作戦5.自分の魅力を見せつけよう・本番編
―――――――――――― 一ノ瀬未来視点 ―――――――――
「で、一ノ瀬さんちの未来さんは、そんなに必死に勉強してるのかな?」
「べ、別に深い意味はないわよ。2年になったし頑張ってみようかなってだけっ。」
私の親友の一人、黒田潤子のからかったような問いに、私はそう答える。
今私は、潤子に教えてもらいつつ、テスト勉強に励んでいた。潤子はまさにギャルといった風貌に反し、比較的成績上位にいる私に教えられるほど頭が良かった。
前回の定期テストではなんと学年一位を取っていた。
「どんな理由にせよ、私は全力で手を貸しますよ。どんと頼ってください」
そう言ってくれるのは、私のもう一人の親友である戸部葵。キリっとした眼鏡を掛け、誰に対しても丁寧な話し方をする彼女は、とてもいい子だ。いい子なのだが……
「葵はほら、自分の勉強に集中した方がいいんじゃない?」
「葵は目指せ赤点回避だよね~」
「がーん」
頭はあまりよくない。前回240位だと言っていたアイツといい勝負だ。
そう、アイツ。前田進。最も私に対する告白の回数が多かった男。
彼の顔が頭に浮かび、即座に振り払う。
別に、前田との勝負を意識して勉強に励んでるわけではない。はずだ。
度重なる告白は鬱陶しいし、連絡先を交換したのだってお情けのようなものだ。
でも、悪いやつではないと思った。告白も一回一回本気だったように感じたし、真摯に気持ちと向き合う価値はあると、そう感じた。
「今回のテストの頑張りしだいで、遊園地くらいは行ってあげてもいいのかな…」
「未来、なんか言った?」
「なんでもない!」
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向かえたテスト本番。
(解ける…解けるぞ……)
特訓の成果が十全に発揮され、過去最高どころではない会心の出来だった。
「本当に助かった!!」
テスト最終日。すべての科目で最高のパフォーマンスを発揮した俺は、彰に全力で感謝を伝えていた。
「上手くいったようで何よりだ。あとは結果を祈るだけだな」
「ああ。約束通り前回の二倍の奢りをだな……」
「せっかく上手くいったんだ。そんなのいいからパーッと遊びに行こうぜ」
俺の親友がイケメン過ぎる件
「そうだな!優鈴もいくよな…って優鈴?」
優鈴は机に突っ伏したまま動かない。
「どうした?テスト終わったぞ?」
「終わった……」
別の意味で終わったようだ。
「まあまあ、一旦は忘れて遊びに行こうぜ」
彰の言葉で俺たちは学校を後にし、駅近くに向かった。
「私的には進が余裕そうなのが、納得いかないなー」
優鈴の視線が刺さる。
「今回の俺は一味違うからな!彰大先生の地獄の特訓を乗り越えた俺に死角はない!」
「へぇー、さては一ノ瀬さん関係でなんかあったな?」
「なんでわかった!?」
「いや進が特別な理由なしに勉強頑張るわけないし」
確かにそうだ。俺は優鈴に一ノ瀬との勝負について話した。
「私の知らないところで面白そうなことしてるねー」
「こっちは真剣勝負なんだけどな」
「ごめんって。まあでも、勝てるといいね」
「彰の時も思ったけど、無理とは言わないんだな」
「いやだって、」
「「進だし」」
彰と優鈴の声が重なる。
「どういう意味だよ!?」
「これでも褒めてるんだよ。だよね?」
「ああ。それが進のいいところだな」
よくわからないが二人がそう言うならそうなのだろう。
「はぁ~~~!遊んだ遊んだ!」
テスト終了直後の様子が嘘のように元気になった優鈴と3人でゲームセンターで満足するまで遊び、俺達は帰路についた。
「そういえば、今日は一ノ瀬さんと遭遇しなかったな」
ふと思い出したように彰が言う。
「どういうことだよ」
いや、そういえばカフェで遭遇したことがあったな。
「やっぱあの時わかってていなくなったのかっ」
「まあな」
まあなじゃねえよ。
「それで、なんで今日遭遇するってことになるんだ?あれ以降は別にそんなことなかっただろ」
こうして3人で遊びに出かけるのは別に珍しいことはない。
「勘だよ。まあ外れたけどな」
「出た、彰の勘。外れるなんてめずらしー」
「全く……」
そんな偶然が何度もあるわけないだろう。なんて、思ってしまったのがいけなかったのだろう。
「「あ」」
二人と別れ、家に向かう途中でばったりと一ノ瀬に遭遇してしまう。
「い、一ノ瀬。奇遇だな」
「え、ええ。」
気まずい。テストの調子とか聞いていいのだろうか。
「それで、テストはどうだったのよ。私に勝てそう?」
向こうから降ってくれた!俺はやや大げさに答える。
「自信大アリだ。学年2位の彰の猛特訓を受けた俺に隙はない!」
「へえ、随分頑張ったみたいね。まあ、学年一位の潤子に教えてもらいながら普段の倍以上勉強した私に勝てるといいわね」
「え?」
あれ、終わった?
というか、
「そんなに遊園地行きたくなかったのか?」
それなら応じなきゃよかったのに。
「ち、ちが…とにかく!結果、楽しみにしてるから!それじゃ!」
それだけ言うと、一ノ瀬は走り去っていってしまった。頑張ったのは単純にプライドの問題だったのか?
なんか一気に自信なくなってきたぞ。
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そんなつもりじゃ…なかったのに。
潤子たち相手に使った言い訳は、なぜか出てこなかった。
なんで私は、あんなに必死に勉強してたのだろう。
いくら考えても、結論は出せなかった。
大変久々の更新となってしまいました。ジャンプルーキーでの漫画の更新が再開したということで、こちらも再開しました。完結まで頑張ります。