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小競り合い

 鉄杭が刃の様に光る。ウィリーの得物は長柄の鎚、だが、太く鋭い鉄器の付いた武器、ウォーハンマーであった。その太い足で竜の背を踏みしめ、手綱から腕を放して一撃打ち込んで来た。

 避ければラインに当たることになるため、ドラグナージークはグレイグバッソを抜き様に受け止めた。凄まじい衝撃が身を揺らす。

 何て馬鹿力だ。そして手綱を握らない度胸は大したものだ。それほど己の力を過信しているのか、竜を信じているのか。

 二人は次々互いの竜の背で得物をぶつけ合った。

 ドラグナージークもまた手綱から手を放しウィリーに斬りつけた。

 その時、ウィリーの竜が体当たりをしてきた。

 ラインが揺られ、ドラグナージークは後方よろめきあわや落ちるところで手綱を掴んだ。

「悪運の強い奴だ」

 ウィリーが笑う。おそらくこいつにとって戦いこそが楽しみなのだろう。そういう面構えだ。

 ドラグナージークはウィリーに向かって体当たりを仕掛けるヴァンの姿を見た。

 ヴァンの竜はウィリーよりも僅かに小さかったがそれでも大きく揺り動かした。ウィリーがよろめいたところで、ヴァンがウィリーの前に跳び移り長柄の斧を薙いだ。

 ウィリーはそれを辛うじて膝をついて得物で受け止めた。

「ドラグナージーク! 貴様も来たらどうだ?」

 こちらを振り返らずにウィリーが不敵に言った。

 何かを企んでいる。だが、今、無防備な背を逃せばまた打ち合いに終始する羽目になる。

 ドラグナージークはウィリーの竜に飛び移る。

「今だ! ダイナン!」

 ウィリーが声を上げた瞬間、竜が動き、加速しながら上向きになる。

 三人はそのまま空に放り出された。

「ライン!」

 地面を見詰めながらドラグナージークが声を上げると、ラインはドラグナージークの真下に現れた。ドラグナージークは空中で身を返すと、足先からラインの背に乗った。

「よくやった、ありがとう、ライン」

 ドラグナージークが手綱を掴みながら周囲を見ると、ヴァンもウィリーもドラグナージークよりは高度は下だったが、それぞれの竜の上に乗っていた。正直ウィリーの大胆な策略には驚いた。

「お前達の竜も大したものだ」

 ウィリーは高度を上げる。敵のフォレストドラゴンが口を開いた。

 毒が噴霧される。

 ドラグナージークはラインを退かせた。

「お前達二人を釘付けに出来たのは正解だったな」

 ウィリーが言った。

「何だと?」

 ヴァンが問う。その途端にドラグナージークの耳にも入って来た。地上では合戦が行われていた。慌ただしく飛ぶ命令に、気合いの入った咆哮、剣戟の音、関の兵と王国軍が戦っている。

「ヴァン、助けに行け! ここは私が」

「いいや、お前が行け! 竜のデカさだったら俺の方が上だ。奴の体当たりにも殆ど動じないさ」

「ドラグナージーク、逃げるのか?」

 ウィリーの挑発じみた声が聴こえた。

「王国の暴れん坊さんよ、帝国の風来坊が相手になってやるよ」

 ヴァンが二人の間に割り込んでくれたので、ドラグナージークは急降下した。

 地面が近くなり、鉄兜をかぶった敵兵の姿が間近で見えた瞬間には数人を踏み付けにし、ラインは口から炎を撒き散らしていた。

 身を焼かれ悲鳴を上げる者が後を絶たなかった。

 それからドラグナージークはラインを上昇させ、関の前に着地した。敵に逃げ道を残したのである。窮鼠猫を噛むという。敵がもしも背水の陣で挑む様になれば逆転される可能性もある。それに戦争を始めてはいけない。まだまだ睨み合い、小競り合いだけで済ますべきなのだ。向こうの王もこちらの皇帝も正式な宣戦布告をしていないのだから。

 いや、もう何十年も前にどちらも代わる代わる宣戦布告をしてきた。だが、それももう記憶の彼方、期限切れだ。

 ドラグナージークはラインに咆哮を上げさせた。

 凄まじい竜の大音声が空気を震撼させる。

「我々にはドラグナージークが着いている!」

 誰かがそう叫び、こちら側が押し込み始めると、敵勢は一気に撤退した。

 それは空の上もだった。

 王国の竜傭兵ウィリーか。侮れない相手だ。

 兵士らが負傷兵を担ぎ込む中、隣にレッドドラゴンが着地した。

「上手くやったようだな」

 ドラグナージークが言うと、ヴァンが溜息を吐いた。

「こっちの台詞だ。まぁ、ウィリーとか言ったか? 奴一人に俺達は二人掛かりでもあしらわれた。そこだけは肝に銘じておかなきゃな。俺は、ドラグナージークこそが最強の竜傭兵だと思ったが、そうじゃ無かったみたいだな」

「ああ、世界は広い」

 ドラグナージークはそう言った。だが、正直、ヴァンのガッカリした言葉には傷ついていた。自分でも自分こそが最強の竜傭兵、竜乗りだと思っていたからだ。相手にならぬものを相手にし、しみったれた手柄にしているうちに自分自身の技量も勘も錆び付いてしまったのだろうか。

 竜は全部で五匹いた。だが、ドラグナージークとヴァン以外は正規兵の竜乗りであった。その正規兵の模擬戦も見たが、ドラグナージークやヴァンには遠く及ばない。手綱を握り、片手剣で相手にするのが正規の竜乗りの戦いだ。命を大事にすることこそが彼らの信条であるし、恐れでもあった。それに加え、流れ者の傭兵らは名を上げるため、各地を渡り歩いて磨いた危なげない技を持っている。

 いずれにせよ、帝国も王国も手綱に頼った戦い方をしているうちは決着がつくことは無いだろう。竜を信じてこその竜乗りだ。

「ドラグナージーク」

「何だ?」

 見るとヴァンが悪い顔つきをした。

「給与が出るのは良いが、こんな色も無いところにずっと留まるのは俺はごめんだ。お前だって早くガランに帰りたいだろう?」

「と、言うと?」

 一呼吸置いてヴァンは言った。

「抜け駆けしようぜ」

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