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第14話 黎力



 エリア49と48を結ぶ通路(・・)のところで、セーフティエリアを見つけた。

 個人ダンジョンであれば、セーブもできるが、法人ダンジョンはそうはいかない。ただ、個人ダンジョンも法人ダンジョンもセーフティエリアどちらも転移装置があるのでダンジョン内外を行き来できるのだが……。


「ゲートが閉じられています」

「原因を調べてくれ」

「はい」


 仙台支部の分析班が、転移装置が起動しない理由を斉藤に指示され解析を始めた。


「これは……外側からロックを掛けた跡があります」

「外せるか?」

「1時間くらいあればなんとか」


 斉藤の質問に分析班の男が答える。

 ダンジョンの外部から操作された痕跡があるという。

 

 でも1時間で出られるなら問題ない。

 ここはセーフティエリア内なので、魔物に襲われる心配もない。


 ──そのはずだった。


「あっれー、もう帰っちゃうつもり?」

「……誰だ?」

「そんなのどうでもいいじゃん」


 ドラム缶の大きなものと小さなものが、くっついたような機械人形。

 レトロな見た目で昭和のアニメや特撮に出てきそうなシンプルな外見をしている。


「この転移門を閉じたのはお前の仕業か?」

「まあね。んで? おたくらはどこの飼い犬ですか~?」

「それは答えられないな」

「別にいいや、答えなくて。あとで脳を弄っちゃって直接確認するから」


 斉藤の言葉に対して淡々と告げる。聞く人によってはおぞましい内容で寒気がするだろう。だが、田中もまた悠揚とした態度のまま質問した。


「つまり酒造所の情報はフェイクであり囮」

「へぇ……察しがいいじゃん、異世界イケメン」


 やはりそうか……。

 酒造所は偽情報。

 となるとこの機械人形を操っているのは。


「天才ハッカー、飯塚楼」

「やべっ、名前までバレてんじゃん」

「いつか必ずあなたを捕まえます」

「おお、怖っ! じゃあ、ここで確実に死んでもらっていい?」


 飯塚楼が操る機械人形のクレーンゲームの二本のアームに似た手を挙げる。打ち上げ花火のような赤い煙が尾を引く信号弾を頭上へ向けて撃ち放った。


 大量の機械人形。

 セーフティエリアのはずなのにエリア48とエリア49の両方から姿を現した。まるで死んだ虫に群がるアリの大群のような密度で、神籬のエージェントたちに向かって突進してきた。


「ちょっとこれは多いかなー」

「俺たちが食い止める。作業の手を止めるな!」

「はっ、はいっ!?」


 幼女が怖気づき、マッチョな大男が分析班の男へ指示を出した。


 神籬のエージェントは、ダンジョン発生初期に日本で見つかった虹魔石により、特殊な能力「黎力(アルカナム)」を授かった。


 ダンジョン内では、ほとんどのエージェントが使えるが、ダンジョンの外に出た途端、使えるのは片手で数えるほどしかいないのが問題。田中はその数人の中のひとりだが、斉藤と林は違う。


 少し心配だったが、思っていたより斉藤も林もいい動きをしているのでホッとした。


 斉藤は生命系(パナケイア)と呼ばれる能力の使い手。

 自分の生命力を活性化させて身体を強化したり、他者へ治療を施したりもできる。斉藤は身体強化が得意らしく、身体に目いっぱい黎力(アルカナム)を纏い、機械人形を次々と屠っていった。


「さあ、行っくわよーっ」


 幼女になりきっている林はやはり星幽系(プネマ)だった。

 これまで人類が一般的な解釈にある念動力は視えない力で物を動かしたり折り曲げたりするもの。だが、黎力者(アルカナ)が扱う念動力は、両手から発した透明に近いが、ゆらゆらと歪んで見える陽炎のようなものを飛ばして対象を捕らえることができる。だが、その力だけで金属でできた機械人形をへし曲げたりすることはできない。捕まえた機械人形を持ち上げて隣の機械人形へぶつけたりしている。


 分析班のすぐそばには仙台支部の宮城が控えている。彼は生成系(ジェネレータ)の使い手でコンクリートハンマーを生成して近づいてきた機械人形を叩いてなんとか凌いでいる。


 ちなみに黎力の中でもっとも使い手が少ないのは時空系という能力。神籬では、本部の人間で使える者がひとりだけいる。結界を張ったり空間移動ができる最強の能力で、神籬の切り札といって過言ではない。


 田中はというと炎や水といった自然の力を吐き出せる黎力、自然系(リゾマータ)が使える。この黎力の使い手の割合はもっとも多くとてもポピュラーな能力として知られている。


 その田中は、ほぼ中央で分析班の男のそばで微動だにせず、目を閉じている。


「ツマンね……もっとデキるヤツかと思って期待してたのに」


 飯塚楼に勝手に失望された。

 別に好きに言ってくれても失望してくれてもかまわない。

 田中一郎にとって、なにより家族と一緒にいられる時間がいちばん大事。正直、目の前の機械人形を操っている飯塚楼のことなんてどうでもいい。


 他の人たちが踏ん張ってくれたお陰で、準備が整った。


赭光怪雨(ファフロ・マダー)


 空から紅い光が一筋、機械人形に降り注いだ。照射された肩の部分が赤黒く溶け出し、片方の腕が地面へずり落ちた。


 まばらに降り注いでいた紅い光はやがて激しい豪雨に変わる。

 おびただしい光にやられ、あれほど大量にいた機械人形たちは片っ端から原形をとどめず、バラバラになり地面いっぱいに散らばった。


「名……前を……聞……」

「コードネーム【〇一烏(ぜろいちからす)】」

「今度……ゃんと……り……」


 飯塚楼が操っていた機械人形の目から光が失われ、動かなくなった。


「では早く帰りましょう」

「今、解錠できました、すこしお待ちください」


 田中は、飯塚楼の言い残したことなど気に留めることなく分析班の男の方へ振り返った。


「なぜ急いでいる。大事な約束でもしてるのか?」

「いいえ、ごくありふれた普通の日常を満喫したいだけです」


 斉藤に不思議そうに聞かれたので、正直に答える。

 そう、田中にとって、娘の成長は光の如く速く進む。

 

 一秒たりとも無駄になどできない。

 それが田中の世界のすべてであり、何人たりとも田中家の幸せな日常を壊させなどしない。






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