前編(メイドはロマンに異議は無し)
登場キャラ紹介
コンデッサ……ボロノナーレ王国に住む、有能な魔女。20代。赤い髪の美人さん。
ツバキ……コンデッサの使い魔。言葉を話せる、メスの黒猫。まだ成猫ではない。ツッコミが鋭い。
ルグル……コンデッサの友人の魔女。
ナナ……ルグルが連れてきた、メイドの少女(実は自動人形)。
物語の舞台は一応、ヨーロッパ中世風・異世界です。但し、設定はかなりテキト~です。
※「前編」+「後編」+「おまけ」の3話構成です。
ここは、ボロノナーレ王国の端っこにある村。
魔女コンデッサ(20代の美人さん!)と彼女の使い魔である黒猫のツバキは、仲良く暮らしていた。
ある日のこと。
コンデッサの家に、同世代の魔女であるルグルが訪ねてきた。
ルグルはコンデッサとは旧知の仲だが、ツバキにとっては初対面のお客様だ。
「いらっしゃいませニャン」
出迎えたツバキは、ちょっと戸惑う。
ルグルが、妙ちきりんな格好をしていたためだ。グルグル模様の眼鏡をかけ、魔女なのに何故か白衣を着ている。更にルグルは、メイドの姿をしている少女も連れてきていた。
コンデッサとルグルが、向かい合う。
「久しぶりだな、ルグル。お前の後ろのメイド服を着ている娘は、もしかして……」
「ええ。貴方の推測の通りよ、コンデッサ。彼女は、私が開発した自動人形――オートメーションドールなの」
『はじめまして、コンデッサ様。ワタシは、ルグル様が開発した万能型自動メイド人形7号です』
7号がコンデッサへ、ぺこりと頭を下げた。
「……7号?」
『〝自動メイド人形・7号〟とお呼びください』
「…………うん」
可愛い声で、自身の名前を告げてくるメイドール・ナナ。年齢設定は、15~6歳くらいだろうか?
対応に迷っているのか、コンデッサが微妙な表情になる。
一方、ツバキは興味津々な様子だ。
「ナナさん……なにょ?」
『ハイ。使い魔のツバキさんですね? よろしくお願いいたします』
「こちらこそ、よろしくニャン」
友好的な雰囲気になる、ナナとツバキ。
気を取り直し、コンデッサはルグルへ言葉をかけた。
「凄いな。お前が魔力で動くオートメーションドールの研究を続けていたのは承知していたが、この〝ナナ〟という名のメイド、どこからどう見ても、人間の少女としか思えないぞ」
「ふっふっふ。そうでしょう、そうでしょう」
コンデッサからの賛辞を受け、ルグルが嬉しそうに笑う。
「で、ルグル。忙しいお前が、なんでわざわざ私のところへやって来たんだ? ナナのお披露目をするため――だけな筈は無いよな?」
「察しが良いわね。ねぇ、コンデッサ。貴方、王宮の魔術師長も、自動人形の開発を行っていることを知っている?」
「ああ」
王族とも親しい関係にあるコンデッサは、魔術師長にも会ったことがあるのだ。
魔術師長は、渋い容貌の中年男性である。王宮勤務なだけあって、その魔術の腕前は確かだ。
「あいつは、既に自動人形の量産化も始めているのよ」
仮にも偉い身分である魔術師長を、ルグルは『あいつ』呼ばわりする。
「そうなのか、凄いな」
「でもね、あいつは今のところ、量産化したメイド人形を自宅に揃え、全員から『ご主人様』と呼ばれてチヤホヤされる毎日に、ひたすら悦に入っているだけなの」
「そうなのか、いろんな意味で凄いな」
「私は、あいつに負けたくない。それで、一刻も早く趣味の範囲を超えた、市場に提供できるオールマイティーなメイド人形を完成させたいと思って……」
「どうして、お前も魔術師長も、自動人形のタイプをメイドに限定しているのか、そこに深い疑問を覚えてしまうのだが」
「〝夢とロマン〟だからよ」
「は?」
「自動人形は〝夢とロマン〟で、メイドの存在も〝夢とロマン〟だから、夢とロマンを追い求める魔女も魔術師も、結局は一緒のゴールを目指してしまうわけ。つまり自動メイド人形の誕生は《魔法世界がたどり着くと決まっていた、輝かしい未来・ロマンの果て――必然と宿命のビッグバン!》なのよ」
「…………そうなのか、あらゆる意味で凄いな」
「話を戻すと、コンデッサには少しの間……そうね、5日間、このナナを預かってもらいたいの」
「ふむ」
「そして、メイドとして扱って、どこかに問題は無いか、不都合は無いか、確かめて欲しい」
「要するに、このオートメーションドールが〝普通のメイドさん〟となって一般家庭で働けるかどうか、それをテストすれば良いんだな?」
「ええ。頼める? コンデッサ」
「分かったよ」
「ありがとう!」
ルグルはコンデッサへ礼を述べ、それからナナへ言い聞かせた。
「ナナ。きちんと、コンデッサの言うことに従ってね」
『お任せください、ルグル様。ワタシはルグル様に造っていただいた、誇り高きメイドール。ルグル様に恥をかかせるような真似は、決していたしません。必ずやコンデッサ様に「なんという素晴らしいメイドだ! ブラボーだ!」と言わせてみせます』
「そこまで張り切らなくても良いわ」
ルグルはナナをコンデッサ宅へ置いて、去っていった。
で。
コンデッサとツバキを前にして、ナナは奇麗な仕草でお辞儀をする。
『ルグル様が迎えにくるまで、5日の間ですが、お世話になります。……違いました。お世話させていただきます』
楽しそうに、ツバキはナナへ尋ねた。
「ナナさんは、何が出来るのニャン?」
『なんでも出来ますよ』
「ニャンでも?」
『ハイ。ワタシは〝万能メイド〟ですから』
ナナの返事を聞き、大喜びするツバキ。
「それじゃ、空を飛んで欲しいニャン!」
『…………え?』
「飛行するのニャ」
しばらくナナは、言葉を発しなかった。
『…………出来ません』
「〝万能メイド〟にゃのに? 嘘をついたニョ?」
『な――っ! 違います! ワタシが持っている《万能》――《一万の能力》の中に、たまたま〝空を飛ぶ〟性能が入っていなかっただけです!』
「苦しい弁明ニャ」
『だいたい【万能メイドにする要求】があったとして、それは料理・掃除・洗濯など家事一般であるのが、普通でしょう!? 「料理をしてくれ――な、なんだ!? この今まで一度も口にしたことが無いような絶品は! 美味すぎる!」とか「掃除をしてくれ――な、なんだ!? チリひとつ、落ちていないぞ。完璧なクリーニング技術だ!」とか「洗濯をしてくれ――な、なんだ!? 汚れが全て消え去っている。見事な仕上がりに、もはや感動するほか無い!」となるのが、当然の流れ。あるべきやり取りです。それを、なんですか! 「空を飛べ」って。それが、いの一番にメイドへ求める内容ですか!?』
ものすごい勢いで、まくし立てるナナ。
ツバキは、タジタジになってしまった。
「ニャン。だって、ナナさんが『ワタシは万能メイドで、何でも出来る』と自信満々に言うから……」
コンデッサが、ナナをなだめる。
「まぁまぁ、落ち着け、ナナ」
『……すみません、コンデッサ様。少しばかり、ヒートアップしてしまいました。優秀なメイドールとして、恥ずかしいです。ツバキさんにも、謝ります。申し訳ありません』
「アタシも、無理を言ってしまったのニャ。反省するニャン」
コンデッサが、パン! と両の掌を打ち合わせ、場の空気を変える。
「良し! それでは、メイドのナナに何を頼もうかな? やっぱり家事を――」
『コンデッサ様。その前に、モード設定をお願いします』
「モード設定?」
『ハイ。ワタシは市場での流通・展開を前提に開発された、自動メイド人形です。そのため、それぞれのお客様が自身の好みに合うように、いろんなタイプの性格を設定できる機能が施されているんです』
「ふ~ん。ややこしいような、便利なような、よく分からん機能だな。どんなタイプの性格があるんだ? 教えてくれ」
『《ハードモード》《ソフトモード》《熱愛モード》《悲哀モード》《反逆モード》《つれないモード》です』
ナナの説明を聞き、コンデッサは、いくぶん警戒した顔つきになる。
「なにやら、不穏な単語が混じっているような気がするんだが…………」
「ご主人様。ナナさんは万能メイドにゃんだから、どのモードでも、きっと大丈夫ニャン」
「ツバキに保証されても、まったく安心できない……」
ツバキ「後編に続くのにゃ」
※自動人形の開発をしている魔術師長の話は、本編『黒猫ツバキと魔女コンデッサ』の「黒猫ツバキとボロノナーレ王国滅亡の危機」の回に出てきます。
( https://ncode.syosetu.com/n0994fw/22/ )
♢
ナナ『賢いメイドであるワタシは〝飛行〟は出来ませんが〝非行〟は出来ます』
ツバキ「いきなりメイドさんにグレられても困るニャン」