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スターライトパレード4巻~Only~  作者: 木風


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第8話「愛と願い」

なにこれ……

なにこれなにこれなにこれなにこれなにこれ!!!


何より……恥ずかしい!!!!!!!!!!!!


自分の脳内をさらけ出す感じ!!!

たったこれだけのフレーズを書くのに、何度ベッドでのたうち回ったか……!


でも、ふと頭に浮かぶ……

怜央さんと、セナ君の言葉。


「……俺、奏ちゃんのことが好きだから」


「ラブストーリーも何度も演じてきたし、

ラブソングも何度も歌ってきたけど……

俺は、次の曲は“君のことだけ”を想って歌うよ」


「お前のこと、ちゃんと好きなんだよ。

……いつも、我慢してんの。今日も、今も」


「……バスローブもやばかったし、今のその服もやばいし、

素直に“かわいい”って言いたいのに、言ったら全部崩れそうで言えないの、マジで面倒くさい」


……涙が零れそうになる。


……2人は、どんな気持ちであの言葉をくれたんだろう?


どちらかを選んだら……絶対に、どちらかを悲しませる。

こんな素敵な人たちに、まさか自分がそんな想いを向けられるなんて……

想像したこと、なかったのに。


詞って……

きっと“告白”に似ているんだ。


だから、こんなに恥ずかしい。

でも、だからこそ……

ちゃんと、伝えたい。


今の自分の、ありのままの気持ちを。

ピアノに向かって、1小節、1フレーズずつ……

少しずつ、少しずつ、言葉を紡いでいく。


伝えたい“誰か”の胸に、届くように願いながら。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

件名:【歌詞案ご提出の件】「Only」音羽奏様


城田さま


いつもお世話になっております。音羽 奏です。

先日は、ウェディングソング採用のご連絡をいただき、本当にありがとうございました。


まだまだ拙いのですが……この曲に、どうしても自分の想いを込めたくて。

仮ではありますが、歌詞を書いてみました。


詞を書くのは初めてなので、ご迷惑でなければ……という気持ちなのですが、

もし少しでも参考になるようでしたら、ご覧いただけたら嬉しいです。


タイトルは「Only」です。

男性ボーカルを想定して、相手に誓いを立てるような気持ちで書きました。


お手数をおかけいたしますが、ご確認のほど、よろしくお願いいたします。


……

音羽 奏

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……これがダメで、また前みたいな歌詞が来たらどうしよう。

結果が怖くて。


テスト期間中、メールを開くのが怖くて、ずっと……PCを立ち上げられなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

件名:【ご確認の御礼】歌詞原案「Only」について


音羽 奏 様


いつもお世話になっております。

株式会社RiseTone Management 制作部の城田です。


このたびは、新曲「Only」の歌詞原案をご提出いただき、誠にありがとうございました。


拝読させていただきました。

率直に申し上げて……とても素晴らしかったです。


メロディに寄り添った言葉選び、音数やリズムを意識した配置、

なにより「まっすぐな想い」が伝わってきて、胸を打たれました。


現在、作詞担当とも共有させていただいたうえで、

この原案をベースに最終調整を進めていければと考えております。


ご本人の意図や、表現したいニュアンスなど、

改めてお伺いできる機会を設けられましたら幸いです。


本作は、ドラマ主題歌としても重要な位置づけの楽曲となるため、

リスナーの心に届くよう、引き続き丁寧に形にしてまいりましょう。


また追ってご連絡させていただきます。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


……

株式会社RiseTone Management

制作部 A&Rセクション

城田しろた 直也なおや

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


無事に作詞も完成し、今回はどうしても生演奏にしたくて……

ピアノ+ストリングス+木管という編成で、スタジオミュージシャンの方にお願いすることになった。


今日はその収録日。学校帰りに、スターライトパレードのみんなとスタジオに集められる。


セナ君、怜央さんと会うのは、あの軽井沢以来。


ほんの一瞬だけ、スタジオの空気が張りつめた。


「じゃあ、ピアノいきまーす」


エンジニアの合図とともに、ピアニストが譜面に目を落とす。

深呼吸のあと、静かに鍵盤に触れた。


……けれど。


違う。


思わずヘッドホンをずらして、モニター越しの演奏に耳を澄ませる。

綺麗。でも、綺麗すぎる。


間の取り方も、音の粒も、どこか“予定調和”に感じてしまう。


「もう一度お願いします」


ディレクターの声で、再度テイク。

……やっぱり、違う。


この曲は、ただのラブソングじゃない。

言葉にならなかった想いを、そっと抱きしめるようなメロディ。

その一音一音に、微かにでも“揺らぎ”がなければ、温度が伝わらない……


「……すみません。あの、ピアノ……もう少し、間を……」


思い切ってマイクを取ると、ブースの中のピアニストが、わずかに眉を上げた。

経験豊富な、ベテランのスタジオミュージシャン。


「……了解です」


でも、三度目のテイクも、何かが噛み合わなかった。


「いったん止めましょう」


ディレクターの冷静な判断。

スタジオに、重たい沈黙が流れる。


ミュージシャンの方が、真剣に解釈しようとしてくれているのは、痛いほどわかる。

でも……これじゃ、違う。


「これさ、奏ちゃんのデモの方が良かったな」


椿さんの何気ない一言に、空気がまた変わる。


「奏、これお前が弾けよ」

「でも……私……」


セナ君……そんなこと言っても……セナ君は知ってるじゃない。

私はもう、3年も人前で弾いていない。

この状態で、鍵盤に手を置けるのかすらわからないのに。


「すいません、いったん変わってもらっていっすか」


セナ君がブースの中に声をかける。


「ほら、奏」


……こんな……何人も人がいる前でなんて……

立ち上がれずにいるとセナ君が手を差し出して来る。


「ん」


その手に引かれるようにして、立ち上がる。

ブースへと連れて行かれ……


「お前らもだよ」


セナ君が、メンバーたちに声をかける。


「オレらも一緒に歌うからさ」

「……いいの?」


あまりのプレッシャーに呆然としていると


「音外したらごめんね」

「それフラグやん」

「奏ちゃんの生ピアノ、ちょっと聴いてみたかったんだよね」

「リラックス~リラックス~♪」


全員がブースに入ってきて、私の横に並んだ。


「奏。お前のタイミングでいいから」


音のない空間に、かすかな吐息だけが漂う。

自分の心臓の音が、痛いほど響く。


あぁ、懐かしい。

コンクールの緊張を思い出す。


でも……あの時と違って、今はひとりじゃない。

横を見れば、みんながいる。


大丈夫。


みんなの歌が、いちばんきれいに、格好良くなるように弾けるのは、絶対に私。


「弾きます」


この曲は、ただ“恋に落ちた瞬間”だけを切り取った曲じゃない。

きっと……


10年後も、20年後も、思い出せるような、一瞬の積み重ね。

ひとつひとつ丁寧にすくい上げたような、そんな曲にしたかった。


手を繋いだ帰り道。

夜中に届いた「おやすみ」のLINE。

隣に座って、ただ黙ってテレビを見ていた時間。


その全部が、私にとっての「愛」だった。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


少しでも気になってもらえたら、フォローやお気に入り登録よろしくお願いします。


次の更新は【明日夜】です!


ぜひまた覗きに来てくださいね!

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