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暴竜の心

 ただ一騎立ち向かう竜乗りは、まるでどこから攻めたものか困惑しているようだった。眼前の竜の吐く灼熱の炎を避けながらどうにか後方に回り込むことに決めたようだが、ドラグナージークには分かる。あの翼の起こす猛烈な風が行く手を阻むのだ。

「ウィリー!」

「おう、ドラグナージーク!」

 二騎は合流したが、黒い竜が町へ興味を示す前に惹き付けなければならない。

「お前の懸念通りだった。奴はマグマの中で傷を癒していたのだ。奴には俺達の竜の炎は通用しない」

「牽制ぐらいにはなる。ウィリー、君ほどの猛者なら恐れることも無いだろう。竜の腹から回って後ろを取るんだ。ライン!」

 ラインが立ちはだかる黒い巨大な影目掛けて炎を吐く。ウィリーが動こうとしたが、ドラグナージークは慌てて彼を止めた。

「ウィリー待て!」

 ウィリーが止まると、黒い竜は大きく息を吸い込み、炎を飲み込んだ。そして閉じた口の端々から新たな真っ赤な火が漏れるのを見た。

「散開しろ!」

 ウィリーがそう言い右へ、ドラグナージークは左へ避けた。

 通り過ぎたのは灼熱の塊であった。球体の見える炎はまるで鉄の球の様に飛び、大地を穿ち、炎を燃やした。

 こんな芸当が出来るとは。ドラグナージークは思わず感心していた。

 そういえば、黒い竜は夢の中で私に語り掛けた。先日の牢獄の一件も奴が見せたのかもしれない。しかし、何故。その時、ドラグナージークの中に太く低い声が轟いた。

 これが、運命なのだ! 私はただ大地を破壊し尽くし、生き物を殺戮する。そういう使命を持って生まれただけに過ぎぬ。故に、破壊する! それが破壊神として生み出された我が運命!

「それが本当なら、君を生み出し、遣わした神こそが悪者、諸悪の根源だ! 君には使命に背き、人と共存して行く道もある! 偉大なる黒い竜よ、怒りを鎮め、自分の本心に素直になれ!」

 黒い竜はこちらを見ていた。真っ赤な眼光が苦悩している様を見せた。

「心を鎮めて眠りに就いていても愚かな人間が私を起こしに来る。ドラグナージーク、名誉ある戦いをしよう。貴様が本当に我のことを思うなら殺せ。だが、我も抗う。そして我は負けぬ!」

 腹では無く右手の翼を迂回しようとしていたウィリーが翼に叩き落とされる。

「ウィリー!?」

 だが、黒い竜は咆哮を上げた。全身に、この一帯に激しい音が痺れるように響き渡った。

「分かった、その一騎討ち、受けて立とう」

 ドラグナージークは黒い竜と向かい合った。

 巨体が揺れ動き、口から炎が噴射された。赤々とした紅蓮のそれを避けるが、竜は首の向きを変え追い続けて来る。

 ドラグナージークはラインを竜の懐側に寄せようとしたが、長い尻尾が鞭の様にしなり、それを阻んだ。

 両者は反転した格好だった。

「ウィリー、待て! これは神聖な一騎討ちだ!」

 上昇してくるウィリーを見てドラグナージークは声を上げた。

「勝てるのか!?」

「一度は勝った! 私を信じてくれ!」

 ウィリーは了承したように距離を取った。ウィリーの位置は竜の後ろ、絶好の位置であった。

「行くぞ!」

 ドラグナージークはラインを操り、竜の顔の傍へ来た。一口で騎乗している竜ごと噛み砕ける空間と歯が見えた。

 黒い竜はドラグナージーク目掛けて旋回し、長い首を巡らせ齧り付こうとした。

 ドラグナージークは上昇する。鋭利で大きな歯が並んだ咢が迫る。そして炎が噴き出された。

 そうしていつの間にか雲は黒雲へと変化し稲光を巡らせ雷鳴を轟かせていた。

 ドラグナージークは大きく迂回し、竜の隙が出るのを待った。

 ウィリーが上昇してくるのが見えた。そこにはもう一騎、アメジストドラゴンに乗った影が見えた。

「邪魔をするな!」

 ウィリーが声を上げる。

「国が脅かされているのを黙って見てはいられない!」

 冷厳な女の声だった。

「来るな!」

 ドラグナージークも叫んだ。

 だが、新たに現れた竜乗りは物凄い速さで迫り、黒い竜の背に跳び付いた。

「ぬうっ!?」

 黒い竜が驚いた声を上げる。

「災い滅ぶべし! ベリエル王国に栄光あれ!」

 剣を竜の首に突き立てようとした時、ドラグナージークは黒い竜に向かって炎を吐かせた。ラインの炎は黒い竜に乗り、正に今こそ瀕死の重傷をくれてやろうとするアメジストドラゴンの乗り手に向けられた。

「ドラグナージーク! 邪魔をするな!」

「邪魔なのはお前の方だ! これは私と竜の神聖な一騎討ちだ!」

「我らが戦いに水を差す者よ、我が炎で燃え苦しむが良い!」

 黒い竜がそう言ったすぐ後に、黒い竜の全身から激しい炎が噴き上げた。

「くっ!」

 竜乗りはアメジストドラゴンに飛び移った。

 激しい雨が降り出した。竜の背の炎はそれすらも蒸気としてしまうほどの熱に包まれていた。

「さらばだ! ドラグナージーク! この勝負は預けとする!」

 黒い竜がそう言った時に、ドラグナージークは声を上げた。

「帝国領へ来い! そこでは竜は丁重に扱われている! 私も君を歓迎する!」

「破壊神を手懐けようというのか!?」

 アメジストドラゴンの竜乗りが驚いたように言った。

 黒い竜は頷くように首を動かし、雷雲を突き抜けて消えて行った。その後をアメジストドラゴンが追ったが戻って来た。

「サクリウス姫、何故、邪魔をしたのです!?」

 ウィリーが竜を寄せて、抗議した。

「あれは神竜の末裔などでは無い、憎き帝国に智慧は遅れを取ったが、あれこそ、暴竜の生き残り。殺さねば国は破滅するぞ。そしてドラグナージーク、あれを飼い慣らせると本当に思っているのか?」

 サクリウス姫は兜を脱いだ。金色の長い髪が揺れ、その時、初めてサクリウス姫が右目に黒い眼帯をしているのを見た。これが本来なら私の結婚相手だったのか。ドラグナージークはその美貌と気迫に圧倒されること無く言った。

「飼い慣らすつもりはない。ただ自由に生きていて欲しいだけだ」

「こんなに甘い男がドラグナージークだったとは驚いた。貴様が私の前から去ってくれて逆に良かったのかもしれない。さぁ、貴様こそ、帝国へ帰れ! もう用は済んだ! 後は戦争で顔を合わせるだろうが、私は貴様ほど甘くは無い。覚悟して置け、軟弱者の勇者!」

 サクリウス姫が鋭く言い付けた。

 救援を頼まれた格好のドラグナージークだが、確かにこうなっては敵の領空にいつまでも居続ける気にはなれなかった。

 ウィリーに頷き、姫に一礼して彼は自領へと引き返したのであった。

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