第7話「作詞と国語」
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音羽 奏 様
お世話になっております。
株式会社RiseTone Management 制作部の城田と申します。
このたびは、先日ご提出いただきました楽曲につきまして、
弊社所属アーティスト「スターライトパレード」のドラマ主題歌シングル候補として、
採用が正式に決定いたしましたことをご報告申し上げます。
ご提出いただいたデモは、メンバー・プロデューサー・関係スタッフ一同より高くご評価いただき、
特にメロディの情緒性と、歌詞の世界観との親和性が非常に高いと感じております。
ウェディングをテーマにした今回のタイアップ作品としても、
視聴者の心に強く残る楽曲になると確信しております。
今後の制作に向け、下記につきましてご相談させていただければと存じます。
楽曲アレンジについて、演出との整合性を踏まえた細部ブラッシュアップを予定しております。
仮歌音源につきましては、ご自身での対応が難しい場合、弊社にて仮歌シンガーを手配可能です。
使用に伴う契約書類(譲渡契約・クレジット表記など)につきましては、追って別途ご案内いたします。
また、楽曲の歌詞につきましては現在作詞家と調整を進めており、
後日、初稿が完成次第ご確認をお願いする予定です。
メロディとの整合性やイメージに齟齬がございましたら、遠慮なくお申し付けください。
まずは取り急ぎ、採用決定のご報告と、素晴らしい楽曲をご提出いただいた御礼を申し上げます。
引き続き、何卒よろしくお願いいたします。
……—
株式会社RiseTone Management
制作部 A&Rセクション
城田 直也
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メールを読み終えたあと、手が少し震えていた。
指先に、熱が宿る。
心の奥が、じんわりとあたたかくなる。
こんなにうれしいのに……
なんで、いちばんに伝えたい人に、今は連絡できないんだろう。
……あれからずっと、私の方からは、セナ君に何も送れずにいる。
そのまま、テスト期間が始まった。
一気に現実に引き戻されるような日々。
学校、勉強、期末試験……頭がいっぱいで、時間だけが過ぎていく。
でも、その週の終わり。
また、城田さんからのメールが届いた。
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音羽 奏 様
いつもお世話になっております。
株式会社RiseTone Management 制作部の城田です。
先日ご提出いただきました楽曲につきまして、
現在進行中のアレンジ・仮歌収録の準備にあたり、
外部作詞家による**仮歌詞案(初稿)**をご共有いたします。
スケジュールの都合もあり、今回ご提出いただいた音源に合わせて
短期間でご用意いただいた草稿となります。
(※そのため、語彙やテーマにやや定番的な表現が含まれておりますことをご了承ください)
内容について、構成上の違和感や楽曲との整合性などございましたら、
お気軽にご指摘いただけますと幸いです。
必要に応じて修正・再依頼も検討しております。
▼仮歌詞案タイトル:「運命のプロポーズ」
※歌詞本文は別添PDFをご確認ください。
ご確認のほど、何卒よろしくお願いいたします。
……—
株式会社RiseTone Management
制作部 A&Rセクション
城田 直也
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勉強……しなきゃいけないのに、
どうしても、気になってしまう。
「運命のプロポーズ」
そのタイトルに一抹の不安を覚えながら、添付されたPDFを開いた。
君と出会って すべてが変わった
偶然じゃなくて これは運命
この手を離さない 永遠を誓うよ
ラブストーリーは 今始まる……!
最初はなんでもなかった
ただのクラスメイトだった
でも気づいたらドキドキしてた
こんな気持ち初めてで……
……なにこれ。
歌詞、ぜんぶナレーションじゃん。
“永遠を誓う”って……それ、本当に言葉にするの、勇気いるやつでしょ……?
クラスメイト……?え、今回って大人の恋愛のはずだよね?
ラブストーリーは今始まるって言われても……今……??
今まで作ってもらってきた歌詞は、どれもステキなものばかりだった。
でもこれは、あまりにも衝撃で……
さっきまで解いていた方程式が、ぜんぶ頭から吹き飛びそうになる。
何度もスクロールして歌詞を見直しては、ため息が出る。
……これが、私の曲につけられた歌詞……?
メロディと合わさったときの、妙な違和感。
ぜんぜん、イメージしてた“ウェディングソング”じゃない。
頭ではわかってる。
作詞家さんはプロだし、ちゃんと意図があるのかもしれない。
だけど、それでも……
私は、グループLINEを開いていた。
いつもはスタンプやどうでもいい話題で埋まってるこのグループに、迷った末、そっと画像を一枚、送る。
『歌詞案、来たんだけど……ちょっとだけ、意見聞いてもいい……?』
柊真央:……えっ えっ!?これホントに!?wwww
井上信:え、やばくない? “このぬくもりが永遠に”って……卒業ソングかよ
椿翔平:悪い、俺ちょっと吹いた
天野蓮:わぁ……かわいらしい……けど……?
豊田遊里:これ……結婚式で流れたら……泣けないかも
柊真央:泣くどころか笑ろてまうやろwww
諏訪セナ:……だっせぇ
井上信:それな
諏訪セナ:“君の笑顔が僕のゴール”ってお前それマリオカートかよ
柊真央:wwwやめてwww マジでそうとしか聞こえなくなったwww
御影怜央:まぁ……たしかに、メロディと詞がちょっと乖離してるな
天野蓮:なんか……ストレートすぎる?
御影怜央:もうちょっと余白というか、ドラマ性があった方がいい気がする
豊田遊里:うん、ちょっと説教臭いというか……
しばらく、わちゃわちゃと賑やかなやりとりが続いて。
その画面を見つめながら、私は改めて思った。
妥協したくない。
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城田様
お世話になっております。音羽奏です。
仮歌詞案、早速ご送付いただきありがとうございます。
一点、恐縮ながらご相談させていただきたくご連絡差し上げました。
現在の仮歌詞案についてですが、やや表現が直球すぎる印象があり、
メロディやアレンジと照らし合わせた際に、楽曲の雰囲気と異なるのでは……と感じております。
お忙しいところ恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします。
音羽奏
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もっと……気持ちのこもった、なんて言ったらいいんだろう……共感したくなるような詞。
あぁ……テスト勉強しなきゃ。
もっと国語の勉強していたら、私も作詞できたのかな。
……でも、やってみたい。
私でも、作詞に挑戦してみてもいいのかな?
テスト勉強の合間に、少しずつ、書き進めてみる。
けれど……
え……作詞って、こんなに難しいの……?
空の涙が 地面を照らす
あなたといると 光に見える
靴が濡れても かまわない
一緒にいれば あたたかいから
初めて書いてみた詞の、あまりの出来栄えに絶句する。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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