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悪名

 ヴァンの誘いにドラグナージークはかぶりを振った。

「確かにこんなところとおさらばして、ガランに帰りたいとは思っている。だが、皇帝陛下の命令が無い以上、こちら側から仕掛けることはできない」

「面白くねぇ奴だな」

 ヴァンは鼻を鳴らして不満気に応じた。

「それに我々、竜乗りは簡単に引き返せるが、地上の歩兵隊はどうなる? また争いに犠牲が出るぞ」

「冷戦ってのは詰まらねぇな。俺としては白黒さっさとつけたいぜ」

 確かにこのまま自分が老人になるまでいがみ合い、後の世代にまで迷惑を掛けるのはどうだろうか。ラインだって有限の命だし、老いもする。乗り慣れたラインを失くして俺はドラグナージークのまま要られるのだろうか。

「一度、相手にも怖い思いをさせなきゃ、敵さんも調子に乗るだけだぜ」

 ヴァンは尚も抜け駆けの誘いを続けているようにも思える。

 だが、ドラグナージークはかぶりを振った。

 ヴァンは諦め、そのまま竜の隣で寝転んだ。

 程なくして、領空の警備のために、正規兵の竜が三匹飛んで行った。



 2



 正規兵の竜の一匹が戻って来た。慌ただしい様子だ。

「隊長! 隊長はおりませんか!?」

 兵士は竜から下りて門前に呼び掛けた。

「何があった?」

 隊長が飛び出してきた。

「恐ろしく強い一騎に兵が殺され竜は奪われました! こちらの領空内です!」

 ヴァンがこちらを見た。ほら、見たことか。と、言わんばかりであった。

「竜傭兵達、出番だ。行ってくれ」

 隊長がヴァンとドラグナージークを見た。

「敵の領空に逃げられたらどうする?」

「その時は追うな」

 ヴァンは隊長の答えに辟易した様子だった。

「いくぞ、ドラグナージーク。今度こそ、あのおっさんを仕留める」

「ああ」

 そう返事はしたものの、あのウィリーは名の知れた竜乗りだ。斃せば王国側も黙ってはいないだろう。これまでの均衡が崩れてしまう。

 残った一騎の竜は本国へ増援を頼みに飛び立った。

「どうした、行かぬのか?」

 隊長がドラグナージークを見て非難がましく言う。ドラグナージークは迷ったままラインの背に乗り、遠く離れたヴァンの後を追った。

 ヴァンは一騎の竜乗りと刃を交えていた。あの竜の大きさ、色。ウィリーが出て来たのだ。おそらく、ウィリーこそが、抜け駆けをしたのだろう。殺すまでも仕置きをしなければならない。ウィリーの腕を一本斬り落とすとか、そういう仕置きだ。

 ウィリーの笑い声が木霊し、彼はウォーハンマーを振り回していた。ヴァンは果敢に攻めるが、攻撃は受け止められ、敵の竜の体当たりを受けて、大きく揺らめいた。

 ドラグナージークは必死に駆け付け、ヴァンとウィリーの間に立ち、グレイグバッソを抜いた。

「ウィリー、あまり調子に乗らぬことだ。今すぐ領空内から出て行け」

「出たな、ドラグナージーク! 俺はお前の首が欲しいんだ。何年か前にお前は神竜の末裔を一人で斃した。貴様は竜乗りの中の逆賊だ。竜乗りにとって竜がどれほど信頼できるか、愛すべき奴らなのか、お前が知らないとは言わせねぇぞ!」

「あれは仕方が無かった。王国の騎士団の連中が迂闊にも目覚めさせてしまった。ウィリー、聴け、王は竜を殺した私を称賛したぞ。竜乗りの気持ちも知らぬ暗愚な王だ」

「王のことを言える立場か! 竜殺しの外道が! 何がドラグナージークだ! 竜達の逆賊、死ね!」

 ウィリーが体当たりを仕掛けてきたが、ドラグナージークは余裕を持って避けた。

「そらあっ!」

 ヴァンがウィリーに襲いかかる。

 ドラグナージークはその間にウィリーの背に回った。だが、ウィリーのフォレストドラゴンが気付き、毒を噴霧した。

 青紫色の毒の霧をドラグナージークはラインを操り避けた。

 竜殺しの外道か。

 ドラグナージークは次に攻撃に移れば良いものの、躊躇していた。

「ドラグナージーク! 何やってんだ! こいつの背後を取れ!」

 ヴァンが斧をぶつけ合いながら叫ぶ。

「仕方あるまい。主無き竜にしてしまうが、竜を殺すよりはマシだ。私も竜乗りだ」

 ドラグナージークは自らを鼓舞するようにそう言い、ラインを降下させ、ウィリーの無防備な背に向かって剣を振り下ろした。

 が、フォレストドラゴンが動いた。

「しまった!」

 ドラグナージークが声を上げた時は遅かった。剣はフォレストドラゴンの脇腹を切り裂いていた。

 竜が苦痛の声を上げた。

 ウィリーが囲みから脱出した。フォレストドラゴンの腹からは鮮血が吹き出ていた。

「やはりお前はクズだ、ドラグナージーク! その名はもはや地に落ちたぞ!」

「追うぞ、ドラグナージーク!」

 ヴァンが上昇するが、ウィリーは反転し陣地へと戻って行ってしまった。ドラグナージークは、ウィリーとヴァンの背が見えなくなっても、茫然とそちらを向いていた。

 私が斬りたくて斬ったわけじゃない。フォレストドラゴンが庇ったからだ。

 ウィリーの罵詈雑言が脳裏を過ぎり、ドラグナージークは、ただただ浮遊し、苦悩するだけであった。

 竜は愛すべき生き物だ。よく分かっている。だが俺は再び竜を傷つけてしまった。

「逃げられたぜ。手負いのくせによく飛ぶ竜だ」

 ヴァンが戻って来た。

「ドラグナージーク、さっきのことは忘れろ。さっさとな。じゃなきゃ、ウィリーの思う壷だ」

「ああ」

 ヴァンの言葉に幾らか慰められ、ドラグナージークは関へと帰還したのであった。

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