中学生以上であれば、誰でもわかる「関税」の説明(概要からメリット・デメリットまで)
「関税」。最近、トランプ現アメリカ大統領関連で、よく聞く言葉だ。
関税の意味するところは長い人類史の中でゆっくりと変化してきたが、現代では「特定の国からの特定の輸入品にかかる税金」を意味する。まずは急がないで、この定義をゆっくり理解していこう。
例えば国Aが国Bからの車に50%の関税をかけたとする。この場合どんなことが起きるだろう?
Bにある自動車メーカーがあって、作った車を世界各国に輸出しているとしよう。この車の値段をわかりやすいように希望小売価格(この価格で売りたいというメーカーの要望)100万円とする。本来ならここで輸送屋やディーラーなどが関わるので、客が払わなければいけない値段はもう少し上がるのだが、ここでは無視しよう。
さて、Aにいるお客さんがBで作られた車を買いたいと思った。値段はいくらになるだろう?
正解は150万円である。なぜなら、『国Aが国Bからの車に50%の関税をかけた』せいで、A国に住んでいる客は50%追加で払わなくてはいけないんだ。
100万円に(100+50)%をかけて150万円である。
このように価格に何%追加という関税の他に、例えば特定の品物1kgにつき何円課税というかたちの関税もある。
例えば、Cという国が「輸入されるすべてのお米に1kgあたり300円の一律関税」をかけている場合、Aで作られたお米も、Bで作られたお米も、Cにくる頃には+300円になっている。
A産のお米が1kgあたり500円ならCで買うと800円。
B産のお米が1kgあたり1000円ならCで買うと1300円である。
唯一Cに住む農家さんが作ったお米だけが、そのままの値段で買える。
そして実は、輸入業者が持ち込む品だけでなく、旅行者が海外で買ってきた物品にも関税はかかるのである。但し、いちいちすべての入国者がなにを買ったかチェックしていては面倒臭い。
だから、例えば日本では「合計20万円以下の持ち込み物には関税はかからない」と決まっている。例えば金を21万円分持ち込もうとすると、関税がかかるのは、20万円分は無視してのこりの1万円分の金だけである。
まとめとして、「関税はその国の政府が決めた輸入品にかかる税金であり、特定の国からの品のみにかかる事もあれば、どこ産だろうとかかる事もある。そして%として決まっていることもあれば、1kgあたり何円と決まっていることもある。そして少ない量に対しては免除する法律が決まっていることが多い」事をまずは納得して欲しい。
では、関税をかける理由とはなにがあるだろう?身構えなくて良いので、深掘りしていこう。
まず、関税は輸入品にかかるという事に注目して欲しい。消費税とかは買う品物全部にかかるのに、国産の品物は関税相手に無罪放免である。なぜだろうか?
関税をかける理由の大部分は、国内の産業を守るためである。さっきの、『国Aが国Bからの車に50%の関税をかけた』例についてもう一回考えてみよう。もし、国Aにある自動車メーカーが120万円の車を販売していたらどうだろう?
関税がもし無かったとしたら、国Bから輸入された車は100万円である。この場合、多くの消費者(商品を買おうとしているお客さん)は、Bの車を買うだろう。ほとんどの状況だと、消費者は安い方を買う。当たり前だ。
そうすると、Aの会社は苦しくなる。みんなAの車を買うせいで、Aの売り上げがほとんどなくなってしまう。そしてこれは、A国にとって避けるべき事態だ。理由は主に2つ。
1つは、Aの経営状況が危うければ潰れてしまうかも知れない事だ。そうしたら、まず失業者の対応をしなければいけなくなる。Aという一会社のことならなんとかなるかも知れないが、これがあるいはA国の自動車産業全体に関わってきたりもする。失業手当てを出さなければいけないかも知れないし、政府への不満もたまってしまうかも知れない。
更に、A社が潰れて、「国民が車を買いたければB社から買うしかない」という状況になってしまったらどうだろう?
例えばB社が急に車を200万円に値上げしたとしても、A社がなかったら国民はそれでも買う以外の選択肢はないのだ。車の値上げは、単に車を買うのを我慢すれば良いかも知れないが、仮にこれが小麦とか米とか肉とかだったらどうだろう?「生活に必要な以上絶対に買わなくてはならないもの」、すなわち生活必需品が海外の生産者頼りだった場合、突然の値上げに対応できなくなる。国内の生産者はセーフティーネットとして必要なのだ。
ある1つの産業がある1つの会社・団体・国に完全に頼り切っている状態をモノポリーというが、上記の理由で避けねばならない。
もう1つの理由は、貿易赤字を防ぐためである。A国の人間がA社の車を買うのは国内でのやりとりであり、A国民からA国民へ金が流れるだけ、すなわちA国の中で金が循環しているだけである。しかし、A国民がB国にあるB社に金を払うのでは話が違う。
B社の車を買うにはB国から輸入をしなければならず、その対価としてAの金がBへと流れる。貨幣の流出だ。そして輸出をする事で国に流れてくる金よりも輸入によって国を出ていく金の方が多い場合、貿易赤字が起きる。そしてこれは様々な悪影響を生み出す。
今回は貿易赤字の具体的な悪影響まで深掘りはしていかないが、代表的なものに貨幣の価値の低下(円安とか、米ドル安とか、そういう類)がある。すると輸入製品の価格が高騰し、インフレに繋がったりする。(これは製品の価格は高騰するのに国民の給料は増えないという意味で、「悪いインフレ」といえる)
以上2つの理由で、同じ産業の外国の会社と国内の会社が競合している時、外国の会社の製品ばかりが国内で売れるのはあまりよろしくないと言える。
お察しの通り、この「外国産の製品ばかりが売れる状況」を防ぐために設けられるのが関税である。結局のところ、関税で上乗せされた金額を払うのは消費者である。150万円の関税込みの車があり、支払われた金額のうち50万円はA国政府に入り100万円は正当にB社へと支払われる。しかし自国(あるいはフリートレード協定を結んだ国)で製造された商品には関税がかからないため、消費者はその製品を買う可能性が高くなる。関税とは消費者がどの製品を買うか干渉するための政府の1手段である。
さぁ、関税をかけて消費者心理に干渉する理由は前述した2つ、「自国産業の保護」と「貿易赤字の解消」である。では関税なんてかければかけるだけよいデメリットのないものか?もちろん違う。すべての政策にはメリット・デメリット両方あることを理解しなくてはならない。
まず、関税なんてものをかけたら相手国からの心象は当然良くない。その国の製品が売れにくくなるのだからこれは当たり前だろう。場合によっては関税に対する報復関税(そっちがかけるんならこっちもかけてやるぞ、という訳だ)を課される場合がある。今のアメリカ・中国間がまさにその状況だ。
また、関税はインフレを引き起こす。関税の課される前と後では同じ品物が値上がりするのだからこれは当たり前だ。インフレの悪影響についてここで詳しく語るつもりもないが、「さらなるインフレを畏れた消費者の買い占め・混乱」、「可処分所得が減った事で起きる娯楽業・観光業・サービス業の鈍化」などが挙げられるだろう。
そして実は、『経済学』という学問そのものの観点から見て、関税は害悪なのだ。
ここで IB Diploma Economics にて教えられる「経済学の意義・定義」を引用しよう。
‘Economics is a social science to study how to deal with people’s unlimited needs and wants with limited resources’
直訳すると、「経済学とは如何にして人間の限りない欲望に限りある資源で対処するのかを学ぶ社会科学である」、となる。
この場合の「資源」には、単純に天然資源(石油や天然ガスなど)だけでなく会社の持つ「人的資源」、人々の持つ「収入・貯金」、政府の持つ「税収入」、そしてすべての者がもつ「限りある時間」などを含むことを留意したい。
経済学は「政府がどのように税収入を分配するのが国にとって一番良いか」から「今日買える高い品と一ヶ月待てば買える安い品どちらが良いか」まで、人間のあらゆる選択を持っている限られた資源の観点から分析する学問ということだ。
さて、これが関税とどのような関係があるのだろうか?
「限りない欲望に限りある資源で対処する」のを目標とした時、最も忌避すべきものはなんだろう?そう、「資源の浪費」である。出来るだけ多くの欲望(言葉が強いと感じたなら、要望・必要な物と読み変えても良い)に限られた資源で対処するなら、求めるべきは効率であり、その対極が浪費である。「どの様な資源の活用方法が、多くの欲望を満たす上で最も効率的か」を探らなくてはならないのだ。
さぁ、関税が害悪である理由が見えて来たのではないか?例えば車を買いたいという欲望を持っているある1消費者を考えて、彼が120万円を持っているとする。先ほどのAとBの例に戻ると、関税がなければ彼はBの車を100万円で購入し、更に余った20万円という資源を別の欲望のために使うことができる。(貯金しても良し、旅行しても良し、より多くの欲望を満たす道は多くある)しかしながら、関税があると、彼は車を買いたいという欲望を満たすには、Aに120万円払うのが最も安上がりであることに気づく。そしてこの20万円は、’dead weight loss’ と形容される。
そもそも経済学において、競争力に劣る会社は消えるのが自然であり尚且つ健全なのだ。限られた資源で欲望に対処するために効率を求めるならば、世界で最も効率的に車を製造することのできる会社に資源を集中するのが、「最も効率的な資源の活用法」といえるだろう。しかし、関税があると、「Bよりも資源を効率的に使うことのできないA社」に資源が流れてしまう。これは「資源の誤った割り当て」(misallocation of resources)であり、経済学の意義と反する物なのだ。この誤った割り当てが起きてしまっている状態を「市場の失敗」(market failure)と呼ぶ。より効率的な活用法が存在するにも関わらず、関税は市場原理的に間違った行動を取らせてしまう。
もちろん、人が自己利益を求める生物である以上、関税は必要悪である。A社が潰れれば会社員の自己利益は破壊されるし、B社が世界唯一の自動車製造会社になったら値段設定はB社の思うがままとなり、また市場の失敗が起きてしまう。世界がいまだグローバリゼーションとは程遠い以上、関税は利用され続ける。
IBDPでの知識をもとにしているため、日本の経済学とは考え方が違う可能性もある。
誤訳には十分注意しているが、発見した場合は忌憚なく伝えてほしい。