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第3話  神になった童貞、奴隷を買う

翌朝、僕はバッチリ身支度を終えて転移した。


目の前の景色が一瞬で自室から小汚い路地裏に変わる。


周囲に人は居ない。


転移する時は今回みたいに目的地から少し離れた人目の無い場所を選ぶようにしてる。


転移魔法はかなり高度な魔法だから目撃されると面倒なんだよね。


路地裏にひしめく家々は石と粘土で建てられていて使用されている石材にバラつきがあり他の家と統一感が無い。


カラフルな景色だが家々は全体的に少し青くなっており、加えて建物には破損や傷が目立ちくすんで汚れている。


へぇ~これがスラム街かぁ。


生活感溢れる景色と鼻を刺す臭いがとても刺激的だね。


観光気分で路地裏を歩く。


表の問題には関与しないのだ。


人の問題に神が首を突っ込むべきでないとこの千年の保守作業でよく分かったからね。


この国の貧困層が聞けば僕のことを非難するかもしれないけど、それが自然だから。


そもそも僕はなりたくて神になったんじゃないし、異世界消滅を解消したんだから良しとして欲しい。


道を進むにつれて見窄(みすぼ)らしい恰好の人達とすれ違う様になった。


皆目を丸くして視線をこちらに向ける。


おかしいなぁ、注目されないように力を隠しているのに。


と思っていたが、僕の服装は純白の長袖シャツとズボンで場違いの恰好だ。


知らない人にガン見されても何食わぬ顔で僕は歩みを続ける。


商店らしき建物をチラホラ見かけるようになった。


民家と同じでボロいお店ばかりだ。


売ってる物もこの辺の住民に手が届きそうな低品質の安価な商品ばかり。


目的のお店じゃないのでスルーする。


暫く歩いていると商店ばかりが立ち並ぶ区画に来ていた。


先程とは違って綺麗で大きい建物ばかりが続く。


良く見るとどの建物の入り口周辺には剣やら斧やらを装備した強面の連中が仁王立ちしている。


警備の人にしては恰好がワイルドだよね。


道にも所々に血の跡が飛散してるしさ。


と言っても今の僕が力に怯えるようなことはもう無い。


厳つい面々に鋭い視線を向けられながらも平気な顔で進む。


怪しげな武器屋やピンク色の看板をした店を過ぎ、この辺りで一番大きな店を見つけた。


「おぉ、あった、あった!」


軽く興奮気味になりながら目的の店まで早歩きする。


胸の高鳴りを感じつつ、強面の人に睨まれながら開かれた広い入り口をくぐる。


「おぉーっ!!!」


ショーケースの様な檻が延々と続いているのを見て、思わず声が出てしまった。


「ん?あんたもしかしてお客さん…ですかな?」


僕の声に反応して小太りしたスキンヘッドの中年が探る様に声を掛けて来た。


赤いベストに高そうな白いシャツと黒いズボンという恰好の小太りのおじさんは道中の人達と同じように目を丸くしてこちらを見ている。


「ええ、奴隷を買いに来ました」



──そう、僕は奴隷を買いに来た。


神のくせに奴隷を解放するどころか購入して奴隷商売を促進させるとはどういうことだという声が聞こえて来そうだが、そんなの関係無い。


僕は田中(いつき)だ。


神だけど奴隷が欲しいんだ。


正直、神の力で人間を創造するぐらい出来るけど、それじゃ僕が設計した通りのDNAになっちゃうから嫌だ。


奴隷じゃなきゃダメなんだ。


日本で残業続きだった頃からずっと憧れてた、僕のロマンなのだ。


僕はずっと1人だった。


彼女はおろか友達も出来た事無い童貞だし、ネットの友達すら居なくてずっと孤独だったんだ。


日本でも異世界でも同じだよ。


神になっちゃって今更普通の恋愛とか友達は出来なくなったしね。


僕は自分を傷つけることの無い存在で心の隙間を埋めたいんだよ。


本気で自分の為だけに奴隷が欲しいと思ってる。


最低だと理解しているけど、それでもやっぱり欲しいものは欲しいんだもの。


だからこの世界を調査した時に奴隷制度があると知って僕はメチャクチャ嬉しかった。


千年もの間一人で正気を保てたのも保守作業が終われば奴隷購入の夢を叶えられると自分に言い聞かせてきたからなんだ。


やっとの思いで自由な時間を得ておいてもっと他にやりたい事無いのかと我ながら思う所もあるけど、そんなの無いよ。


冒険者になったり勇者や英雄を楽しんでみるのも考えたけど、神が表の問題に関与するのはダメだ。


僕はただ、奴隷にあんなことやこんなこんな事をして遊びたいんだよ──



「…お客さん?」


小太り男の声で我に返る。


「あっ、いえ、何でもありません」


小太りのおじさんが不思議そうにこちらを見ている。


「…不思議な御方だ…それで、当店に御越し頂いて申し訳ないが、昨日にシャロルド坊ちゃんが来られて奴隷は全て完売してしまったのです」


え゛えーっ、そうなの??


あれだけ楽しみにしてたのにっ!!


ショックで固まる僕。


そう言えば目の前のズラリと並ぶ檻もよく見ると空だったね。


仕方が無いから違う街の奴隷商店に行くか…。


ん?


あれ、この店小太りのおじさん以外に結構居るみたいだけどな。


サーチという探知魔法で探ると地下に首輪を嵌められた9人の男女が確認出来た。


「あの、他に売って頂ける奴隷はありませんか?」


小太りのおじさんが困った顔をする。


「ですから商品の奴隷は完売して…ああそうだ、今日廃棄予定の奴隷が地下に居ましたな、どんな奴隷でも構わないなら居るには居ますがご覧になりますか?」


意地汚く笑いながら小太りのおじさんがこちらの返答を窺う。


「はいっ!」


即答する僕。


廃棄予定ということは売り物にならない様な訳ありの奴隷なんだろうけど関係無い。


元々好みの奴隷を厳選するつもりは無かったからね。


異世界だけあって皆顔のレベル高いんだよね。


この小太りのおじさんでさえも痩せればブサイクじゃなさそうな面影がある。


「えっ、あの、宜しいのですかな?廃棄予定の奴隷は身体の損傷も…」


「大丈夫ですっ!」


まさか食い気味で承諾されると思わなかった小太りのおじさんは戸惑いの表情を浮かべる。


「わ、分かりました、では私に付いて来て下さい」


「はいっ」


小太りのおじさんについて行き地下へと案内された。


奥には断頭台の様な装置があり床は血まみれで付近の台には大き目の肉切り包丁が数本並んでいるのが見えた。


そして左右にズラリと並ぶ檻には鎖に繋がれた9体の肉塊が床に転がっていた。


垂れ流しの汚物と腐った身体から発する悪臭が地下室に充満しており、小太りのおじさんは顔をしかめながらお洒落な柄のハンカチを鼻に押し当てている。


僕にはそんな事どうでも良い。


ようやくご対面出来たのだから。


なんて可愛らしくて愛しいのだろう。


慈愛と感動の眼差しを奴隷全員に送る。


「買います」


小太りの男はハンカチを鼻に押し当てながら信じられないという顔で客を見る。


顔色変えずに肉塊の奴隷を買おうと言うのも妙だがまだ値段を言っていないのに購入を決めているというのもまた妙に思えた。


加えて最初にこの男を見た時から言葉に表すことが出来ない不思議な感覚を今もずっと感じているのだ。


この男が何者か気になるが、ここノーテム王国のスラム街では代金さえ払えば何者でも問題無い。


「え゛?ゴホッ、ゴホッ、ご覧の通り全員呪いと病気で損傷が激しくもはや人とは思えない状態ですしそもそも元から商品価値の低い奴隷ですが本当に宜し…」


「買いますっ」


またもや食い気味で返答する僕。


「わ、分かりました、あー…では1人金貨3枚でいかがですかな?」


小太りの男がハンカチ越しでニヤリと笑う。


貧困層でない平民の平均的な生涯収入が金貨3枚のご時世で廃棄予定の奴隷1人が平民の生涯収入と同額というのは世界中の誰もがボッタクリだと思うところだ。


せいぜい銀貨2枚が妥当だろう。


しかし、この客はやたらと売り物でも無い廃棄予定の奴隷を買いたがっていた。


もしかすると超割高で買うやもしれないと思うのは商人であれば当然の心理だ。


「全員買いますっ!」


一言返事で客はと両手に金貨を乗せてこちらに差し出す。


「…っ!!?」


両手にはしっかりと大金貨2枚と金貨7枚があるのを見て流石に言葉を失った。


まさかこんな大金を簡単に支払う事の出来る人物だとは。


何者なんだこの客は。


自分が知らないということは王族や貴族ではないし、この無知では商人でも無いだろう、冒険者にしては身体が華奢過ぎる…。


「あの、もしもし?」


「す、すみませんな、臭いがキツくて頭が鈍くなっていた様でして、…では1階の商談スペースで金貨の計量をしましょう」


僕は小太りのおじさんに案内され1階の上質な木製テーブルの椅子に座る。


これで商談が成立したら僕は人身売買したことになるのかぁ。


ムフフッ、この悪い事をしている感じがたまりませんなぁ~。


考えてみれば人を買うだなんて凄い事だよね。


日本人からしたら衝撃的な事だよ、物じゃないんだからさ。


それも1人じゃなくて9人全員の大人買い。


それが全部僕のモノってわけだよね。


いや~夢が叶っちゃった。


えへへ。


「ふむ、大金貨2枚に金貨7枚、重さも丁度ですな…では奴隷契約を行いに参りましょう」


小太りのおじさんは計量器のメモリを確認すると金銭を袋に入れて仕舞い込み、再び僕を地下へと案内する。


ガチャリ


小太りのおじさんが持つ魔法の青い鍵で9つの檻に掛けられた錠を順に開けた。


いよいよだね。


何か凄い緊張して来た。


奴隷商店見つけた時からドキドキしてたけど、今が一番ドキドキしちゃってるなぁ。


何して遊ぼうかなぁ、やっぱりアレ的な事をだな…。


「では順番に奴隷契約を結びますのでまずはこちらへ」


僕は小太りのおじさんと一緒に階段近くの開けられた檻に入る。


檻の床に転がる様にして伏せている肉塊を改めて見る。


一定間隔でヒューヒューとか細い呼吸が聞こえてくるだけで動かない。


髪は無く呪いと病気で身体中の肉がいびつに腫れ、皮膚は緑に変色して紫の斑点が出ていて、隠すつもりもない汚いボロ布が一枚身体に巻かれている。


もはや見た目だけでは性別や年齢は分からない肉塊だ。


「もう心配要らないよ、後で全部僕が治すから待っててね」


僕の小声に反応して小太りのおじさんが振り返る。


「何か言いましたかな?」


「いえ、続きをどうぞ」


「分かりました、ではお手を拝借」


小太りのおじさんが差し出す左手の掌に僕の右手を乗せる。


手と手が触れた瞬間、小太りのおじさんが一瞬ハッとして口が半開きになった。


早くしてよね、おじさんと手をつなぎたい訳じゃないんだからさ。


直に元に戻った小太りのおじさんは床に伏せている奴隷の一番マシそうな身体の部分に触れて魔法を発動した。


契約魔法だね、ズルはしてないみたいだ。


「これで一人目の奴隷契約が済みました、次に参りましょう」


契約が完了した奴隷から首輪を外すと首らしき位置に複雑な模様が浮き出ていた。


へぇーこれが奴隷紋か、中々良い感じだなぁ。


ゲヘへ、これで君はもう僕のモノだからね。


小太りのおじさんと僕は残り8箇所の檻を訪問して奴隷契約を結び終えた。


「これでここに居る奴隷全員の主人があなたになりました、奴隷は先程の契約魔法によりあなたのあらゆる命令に絶対服従であなたを故意に攻撃出来なくなりました」


き、キター!!


遂に奴隷を手に入れましたっ!


今から君達の主人は僕なんだからねっ!


「はいっ、ありがとうございますっ」


「いえいえお買い上げ頂いたのですから礼を言うのはこちらの方ですよお客さん、それで移動はどうされます?台車を使われるのでしたらサービスで差し上げますが…」


「台車なんて必要ないですよ」


「はぁ、ではどのようにして移動なさるおつもりで?」


取引を終えた小太りのおじさんはハンカチを取り出して鼻に押し当て僕を(うかが)う。


僕は直に治療魔法を発動させる。


僕の身体から温かな白い光が溢れ出し、周囲に清らかな風が巻き起こる。


「こ、これは一体…」


小太りのおじさんは何が起きるか分からずポカンと口を開けて僕を見る。


やがて床に伏せている9人それぞれに白い光が現れて全身を覆うと光が弾け、淡い光の泡となって踊る様に周囲を回りながら肉塊に吸い込まれていく。


光の泡が全て吸い込まれると身体の腫れが引いて肉塊だった身体の輪郭が人らしくなり、全身から眩い光を発するようになった。


そして身体の周りに白い光のベールが出現すると上からキラキラした光の粉が沸き起こり七色に遷り変りながら全身に降り注ぐ。


ポワーンという柔らかな音を数回発すると9人と僕から発生していた光が止んだ。


檻の中を見るとそこには健康的な7人の美女と2人の美男子が座り込んでいた。


皆きめ細やかなハリのある肌をしており血色も肉付きも良く、顔は美しく整っている。


さらに女性は皆パンパンに実った大きくて丸い双丘をお持ちで先端の大事な部分以外ボロ布に隠れ切れていない。


どうやら人以外の種族も居るみたいだね。


ヒト族の女性2人、長い耳と金髪碧眼が特徴的なエルフ族の男女2人、エルフ族を褐色肌にした見た目が特徴的なダークエルフ族の女性が1人、頭に角が生えた銀髪褐色肌のオーガ族の女性が1人、金髪碧眼で三角の耳が頭上に生えているのが特徴的な犬の獣人族の女性が1人、青白い肌と金色の眼が特徴的な魔族の男女2人の計9人だ。


うひょー目のやり場に困りますなぁ~。


僕が女性ばかりに目を取られていると檻の中の1人がポツリと声を漏らす。


「…生きてる…」


その一言を皮切りに次々と檻の中から声が聞こえて来た。


「あ、あたし生きてるっ!どこも痛くないっ!」


「信じられないっ!あれだけ死にそうだったのにっ!生きてるぅっ!」


「あ゛あっ良かった私助かったのねっ!」


「えっ、ウソっ、無くなってた身体の半身が生え戻ってるっ!」


どんどん声は増え続け、数分の間地下室は歓喜と感嘆の声で溢れかえった。


そして9人はどのようにして復活したのかを思い出す。


ほぼ全員同時に気が付き汚物が散らばる檻から大慌てで飛び出して僕の前で9人全員が土下座した。


「お礼が遅れまして申し訳ございませんっご主人様っ!」


「「「私達をお救い下さいましてありがとうございますご主人様っっ!!!」」」


代表してか9人の中で一番年長者であろうヒト族の美女が礼を言うと、全員で礼を言った。


おぉ、ご主人様とは何て良い響きの言葉なのだろうか。


そうですよ、君たちのご主人様ですからね。


もっと反抗してくる感じかと思ったらメッチャ従順な態度だったね。


素直にお礼を言って貰えるとやっぱり嬉しいな。


「気にしなくて良いからね、皆元気になったみたいで僕も嬉しいよ」


温かな主人の言葉を聞いて9人の奴隷達は堪えきれず大粒の涙を流したのだった。



ブックマーク登録頂きましてありがとうございます。


ヤル気が出ます!

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