【間話】仕切り直しの初デート
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「こ……ここまでするものなの……?」
公爵家に戻って数日、朝早くからメイドに起こされ、入浴に体磨き、香油をたっぷり塗り込まれ揉みほぐされ……ボディラインを若干強調するような素敵なドレスに化粧、赤い髪を結われていた。
「今をときめくウィン卿とお嬢様の王都でデートですもの、当然です……世のご令嬢達に違いを見せつけなくては」
「デート……」
鏡の中の私はほんのり頬を染め、孤児院にいた時も、湯屋を営んでいた時にも見たことのない姿をしていた。
「お綺麗です」
「お嬢様が一番です」
「ウィン卿もイチコロです」
やり切ったと言わんばかりのメイド達が口々に褒め、お世辞だと分かっていても嬉しい。
「ありがとう、あなた達のおかげよ」
迎えに来たウィミリオンは「女神様みたいだ……」と歯の浮くような台詞を吐いたかと思うと紳士的なエスコートをして馬車に乗る。
なんだか手慣れてるーー?
「ここはステーキが美味しいんだ。ロシュ……いや、ルイーズは肉料理が好きだったでしょ?」
王都のお洒落なレストランでテキパキと注文し、飲み物はこれがおすすめーー等教えてくれる。
私達が孤児院で別れてから、ウィミリオンは聖女様達と魔族討伐まで行ったんだもんね。女性の扱いくらい、手慣れていても不思議はないかーー
私の中の“小さくて可愛かったミリオン“が壊れていく。
美味しいかと尋ねられればおいしいと答える。おいしい、美味しいはずだ。
私ちゃんと、笑えているのかなーー。
黒い目隠しをした彼の表情は分かりにくいが、口元は絶えず微笑んでいる。
「ねぇ、ルイーズ……ちょっと付き合って」
高級店が立ち並ぶ通りより少し奥まった衣装店、ウィミリオンに渡された服に着替える。
“公爵家のお嬢様”から“ちょっと良い所のお嬢さん”くらいになったそのワンピースは白地に柔らかいラベンダー色で清楚な印象だった。
この髪型はーー服に合わないよね?
メイド達には悪いが、豪華に結われて髪飾りのついた髪を下ろした。
着替えて出ると彼も着替えていて、街の青年と言った出立ちにハンチング帽を持っていた。
「こっちーー」
店の外へ出て噴水のある広場へ出ると、私を座らせ髪を編んでいく。
「いつも俺の髪、やってくれてたでしょ? 再会したらロシュの髪もやってあげたいと思って……練習したんだ」
「できた!」
そう言われてウィミリオンを振り返るとーー
「あーー」
目元の帯を外しハンチング帽を目深に被った、黒い瞳の彼がそこにいた。
髪はモコモコと編み下ろしにされていて、ありがとう、と伝えるといつかと変わらぬ美しい笑顔が返ってくる。
「こっち! 美味しい串焼き屋があるんだ」
手を引かれて露店通りを歩けば、懐かしい景色と重なる。
香ばしい匂いの串焼きを2本持った彼と、ベンチに並んで腰掛けかぶりつく。
「……どうかな、ロシュ」
「お、美味しい……!」
黒い瞳を子犬のように潤ませ覗き込んできた彼に、そう答えるとパッととろけそうな笑顔になった。
「良かった……! ロシュ、ずっと浮かない表情をしていたからーー」
「……ィミリオン」
「ウィミリオンでも、ミリオンでも好きな名前で呼んで。ロシュに…ルイーズに呼ばれる名前こそぼくの名前だから……。言いたいこと、聞きたいこと、なんでも言って。ロシュに答えられないことなんてもう何も無いから」
大きく熱を帯びた手が私の手を優しく包む。
反対の手が伸びてきて、骨ばった親指で私の口元を拭うとその指をぺろりと舐めた。
「なーーっ」
顔を赤くして硬直する私に、再会した日のようにイタズラっぽく笑ってみせた。
「エスコート」
「ーーえ?」
「エスコートが、手慣れてるなって思ったの」
「……うん」
「レ、レストランもねっ! きっといっぱい来たんだろうなとか、誰と来てたのかなとか」
「うん」
ミリオンの滑らかな頬に手を添える。
「……目元の帯もね、表情がよくわからないなって……」
「うん、ごめんね」
不安げな、情けない表情の自分が黒い瞳に映る。
ソッと色素の薄い睫毛が震え瞼でそれを覆うと、
「ーーーー嫉妬してくれたんだね」
そう言って、最高に幸せだと言わんばかりの笑顔を向けてきた。
「ーーえっ!? 」
理解に一拍遅れる。
「エスコートは、ビビアン嬢で練習させてもらったんだ。ロシュの家族だってその頃には俺だけ知ってたから……ロシュの家族には好かれておいて損はないと思って」
それがあんな勘違いしてるとは思いもしなかったけどね、と呟く。
「レストランは殿下と聖女の護衛で、あちこち散々通ったよ。あ、あのビッ……聖女とは関わりたくなかったから本当に後ろに控えていただけね。メニューはもう暗記しちゃったーーあの店が一番人気だから、絶対にロシュを連れていきたかったんだ」
今ビッチって言いかけなかった?!え、ドキスト18禁展開あったっけーー!?
「ーーそっ」
「この露店通りは偶然知ったんだけど、似てると思わない? ロシュと、グレースさんとかよったあの通りにーー。王都へ来て、辛かった時はここへ来たんだ」
そうなんだ、と言う間もなく矢継ぎ早にまくしたてる。
その様子がなんだかーー
「ぷはっ! そっそんな慌てて言わなくたって! あはは、子供っぽい」
あははははと声をあげて笑った。
「えーー。だって……ロシュに誤解されたままなんて耐えられない」
またしゅんとして俯いたウィミリオンは、間違いなくミリオンだ。
「ーーヨシヨシ」
「おいでミリオン、昔みたいに抱きしめてあげる」
両手を広げてそう言うと、真っ赤な顔で身を屈めてきた彼を座って向かい合った姿勢で抱きしめた。
「……あったかい……ロシュ……」
それはあの頃毎晩聞いた言葉。
広くなった背中を撫でるとビクリと跳ねて、身体を離すとすかさず彼の口を手で覆う。
「ふがふがふーー」
「キスは無しーー!」
しかし黒い瞳が悪戯っぽく歪んだかと思うとベロリと手の平を舐められた。
衣装店で元の服に着替えた帰りの馬車でーー
「それが嫉妬って言うんだよ」
「そっそうなのかなぁ」
「俺が他の人とキスしてたら? ルイーズはどう思うの?」
「ーーーーキス、したの?」
「ーーーーっ」
「ーーその顔は反則」
屋敷に帰ると、若干乱れたドレス姿に、崩された髪に、勘違いしたメイド達にキャアキャアと騒がれたーー
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