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第4話 奇跡の産物


「さて、と。小林一樹……これって偽名じゃね?」

 

 飯塚 楼は他のホームレスから先ほどやってきた調査員の男の名刺を受け取り、名刺に書かれている電話番号を検索サイトで調べてみた。結果はグリーン、まったく問題ないと出た。


 だが、このグリーンというのが、どうにも引っ掛かる。

 電話番号検索サイトへの問い合わせ回数がほぼ0なのにグリーン……。誰が安全と言い切ったのか? 普通は知らない番号からかかってきた人たちが心配してその番号について数多く問い合わせするもの。その問い合わせの積み重ねで閲覧者たちへ安全かそうでないかをフィードバックする仕組になっている。それなのに急にグリーン判定が出るのはかなり怪しい。


 この場合、電話番号検索サイトにハッカーなどが不正アクセスしてデータを改ざんしたか政府系機関のコントロールが入っているのか。あるいは事業主自体や改変するよう事業主へ金を積んだ企業の仕業の可能性もある。いずれにしても電話番号を操作できる人間は「普通の人」ではない。


 電話をかけても留守電に繋がるか、繋がらないかのどちらかのはず。

 架電するだけ無駄というもの。


「次にAIを使って追跡させていたヤツを見てみるか」


 Webに繋がっている防犯カメラはほとんどが視聴が可能。こういう時のためにウイルスと認識しづらい自己改変型の常駐プログラムをWeb上に大量にバラいている。


 手元のパソコンに映像を出す。水質調査員、小林一樹が会社のロゴの入ったミニバンで移動している。高速を使って数十キロほど離れた街のインターチェンジで降りると、あるビルの地下駐車場へと入っていった。

 地下駐車場及びビル全体のカメラはwebに繋がっておらず、中は確認できない。


 住所検索して確認してみると名刺に書かれている住所と同じビルだった。

 気のせいだったか……。


 最近、大きな取引をしたが、客側のミスでダンジョン庁に違法薬物のあるダンジョンを押さえられたと聞いていたので神経を尖らせていた。考えてみたら客である傲萬製薬側はこちらの顔や名前、国籍すら知らないし、連絡は常にこちら側からの一方通行。少し警戒しすぎかもしれない。


 海外にはダンジョン関連の法整備が甘い国がたくさんある。そのため、いくらでも抜け道があり、未登録の法人ダンジョンを日本へ持ち込む方法だけクリアできれば、あとはさほど難しくない。


 飯塚 楼自体は、富や権力に興味はない。飯塚はとにかくデカいことをしたい。名声だろうが悪名だろうがどっちでもいい。それこそ歴史に名を残すような派手なことができたらそれでいい。


 そのためには金がいる。

 金で買えないものは何か? と問われたら人は時間や健康、信頼関係と答える。

 そんなはずがない。高速道路は時間を金で買うし、大型テーマパークだって待ち時間を大幅に減らせる。金を持っていた方が自分でやることが減る……つまり時間を買っていることになる。健康だって金を持ってないヤツより持っている人間の方が長生きできるし、信頼関係だって貧乏な家族と金持ちの家族なら確実に金を持っていた方がいいに決まっている。金だけがすべてじゃないという奴ら程、金を持ってないし、本当は金に飢えている。


 でも、金なんて所詮は道具に過ぎない。

 世の中で一番難しいのは金を稼ぐことではない。

 ちっぽけな地域とかではなく国、あるいは世界を動かすような偉業。


 どんなに金を持っていても、それができるのは一部の限られた人間のみ。そこに類まれな才能がついてきたとしても「運」という糞みたいなモノが台無しにしてしまうことは、よくある話だ。


 でも、だからこそ面白い。

 この時代は先駆者達が生きていた頃と違って今の時代は「材料」が出尽くしてしまっていた。

 ダンジョンなんてものは12年前まではなかった。後進者にとって、成り上がるためにはまたとない奇跡の産物(おもちゃ)。これをうまく使わなくてどうする?


 法人ダンジョンを扱うのはリスクがあまりにも高すぎる。

 そこで、目をつけたのが個人ダンジョン。

 個人での売買が許可されており、形式上の届けをダンジョン庁に出したら識別番号が付与される。だが、正式な手続きを踏んだら、金は儲からない。なので、ダミーの識別番号付きで個人ダンジョンを販売する。


 そんなに難しい話ではない。

 ただ、安全装置(・・・・)を外して売るだけ。


 安全装置は、プレイヤー同士の殺し合い……いわゆるPvPによるPK(プレイヤーキル)や性行為といった本来解除不可能な倫理コードのことを指す。そしてその倫理コードをクラッキング処理して取り除く。倫理コードを外したくらいで正しい行いのできないヤツなんてどうせマシなヤツはいないから商売は面白いくらいにうまく進んでいる。


 ダンジョンが流通したての黎明期はそれこそ法も秩序もなく渾沌としていた。だが、ダンジョン法が施行されてからは、日本国内ではダンジョンに関する不正は極端に減っていった。だが、それはハッキングの腕がない連中は、の話であり、飯塚からしたら、まだまだ突ける弱点がたくさんある


 市場に出回ってもバレにくいように識別番号の偽造はかなり巧妙に作り込んだ。当局に気付かれるまで1か月はかかると予想している。それまでに金を稼ぐだけ稼いで、共産主義国の口座を使って国内法の手の届かないところで資金洗浄をする予定でいる。


 無能なダンジョン庁特捜部では、飯塚の影さえ見つけられないだろう。

 飯塚はそう高をくくり、あちこちにハッキングしながら電話をかけた。


 自分が自分で「糞」と揶揄した不運(・・)によって身を亡ぼすとは露とも知らずに……。





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