ライオンとたんぽぽ
休み時間。
「これ、ありがとう」
そう言って一冊の分厚い本を差し出したのは市川イクタで、どういたしまして、とその本を受け取ったのはスズキ・ロージー。
「どうだった?」
「面白かった。長いこと借りてごめんね」
「いえ、全然ですよ」
「俺、価値観変わりそう」
「ん?よい風に?」
「そうだと思う」
「なら、よかった」
「うん。俺、じいちゃんの本棚、二十歳になったら継ぐんだけど、どうせ二十歳になったら読むんだと思って、今まで本と縁を持たなかったんだ。君のおかげで、価値観変わりそう」
「ええっ?」
「本当なんだ。ありがとう」
「いえ・・・どうしよう、すごいな・・・」
予冷が鳴る。
「あ、もう、戻らないと。また本貸して?」
「喜んで」
「今度は俺から貸せるようになりたいよ」
「嬉しい」
「うんうん、じゃあ、また何かあったら」
「はい」
* * *
それから数か月にわたり、ロージィーが本を貸して、イクタが借りる習慣になった。
とある日の、学校の図書館で待ち合わせ。イクタが先に来ていて、妙にそわそわしている。そこにロージィーがやって来た。
「こんにちは」
「うん」
ロージィーが向かいに座る。
「これ、読んで欲しい」
イクタが胸ポケットから出したのは、生徒手帳ほどの大きさの、紙束。ロージィーはそれを受け取った。
「製本の仕方なんて知らないからさ、ホチキスで留めただけなんだけど・・・一応、本を作ったつもりだ」
「『ライオンとたんぽぽ』・・」
イクタは耳を真っ赤にほほをかくと、そそくさと席を立った。
「気に入ったんだったら、あげるから。じゃあ」
そう言ってイクタはその場を去る。
ロージィーは少しあっけにとられていたが、鉛筆で書かれたその小さな本を読み始めた。