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第35話 消滅


 オガ君が亜理紗へボールを渡した直後、左側の部屋の近くで扉が開く音がした。現在、鬨人と雷汰はやられてしまったので、左側付近にいるのはほぼ間違いなく鬼チームの人間。オガ君は右隣にいるが、消去法で考えると先ほどまで右隣にいたのは麗音。前か後ろに移動した後なんだと思う。


 亜理紗の予想は正しかった。背後の方で扉の音がした。麗音が移動したと思う。亜理紗もまた麗音に続き後方へと下がった。


「いらっしゃーい。って、ちょっと待て! ぐはぁっ」


 亜理紗が移動した後、すぐに鬼チームの男の悲鳴が聞こえた。

 オガ君は先ほど亜理紗がいたC-4の反対側のC-6かD-5のどちらかの鬼チームのメンバーいるマスへ移動したんだと思う。オガ君は正直、チート気味な強さなので、心配無用。武器のハンデなんてあってないようなもの。


 その次のターンでも別の鬼チームのメンバーをオガ君が倒してくれた。これで3対3となり、人数的には振り出しに戻った。


 それから2ターンは大きな動きはなかった。麗音が逃げる方向に亜理紗もついていくと一番後ろ……A列まで戻ってきた。


 麗音は敵陣に向かって右の方へ移動していた。それにしてもおそらく2マス差くらいで着実に鬼チームが追ってきているのがわかる。オガ君もそれに気が付いたのか亜理紗や麗音を追いかけてくる鬼チーム側へ前方を横切る形で部屋を移動している音が聞こえる。


「アリンコだよね? 私についてきて」


 やっぱり、右隣にいるのは麗音だった。アリンコというのは、亜理紗の小学校に入る前についたあだ名。自分で言うのもなんだが、ちいさい頃は割と変わった子だったと自覚している。遊具などで遊ばずに公園の隅っこで蟻の行列や昆虫の生態をずっと観察していたので、小学校に上がってしばらくはこのあだ名で呼ばれていた。今は、麗音が「亜理紗」という本名を相手に知られないように二人だけしか知らない暗号のような使い方をしている。


 麗音になにか作戦があるのだろうか?


 幼馴染であり、誰よりも亜理紗のよき理解者かつ無二の親友。彼女を信じてついていくことに何の躊躇いもない。


 しかし……。


 一手だけ遅かった。

 麗音に続いてマスを進んでいたら左隣の扉が開いた。


「うひゃぁー、女子中学生? 視聴者の連中、ラッキーじゃね?」


 鬼チームの男が入ってきた。皮鎧を着ていて、手にはホウキの柄くらいの太さの鉄の棒を持って肩に乗せている。


「い、いやぁぁぁっ!?」


 アバターで姿を変えているが、人族ではなく、豚獣人(オーク)の姿をしている。口から涎を垂らしていて、それを見ただけで気を失いそうになるのが、なんとか踏みとどまった。


「ボールを持ってまちゅねー、でもオジサンはオネーちゃんと遊びたいでちゅねー」

「うぶっ」


 吐き気が込み上げる。部屋の角に追いやられて逃げ場を失った。鼻が曲がりそうなニオイを漂わしながら太くて毛むくじゃらのゴツゴツとした手が亜理紗の髪の毛を無造作に掴んだ。


「放せ、気色悪いっ!?」

「うげぇぇぇっ、お、俺の腕がぁぁぁぁぁっ!」


 え……どうして?


 亜理紗の髪を掴んでいた豚の化け物の右腕がずるり、と床に落ちた。腕を押さえている豚獣人(オーク)は叫び声をあげた後、今度は首と胴がオガ君によって分断されて崩れ落ちた。


「まあ、()が開いてたから……」


 オガ君のカラダがじわりと白く滲んで、湯気のようにゆっくりと消えていく。


「なんてことを……」

「だって、亜理紗がひどい目に遭っているのを放っておける訳ないだろ?」

「違うっ! そんなこと言ってるんじゃない」


 ダンジョンにはルールを守らないとペナルティーが生じる。普通はダンジョンの中に1日入れないとかそういった類のものだが……。


「だって、オガ君はBANされたら……」

「別にいいよ、ありぽよを守れたら本望だし」


 オガ君は人工AI。亜理紗は今、ダンジョンの中にいるからスマホも形を変えてダンジョンの中にある。だからオガ君がBANされたら、存在そのものが消えることを意味する。


亜理紗(・・・)、俺、お前のことが……」


 最後まで言葉を続けることができずに煙となって空に昇って……やがて完全に消え失せてしまった。


「何してるの!? はやく!」


 隣の部屋から麗音の鋭い声が鉛のように重くなった亜理紗のカラダを叩く。


 亜理紗は声を押し殺したまま、泣きながら麗音の後に続いて前へとマスを進んでいく。左隣方向には鬼チームがまだ2人いる。


 音は少し離れているので2マス分は向こうにいると思うが、確実に追ってきている。ギリギリで先回りされる可能性も捨てきれない。


「亜理紗がボールを持ってるよね? あとはよろしく」

「ちょっと、待って、麗音!?」


 麗音がゴール目前のG列まで来て敵がいる方向……左側のマスを選んだ。正面の扉を選んでいればH列にたどり着けたのに亜理紗を守るために自分を犠牲にした。


「きゃぁぁぁっ!?」


 麗音が向かった左側の部屋……G-5から悲鳴が上がった。すでに鬼チームが隣に来ていた。麗音の計算ではもう1マス向こうだと思っていたのだろう。次のターンで自分が襲われても亜理紗がボールをH列へ運べば勝利となる。だが、隣のマスにいるのであれば、先に鬼チームがマスを移動する権利があるので、次のターンでどっちみち亜理紗も襲われる。


 亜理紗は、麗音の悲鳴が上がった瞬間、脳の中に直接、熱湯を注ぎこまれたような発熱を感じた。脳が焼き切れるほど、人生の中で一番頭を使ったかもしれない。高速で思考を巡らせ、やがてひとつの答えにたどり着いた。


「いいっ!?」


 金色のボールを思い切り振りかぶって全力でH列へ向かって(・・・・・・・)放り投げた。別に人が運ばなくてもボールがH列へ届けばいい。幸いボールは軽かったので10メートルの壁を超えてボールがH列の部屋へと吸い込まれるように消えていった。


(ボールがH列へ運ばれました。ゲームを終了します)


 機械音声が流れて、亜理紗は現実世界へと転移していく感覚に包まれた。













「亜理紗!」

「……あっ」


 目が覚めると、屋上棟屋(ペントハウス)の部屋へと戻っていた。麗音が目を覚ました亜理紗へ抱きついてきた。


「うしろを見てみろ? もう、大丈夫みたいだぜ」


 鬨人が亜理紗の後ろを指をさした。

 振り向くと、相手チームとベンチャー企業の男たち合わせて7人が床に伏せて手を挙げている。


 男たちを取り囲むのは機動隊のような恰好をした人たち。無数の銃口を彼らに向けていて、外にもまだ複数の隊員がライトでこの塔屋を明るく照らしていた。


「ど・い・つ・だ? 亜理紗の髪を掴んだヤツは? この場で死刑に処す!」

「ぁっ、亜理紗……あ、あの人、知り合い?」

「ウ、ウーン誰ダロ……私ハ何モ知ラナイ……」

「なんで片言!?」


 ゴーグルを取った隊員の一人が男たちの髪の毛を二人ずつ両手に掴んで床へ打ち付けている。麗音が声を震わせて亜理紗へ聞いてきた。ダンジョンの中よりよほど怖がっている。


 顔は違うけど、たぶんあれは田中一郎……亜理紗の父親だと思うが、憤怒の形相で男たちを血ダルマにしている父を見て見ぬフリをすることにした。










【Dゲーム時系列】

(1~3ターン)

挿絵(By みてみん)

(4~5ターン)

挿絵(By みてみん)

(6~7ターン)

挿絵(By みてみん)

(8~9ターン)

挿絵(By みてみん)

(10~ラスト)

挿絵(By みてみん)

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