第12話 違法ダンジョン
「まもなく仙台支部の3人が消息を絶った地点に到着します」
6人乗りのダブルキャブトラックに乗って目的地へと向かっていた。
一度、運転手にお願いしてトラックに停車してもらい、3人とも荷台へと移動した。
深夜の県道。周囲は森に囲まれ、照明はトラックのヘッドライトのみ。
田中、斉藤、林のエージェント3人は荷台に上がると各々3方向に銃を構えたままトラックは再び走り出した。
運転は仙台支部の非戦闘員である分析班が行っている。
立て続けにエージェントが3人も失踪している状況。そのため、田中たち3人は野戦にも適応可能な装備で万全の体制で臨んでいる。
「この先にトンネルがありますが、どうしますか?」
「そのまま進んでくれ!」
運転手から無線で確認があったのでその問いに斉藤が答えた。
狭いトンネル。
車がすれ違うのもギリギリの幅しかない。
「これは……」
田中一郎はあることに気がついた。
通常、ダンジョンゲートはコアの真上に出現し、コアを動かさない限りゲートも動かない。
だが、世の中には、数はとても少ないが、コアから離れた位置でゲートを出現させられるコアもある。そのゲートを手元まで動かすこともできる。そして、おそらくその仕組みを利用した罠に田中たちは、まんまと引っ掛かってしまったようだ。
トラックの後方からかなりの速さでダンジョンゲートが迫ってくる。ゲートがカーブの向こうから見えた瞬間、田中は行方不明の3人が消息を絶った理由を把握した。
仙台支部のエージェント3人はこれでダンジョンに強制転移させられたのか。それも法人ダンジョンなので、セーブができないし、ゲームオーバーは現実世界での死を意味する。やりようによっては痕跡をまったく残さない間接的な殺人も可能である。
だが、このダブルキャブトラックはエンジンを改造している。普通乗用車よりもスピードを出せるので追ってくるゲートになんとか捕捉されずに逃げ切れるかもしれない。
しかし、トンネルの緩いカーブを抜ける寸前にトラックが急ブレーキを掛け、荷台に乗っていた3人はトラックのリアガラスに身体をぶつけた。
トラック自体は完全に止まったわけではなかった。だが、再加速する前に追いついたダンジョンに飲み込まれてしまった。
学校の教室くらいの広さの薄暗い部屋へ出た。
知らない男のぐちゃぐちゃになった死体がすぐそばに横たわっていた。
おそらくトンネルの中で追いかけてきた法人ダンジョンの持ち主。
命を投げ捨ててでも自分たちをダンジョンに取り込もうとするあたり、狂気じみている。どこかのイカれた組織の一員なのかもしれない。
ダンジョンに入るにあたって、これまで身に着けていた銃や防弾ベストといったものは持って中に入れない。代わりに各個人のダンジョンでのキャラクターとそのキャラが所有しているアイテムなどが自動で入れ替わる仕様になっている。
田中一郎は以前、娘の亜理紗のダンジョンで偽装したNPCの姿のままになっている。斉藤は元の世界と同じ見た目のままで身長だけ2メートルを超える大男でセッティングされていた。そして堺支部の林はと言うと……。
「いい趣味してるな林……」
「すみませんすみませんすみません」
斉藤の冷ややかな視線に平謝りする幼女。
どうやら性転換だけではなく幼女願望まで持っているようだ。
林の必死な弁明によると最近見たアニメの主人公に萌えきゅんして、リスペクトからそのキャラになりたいという変身願望が抑えられなくて、なるべくしてなった。と説明を受けたが、斉藤も田中も彼が何を言っているのかサッパリ理解できなかった。
まあ理解できないものを無理やり理解しようとしても無意味。田中は気を失っているトラックを運転していた支援員の他に部屋の隅っこで丸まっている男に近づいて話しかけた。
「仙台支部の応援要請で駆け付けた世田谷支部の田中一郎です」
「宮城史郎です……」
2番目に消息を絶った仙台支部のエージェント。完全に怯え切った目で田中を見上げた。
「他のふたりは一緒ではないのですか?」
田中の質問に宮城はふたたび視線を地面へ落とし、塞ぎ込んだ。
「ばっ、化け物に食べられました」
化け物に食べられた?
神籬の潜入班や調査班、強襲班など現場の人間はダンジョンを訓練の一環で徹底的に知識を詰め込み、戦闘技術を磨いている。ダンジョンで後れを取ること自体、とても珍しい。
「管理者権限も使えねーな」
札幌支部の斉藤大介が自身のステータスウインドウ上を確認した。設定タグ内にあるはずの神籬のエージェントに許されている管理者権限のボタンがグレー表示で選択が不可となっていた。
「現在位置がわかりました……ダンジョンエリア49、最外縁部です」
林はダンジョン内では探知、索敵スキルも使える星幽系の使い手のようだ。
ダンジョンは基本、中心から離れれば離れるほど魔物が強くなる。またエリア49が一番端のダンジョンということは魔物も通常のダンジョンと比べると途轍もなく強いと予想される。
外部との通信もできず、管理者権限も使えない。おまけに最外縁部へ飛ばされる仕様なんてまずありえない。そこから考えられるのは不正に書き換えられた違法ダンジョンである可能性が高いということ。




