作戦3. 少し距離を近づけよう
翌日放課後。
「来てやったわよ」
いつも告白に使っていた場所である人気のない校舎裏に、約束通り一ノ瀬未来はやって来た。
「ああ、ありがとう。要件はいくつかあるんだけど、まずは謝罪をさせて欲しい。」
俺の身勝手な告白によって、一ノ瀬には多大な迷惑をかけてしまった。
そもそも一度断られても何度も告白するとか頭おかしいだろ俺。
そしてこの謝罪をしない限り、俺は毎日告白してくる嫌な奴ということになってしまう。
つまりこれまでのリセットも兼ねての謝罪となるわけだ。
「いいわよ、別に。アンタがそれだけ本気だってことは伝わったし」
よかった。許してもらえるようだ。
「本当にごめん!許してくれてありが―――――」
「まあ次やったらぶっ殺すけどね」
「誠に申し訳ございませんでした‥‥‥。」
怖すぎる。2度としないと心に誓った瞬間であった。
「そしてここからが本題なんだが、俺はもっと少しずつ距離を縮めるべきだったと思うんだ」
「え、ええ。随分と今更な上に本人に言うようなことではないけど、まあそうね」
「だから!俺と一緒に、遊園地に行ってください!!」
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さらに翌日、教室にて。
「ねぇねぇ彰、進が死んでるよ」
「ああ、なんかだいたい理由は想像できるが、死んでるな。」
俺は朝日に照らされる教室で、死んでいた。
「もうやだ。辛い。死にたい。」
「ねぇねぇ彰、進がかなりやばそうだよ」
「ああ‥‥‥‥思ったよりヤバそうだな。」
俺はあの後、盛大に断られた。あれは思い出したくもない。
一ノ瀬が酷いとかではなく、自分の愚かさが嫌になる。
「で、何があったんだ?」
彰が優しく聞いてくれる。結局良いやつなんだよな。
「お前に言われた通り、俺は少しずつ距離を縮めていこうと思ったんだ。」
「ああ、そこまでは正しいな。それで?」
「遊園地に誘ったんだ。」
「は?」
「一ノ瀬を、遊園地に誘ったんだ。」
「聞こえてるよ。まずいな、大方そんなところだと思ってはいたが、想像を超えてきた。」
「どうすればいい?」
やばい。いつも冷静な彰の顔が引き攣ってるし、優鈴に至ってはもう意識がない。
「あのなぁ、まずお前がしたことがどれだけ無謀なことか理解しているか?」
「ああ、気づいたのは断られた後だが。でもどうすればいいか分からないんだ。」
「連絡先は聞いたのか?」
「あ‥‥。」
その日の放課後、俺は覚悟を決め、一ノ瀬を呼び出す。毎回来てくれるのはとてもありがたい。
改めて惚れ直している間に一ノ瀬はやって来た。
「今度こそまともな要件なんでしょうね?」
「あ、ああ。ええと‥‥どうかしたのか?」
「な、なんでもないわ」
やって来た一ノ瀬は明らかに挙動不審だ。
来てもらっている立場なので決して言えることではないが、しっかり聞いてほしいものだ。
「おねがしいます!俺と、連絡先を交換してください!!」
「‥‥‥‥」
反応がない。しっかり聞いているのだろうか。
とりあえずここでもうひと押ししておく。
「頼む!これまでしたことは謝るしこれから迷惑を掛けることもあるかもしれないがそれについても今謝っておく。でも!一之瀬に対する気持ちは本気だし下心もないんだ!たぶん。だからお願いだ!了承してくれ!!!」
思いつく限りの言葉を並べていく。ここに決して嘘はないが胡散臭いかもしれない。
そして一ノ瀬は流石にこっちに意識を傾けてくれたようで滅茶苦茶迷っている。
俺は言えることは全て言ったので、ひたすらに返事を待つ。
「わ、わかったわ。」
「え?」
「いいって言ってるのよ!何度も言わせないでよ!」
「つまり‥‥」
「そう。」
「連絡先を交換してくれるのか!」
「遊園地に行ってあげてもいいって言ってるのよ」
「「え?」」
これは!
俺は瞬間的に状況を判断し、最適な行動をとる。
「ありがとう!じゃあ遊園地、いつ行く?」
「れ‥んらく‥‥さき?まさか私‥‥かんちが‥‥じゃあ今のはっ‥‥‥!」
「い、一ノ瀬?」
「――――‥‥‥〜〜〜〜っ!」
これは駄目だ。一ノ瀬は顔を真っ赤にして逃げ去っていってしまった。
いや、ここで諦めるわけにもいくまい。俺は一ノ瀬を追うことにした。
3日後。
俺はあの後、一ノ瀬を見失い、そのまま見つけることが出来ずに帰宅した。
おそらく一ノ瀬はあのまま帰ってしまったのだろう。
そしてその日から今日に至るまで、俺は一ノ瀬に避けられ続け、話すことができないでいた。
「なるほど。それで私達に協力を求めて来たというわけですね」
「いーじゃんいーじゃん、うちらが手伝ってあげるよ」
俺が協力を要請したのは、一ノ瀬と仲の良い2人である戸部葵と黒田潤子だ。
「話をしようにも、避けられて目すら合わせて貰えないんだ。それに、話をしたとしても解決できるとは限らない。そこで2人に協力を頼みたいんだ」
俺は2人に向かって頭を下げる。
「それで、私達は何をすればよいのですか?」
戸部の質問はもっともだ。
「俺は一ノ瀬と冷静な状態で話がしたいんだ」
「なるほど〜。つまりうちらに未来を説得して欲しいってわけね」
話が早い。なんか失礼かもしれないが意外だ。
「ああ、そうしてくれると助かる」
こうして交渉は幕を閉じた。
そして次の日の放課後。
俺はいつもの場所に呼び出された。逆の立場なのでとても新鮮だったりする。
「来たわね」
一ノ瀬が時間通りに現れた。
「そっちから呼んでくれるとは思わなかったよ」
「まあ‥‥ね」
説得されたことを後ろめたく感じているのか一瞬自信の無さそうな表情になる。
「とりあえず、この前有耶無耶になった返事をしておくわ」
どんな返事が聞けるのだろうか。
そう思っていると一ノ瀬はスマホを取り出し、画面をこちらに向けてきた。
「連絡先、交換してあげてもいいわよ。ありがたく思いなさいよ、男子と連絡先を交換するなんてアンタが初めてなんだから」
‥‥‥やばい、可愛い。俺は歓喜に打ち震えながらも連絡先の交換を済ませる。
せっかくだから何か送ってみるか。
《よろしく。好きです。》
「なっ、何送ってんのよ!」
「いや、せっかくだし何か送ってみようと思って」
「初めて送るような内容じゃないわよ。バカみたい」
そう言って一ノ瀬はスマホの操作を始める。
《よろしく。ごめんなさい。》
結局振られる俺だった。
ジャンプルーキーにてコミカライズ版を掲載してしております。漫画はツイッターにてイラストなどを投稿している棈木恒賀先生です。
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