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経済のあれこれ  作者: 試験勉強から逃れて落書きする人
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「トランプが課した関税」、「フェアトレードを支持しながらインフレを嘆くバカ」、「大統領選の欠陥」、「教育の重要性」に関する一考察

  さて、この執筆作業が予想を超えて長くなっていなければ、昨今トランプ現大統領の取った関税政策が世間を賑わしているだろう。すべての国に対する一律10%関税に加え、貿易赤字の国に対しては異常とも言える量の関税をかけている。中国に対する125%関税がいい例だろう。そしてトランプ陣営はこの関税の税率は決して適当に決めたのではなく、貿易赤字をちょうど解消する量を算出したのだという。報復関税や加速するインフレの原因となりえる以上関税とはそううまく行くものでもないと思うが、そもそもなぜ貿易赤字を解消したいのだろうか?


  貿易赤字とは端的に言って、輸出によって国内に入ってくる収入より輸入によって国外へと払う出費のほうが多い状態である。Outflow of money(貨幣の流出)と言ったほうが伝わりやすいだろうか。ただ、もちろん金が出入りするだけという単純な状態ではなく、ここに為替が関わってくる。例えばアメリカと日本の貿易を考えてみよう。アメリカが日本へ何かを輸出するとする。もちろんアメリカの製造者が欲しいのはUS$である。しかし日本の顧客が払うのはJP¥。よってここに両替屋的な存在が必要になる。両替屋はJP¥を受け取って、US$を渡す。こうして円滑に貿易が起こり、両替屋はJP¥の在庫が増えてUS$の在庫が減る。お察しの通り、アメリカが輸入する場合は先ほどと逆が起こる。アメリカの顧客がUS$を払い、日本の製造者はJP¥を受け取る。両替屋はUS$を受け取ってJP¥を払うため、US$の在庫が増えてJP¥の在庫が減る。ではアメリカにとって日本との貿易が赤字の際何が起こるだろう?貿易赤字、すなわち輸入がより多いということはUS$をJP¥に変える方がその逆より多いということである。先述の通り、これにより両替屋のUS$の在庫はどんどん増えていく。しかし貿易赤字という事はアメリカの輸出は少ないためUS$の需要(demand)はあまりない。US$の過剰な供給と少ない需要が生み出すのは、価格の低下だ。具体的には「1US$を何JP¥で買えるか」という価格が下がる。米ドル安、という訳だ。これで貨幣の流出が多いなら単により増刷すればいいじゃないかという疑問も解消できるだろう。そしてさらに米ドル安になると、同じ日本の商品を買うためにより多くのUS$を支払わなくてはいけなくなる。(US$の価値が下がったんだからもっと払えという訳だ)貿易赤字でただでさえ輸入が多いのに輸入にかかる金まで多くなったら致命的だ。他国の資源をベースにしている二次産業(主に加工産業)や、天然資源(エネルギーなど)の大幅なインフレに繋がってしまい、結果として国全体の産業や経済が悪影響を受けることとなる。


  では、トランプの今回の関税は多くの悪影響を孕む貿易赤字を解消する上で効果的と言えるだろうか?答えは否である。これはあくまで対症療法でしかなく、原因療法ではないのだ。そもそも貿易赤字が起きてしまうのは、天然資源を輸入しなければいけない加工産業の脆弱性や、国内産業に対して国外産業がより安い・高性能・効率的なせいで起こる輸入の増加などである。結局のところ国内産業の弱さが原因なのだ。よってこの場合の原因療法とは「アメリカ独自の強い産業を開発・アメリカがほぼすべてを輸入に頼っている資源の独自開発・アメリカ国内の業者では不足しているため輸入に頼らなければいけない産業の強化」などである。関税は輸入商品の価格を上昇させインフレを引き起こし、より効率の悪い自国製品を多く購買する事はdead weight lossを生み出す。もちろん、例えば「日本が外国産米に関税をかける」というのは十分納得できるだろう。これにより外国産米の値段が上がったとしても消費者は国産米を買うという選択肢があり、「甚大なるインフレ」は阻止できる。しかし今回トランプが行ったのは一律関税である。これ即ち米国内で賄えるはずもない石油や天然ガス、鉄鋼やレアメタルといった基幹な天然資源にも関税がかかるという意味である。自国で産出しない以上輸入するしかない資源にも関税がかかる以上、「甚大なるインフレ」は最早避けられない。


  ……ではトランプはバカなのだろうか?以上高校(この場合インターナショナルハイスクール)で習う知識によって十分に予測できる未来すら見通せないほど軟弱な陣営なのだろうか?いや違う。今回の主眼はいかに「民衆が愚かなせいで指導者もそれに合わせなければならない」のかである。さぁ深掘りしていこう。


  一律関税が甚大なるインフレを引き起こす、それでいて原因を治療できない対症療法である事は納得いただけただろう。ではなぜトランプは自国産業・輸出業の強化という原因療法を取らないのだろうか?それは民衆の短気さ故である。そもそも自国産業の強化など一朝一夕で起きるものではない。多額の研究投資、多額の基幹産業への投資、強い産業の取捨選択などを数十年単位で粘り強く行って初めてなされるものである。それでいて、必ず成功するとも限らない。研究しようとも無発見、投資しようとも無発展、そして弱い産業を切り捨てると失業、反発、デモ、etc……全部ありえる結末である。しかしリスクを取らねば成長も見込めないのもまた事実。ここは覚悟を決めて押し通すか......と決断すると待っているのは四年後の落選である。繰り返そう、民衆は短気なのだ。数十年後の不確定な成長なんて見通せず、明日にでも生活が良くなる事を盲目的に求めるのだ。「未来よりも現在を良くしてくれ」、成程昔から変わらない人間の行動指針だ。明日の飯に困る発展途上国が森林伐採・焼畑農業を気にしない様に、明日のインフレや失業に困るアメリカ国民は数年・数十年後により酷いインフレを引き起こす関税政策を支持してしまう。未来を見通すだけの知識が無いのか、あるいはあったとしてもどうにもならないくらい明日が厳しく、糊口をしのぐために悪化と知る道を辿らざるおえないのか......まぁ前者であろう。単に知識が無いのである。そしてここに民衆に選ばれた指導者、即ち大統領制の構造的欠陥がある。


  諸君はアメリカなどの指導者たる大統領と日本などの指導者たる首相の違いを知っているだろうか?簡単にいうと、全国民が一票を投じて選ばれるのが大統領、国民によって選ばれた国会議員たちが自分たちのリーダーを選ぶのが首相である。つまり首相の方が知識層によって選ばれるのだ。国会議員は基本的には聡明で、議論にたる経済・金融・法律知識を持ち、国の未来を多角的・客観的に見ることのできる人材である。......こう書くと日本の国会議員が適正なのか少し不安になってくるが、まぁこの説明を受け入れて欲しい。また、国会議員は基本的に高い給料をもらい生活に苦しむことがないため、自分の生活にとって有利な政策を利己的に選ぶ必要性もそこまで高くない。特定の産業に関わる労働者が自分たちの生活が苦しいがために、その産業が国にとってはあまり重要でないのにも関わらず、その産業を後押ししてくれる人に私情によって投票する......そんな事態も起きにくい。首相という体制はそれはそれで末端・貧困層の意見を拾いづらい・富裕層への配慮が大きくなりがち・その他欠点が散見されるが、少なくとも私が先ほど述べたアメリカ政策の問題点を見通せるだけの人材によって国のリーダーが選ばれる。しかしアメリカは違うのだ。資本主義社会では富裕層にくらべて貧困層の方が圧倒的に多い以上彼らの私情が多分に混ざった意見に耳を傾けなくてはならず、また彼らの知識レベルに合わせた政策がいる。「貿易の赤字分だけ関税課すから経済良くなるよ!」なんてまさにといった感じである。


  民衆の経済に関する盲目さ・不勉強さなんて枚挙にいとまがない。筆者はとある国の大統領選に関する街頭インタビューで以下のような場面を見たことがある。


Q。与党を支持するか

A。インフレを止めれていないからヤダ

Q。ではどの政党を支持するか

A。XX党

Q。それはなぜか

A。フェアトレードを推進している先進的な政党だから


  呆れて声もでないとはこの事ではないか?「フェアトレードを推進すればインフレが加速する」のは至極当然の摂理である。にも関わらずインフレを理由に与党を支持しない彼はフェアトレードを約束する政党に投票するというのだ。簡単に振り返ろう。フェアトレードとは、先進国が発展途上国から何かを輸入する際、足元を見て安い金額を払わずに正当な金額で取引する取り組みである。例えば農作物だろうか、発展途上国は得てして農業に従事していることが多く、よってトウモロコシや小麦などの輸出も盛んである。それらを買う際に、対等な貿易相手として先進国から輸入するのと変わらない価格を提示するという訳だ。そしてこれは本当に当たり前ながらインフレを引き起こす。より高い対価を払っているのだから価格上昇は当たり前だ。安く仕入れていたから安い値段でも利益を出して競合他社を追い払っていた様な会社も、適正価格で売らなければならなくなる。トウモロコシは飼料にもなるだろうから、肉製品・乳製品の値段もあがるだろう。そうなれば飲食店、特に安い値段をモットーとするファストフード店なども値上げは避けられない。そしてこれらに一番影響を受けるのは自国の貧困層である。食べ物が支出の大部分を占める彼らにとって、上記のインフレは致命的だ。先ほどのインタビューの回答の馬鹿らしさが伝わっただろうか?経済知識をもっていない人間に国のリーダーの投票権を与えるとこんな状況は幾らでも起きてしまう。


  そもそもフェアトレードとは、自国にほぼ何のメリットもない只の好意である。発展途上国が成長してくれれば第二・三次産業のより良い顧客になる......様な微々たるメリットはあるかもしれないが、基本的には同情と自己満足のためになされる代物だ。そしてこういう類の同情はあくまで自己利益が確保されている時のみ成せるのである。自己を犠牲にしてまで助けようと思うのは家族や親族、精々親友までだ。国籍も文化も言語も、それどころか顔すら知らない相手を助けようと思うのは富める時だけである。余った小銭からは募金できるが貯金を切り崩して募金することは出来ないのが人間の特性だ。というかそういう人間が過去にいたとしてもとっくの昔に食い物にされて生き残れないのだろう。利己的な人間だけが生き残った。とすると見えてくるのは、一種の振り子の様な動きである。先進国が発展し、人権問題や公平性を考えるだけの「余裕」が出てくる。すると(フェアトレードを推進する政党を支持するなどして)発展途上国を助けようとする。しかしフェアトレードの当然の帰結としてインフレが起きてしまう。こうして自己利益が毀損された民衆は、インフレ阻止を掲げる政党を支持する。選ばれた救世主はフェアトレードを停止したり、あるいは続けたとしても大幅に緩和したり、あるいは莫大な関税を課したりして自国の利益を確保する。こうして一時の安寧に辿り着いた民衆は他国に目を向ける......「自身の安定した生活が確保されている→自己満足の追求(他者を助ける)」と「自身の生活が苦しい→自己利益の追求(自身を第一にする)」という二つの端を行ったり来たりを繰り返す振り子の完成だ。「ぐろーばりぜーしょん」だの「ふりーとれーど」だの「かんぜいてっぱい」だの「ふぇあとれーど」だの言ってブイブイ言わせた結果生まれたのは、「アメリカ・ファースト」などと宣い関税を全方面にかけまくる化け物だ。民衆は自己利益と世界全体の利益は共存し得ないことに今や気づきつつあるのだ。これで仮にトランプの関税政策によってアメリカが束の間の経済安定を遂げてしまったらどうなるだろう?自国の利益確保が最優先、が正しい理論だと民衆が盲信した時、『経済冷戦』とでもいうべき関税・制裁・報復合戦が始まるだろう。振り子は最早中心に戻る事はなく、民衆の熱意は角度を間違えた重力となって振り子を「自己・自国利益の追求」側へと引き寄せ続けるのではないだろうか?Market failureなどという単語では生ぬるい、Macro-economics failureが起きてしまう。同情や譲歩を見せた国から食われる冷戦時代......先進国すら経済的に追い詰められ、遂には現実の血に濡れた戦争なんてものを持ち出そうとしても不思議ではない。


  では逆に振り子の中心とはどこなのだろう。自身に直接的利益のない他者を助け自己満足を実現しているのに、自己利益は毀損されておらず生活は安定している状態などありえるのだろうか?フェアトレードに立ち返ろう。フェアトレードで正当な対価を発展途上国にも払う様になると、食料品の高騰は避けられない。また、資源を加工する産業にとってはコストの増加がのしかかる。で、ありながら、生活は苦しくならない状態?簡単である、その分多く稼げばいいのだ。食料品が高騰しても、給料が同じくらい増えていれば問題はない。コストが増加しても、同じ量の商品がより高い価格で売れ続けていれば問題はない。つまり、「自身も経済成長していれば問題はない」。そもそもフェアトレードなんて持ち出さなくても発展途上国が経済成長している限りいつか輸入製品・資源の高騰およびインフレは避けられない。そして人間が『物事を相対的に判断してしまう生き物』である以上、すなわち『どれだけ安い商品であっても昨日より高ければ不満を持ってしまう生き物』あるいは『経済摂理的に正しい状態であっても、あるいは絶対的に恵まれた状態であっても、昨日の自分より苦しいならば不満を持ってしまう生き物』である以上、民衆は反発する。よって『いくら発展途上国が経済成長しようとも、自国も同じ速度で経済成長し続けて結果的に格差は保ち続ける』事によってしか他者を助けつつ自己利益を確保する道はないのだ。では発展途上国と先進国とで経済成長の速度の足並みを揃える事は可能か?いや、先進国が妨害しないと無理だ。よってフェアトレードは歪なのだ。結局はいつかは先進国に追いつく発展途上国を、それによってすら発生してしまうインフレを、わざわざフェアトレードを用いて一足飛びに平等を達成しようとして後押ししてしまう。本当に成すべきは「助けた振りをしながら格差を保ってそこから生まれる甘い汁を享受する事」なのに、愚かな民衆が人権意識や平等を叫んで「本当に助けてしまった結果甘い汁を失って不満をぶちまける」のが今の状態だ。愚かな者が富んでしまうと、そして国のリーダーを選ぶ権利を持ってしまうと、矛盾に満ちた道を歩み始める。


  とても長い文章になってしまったが、結局のところ真に伝えたいのは教育の重要性なのだ。大統領選なんて制度を本当にやって民衆にも投票権を与えるならば、民衆にそれに足る知識が無くてはならない。そしてそれは教育によってのみ達成される。日本は首相という制度を用いて国のリーダーを選ぶ作業を知識層に委託しているからアメリカ程の問題はないが、今のアメリカの現状を見ては、少なくとも知事や市長を選ぶ権利はある我々も、しっかりとした経済知識が必要だと思いはしないだろうか?さぁここまで読んでくれた諸君へ、まとめの修辞的疑問文レトリカル・クエスチョンを持って締めよう。リーダーに知識・教養が必要なのは当たり前だ。だが、こうして国をリーダーに委託して我々の未来を決めてもらえるならば、リーダーを選ぶ側には知識・教養は必要ないか?

  諸君が経済を学ぶきっかけとなれたならこれ以上の幸せはない。

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