりのプレッシャーに呆然としていると
「音外したらごめんね」
「それフラグやん」
「奏ちゃんの生ピアノ、ちょっと聴いてみたかったんだよね」
「リラックス~リラックス~♪」
全員がブースに入ってきて、私の横に並んだ。
「奏。お前のタイミングでいいから」
音のない空間に、かすかな吐息だけが漂う。
自分の心臓の音が、痛いほど響く。
あぁ、懐かしい。
コンクールの緊張を思い出す。
でも……あの時と違って、今はひとりじゃない。
横を見れば、みんながいる。
大丈夫。
みんなの歌が、いちばんきれいに、格好良くなるように弾けるのは、絶対に私。
「弾きます」
この曲は、ただ“恋に落ちた瞬間”だけを切り取った曲じゃない。
きっと……
10年後も、20年後も、思い出せるような、一瞬の積み重ね。
ひとつひとつ丁寧にすくい上げたような、そんな曲にしたかった。
手を繋いだ帰り道。
夜中に届いた「おやすみ」のLINE。
隣に座って、ただ黙ってテレビを見ていた時間。
その全部が、私にとっての「愛」だった。
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